裏切りメシアの主星ジュプス ①話
試験管技術で増えた人類は、テラネスから他の星に移住を始めた。
元々住んでいた星の人々と人類は、いつしか共存が当たり前になっていた。
「おい、また寝坊か」
俺はエリア:チャイカにいる幼馴染(野郎)ユースを待つ。移動といってもただ転送装置のある公共区域にいくだけだ。
あいつは方向音痴で公共区域がそもそもわからない怠けバカである。
「はよー。朝飯のパリエヤの余りで作ったニギリメシ食うか?」
「待ち合わせ五分前にこい!あと食う!」
時間にルーズなのはチャイカ領の人間だけではないが、少しは時間厳守のワコク領のやつを見習ってもらいたい。
しかし自分の領地は飯が不味いので、この旨い飯は羨ましい。
「おまえマキュス星人なのにディーツ星人みてーな事言うなよ」
マキュスは紳士と頭脳の星である。
しかし時間にうるさいからといってよその星はよそだとかで済ますのは違う。
―――――悶着ありつつ中心惑星【ジュプス】に着いた。
都会であり土地は宇宙に浮かぶ数多の惑星の中でも最大規模を誇る。
周りを星国で囲まれながら兵力や民も、他を凌ぐ戦闘力を持つ。
――――俺たちは今日から軍に入る。
前に都心を観光していたところで、武芸大会が開かれていたので参加した。
どういうわけかユースが勝手に名前を書いていて出たら優勝してしまった。
以前から軍からの勧誘は来ていたが、比較的裕福な家庭で生まれた俺は、軍へ入る必要がなかった。
しかし、最後に倒した相手がエタン軍の幹部だったことがまずかった。
正直やる気もない、死にたくもないが、お偉方に目立ってしまったからにはやむを得なかったのだ。
「そうみたいだな」
同じ街で育った古くからの友人ユースも、知識が優れていたことから所属することが決まった。
「しかし普通は逆じゃないか」
俺の祖であるマルキュスは知脳が優れた者だけを残し間引いてきた。
対してチャイカ領地の祖先マールジクスは武力主義だ。
「お前はマキュス人だから知で、オレはマージルクス人だから武の筈なのに軍からの評価が?」
「ああ」
俺はどうにも話の意味や主旨のが通じる相手が少ない。だから理解が早くて助かる。
「オイオイ、お前は料理とかダメだが知識もあって強い。それなら別に知識だけにこだわる必要ないだろ」
「そういうものか?」
ジュプス領地の奴等は真ん中なので満遍ないステータスだ。
俺は純マキュスではないので、たしかに拘る必要もない気もする。
「すみません!すみません!」
「てめー! 10000万ジェールも持ってねーのかよ!」
今はコエマドゲルポが宇宙全土の通過でジェールはかつてエリア:ヨウコクのフランポーネ領地単位だったものだ。
時代遅れなのか嫌がらせか、柄の悪い軍官に、からまれてる気弱そうな青年がいる。
「ちょっと、そこのアナタたち!」
向こうから、声がして 誰かと思い、聴こえた方に振り向くとねじれた髪、薄布のドレスを着た少女がいた。
このジュプス星と同じ色の大粒の玉がついたネックレスを首からさげている。
となればこの少女、貴族だろう。
噂程度だったが、ジュプスの原住民は、皆貴族で、その首飾りを着けている。
先祖がテラネス移住民のと違い、年をとらないらしい。
「……んだてめー!」
男は、少女に殴りかかる。
「やめろ」
俺は左側から少女に向かって振り上げられた拳を、左手で掴む。
右足で腹を蹴り飛ばした。
男は尻餅をついてその場に倒れた。
「いくぞユース」
早くお偉方に挨拶しないとな。
「まって!あんた名前は!?」
「貴族様に名乗るほどのもんじゃないです。」
これ以上面倒事には関わりたくない。 そそくさと建物に入る。
「…お礼いいそびれちゃったわ」
■■■
「……いった!!」
中年の女に髪をひっぱられる。
「ほらきびきび働きな!あの娘みたくなりたくないだろ!!」
私には同年代の友人がいた。
雇い主の一方的ないいがかりで、逆らった少女は、まともな食事を与えられず飢えて死んだ。
友人が苦しんでいたのに何も出来ない自分が悔しい。
けれど私はまだ死にたくはない。
「恨むならクズの国王を恨めぇ!!」
男達は村を襲い、村の人々は皆逃げ惑う。
賑やかな村は一瞬にして静寂に包まれた。
「残忍非道王の従属であるこの村を襲うのは、なんとも愉しいものだ…ん?」
男はフードを少し退ける。
「アニキ、どうした?」
「あの家、まだ生きた人間の気配がするぞ」
リーダー格の男は小さな村には不似合いの家をチラリと見る。
「まーチンケなワコク領の村にしてはデカイ家か……」
同伴している少年もフードにかくれた目を出して屋敷を観察した。
「ここには地主がいるだろう…見に行くか」
少年は扉を蹴破り、バンッと大きな音を立てる。
「おい!誰かいるんだろ!出てこい!」
「うわぁああ…!父ちゃん!母ちゃん!姉ちゃん!怖いよ……!」
壊れた扉の近くには怯えて泣きじゃくる幼い少年がいた。
「この屋敷にはお前だけなのか?」
「うう……」
「ぎゃーぎゃー泣くなガキ、アニキは女と子供には優しいぞ」
怯えていた少年は少しだけ落ち着いた様子を見せた。
「オマエなんでここに残ってんだ?」
「姉ちゃんがいいこで待っていればむかえにくるって」
「ふーん。……にしてもオマエの両親は最低だな、こんなちいせー息子を置いて逃げる親がいるかよ」
男は眉を寄せた。
「ううん。ここに住んでたおじちゃんとおばちゃんは僕の本当の家族じゃないんだもん」
「……」
特例で新人隊した俺達は主星軍の大佐に挨拶に来た。
普通なら新入りが偉い役職の人に会えることは滅多にないが、素行の最終チェックらしい。
「失礼します」
「どうぞ」
女性の声がして中に入ると椅子には20代後半ほどの金髪男性が座っていて、その右斜め後ろに白髪の女性補佐官が立っていた。
「ハイム=デッツです」
「ユースです」
軍隊経験などないので、普通会社の面接のスタンスである。
敬礼は警察、だから心臓のあたりで手をアレするポーズでいいかと思う。
しかし相手も俺達がパンピーであることは知っていてオファーしたのだ。
そのあたりのほうは後々他の先輩にでも聞こう。