異界大罪者 一話 生け贄さん
「誰が神の生け贄なんかになるかってんだ!!」
少年は錆びた鉄格子を破壊し、見張りを突破する。
「逃げたぞ!!」
「追えええ!!」
軽やかに包囲を抜けて、宇宙艦のある場へ着く。
「こんな閉鎖空間で死ぬくらいなら、一度でも他の星でくたばったほうがマシってもんだぜ」
転送装置はどこに飛ぶかわからないが、奴等は今からこの機関ごと消し飛ぶ。
■■
「そんなにいたくないな……」
転送装置はちゃんと飛ばしてくれた。落ちるのは床だろうと思っていたがソファの背もたれにいる。
「あの、いい加減おりてくれない?」
白衣の女性が不機嫌そうに眼鏡を上げる。
「すっすみません」
「まあいいけど、ところで君はだれ?」
記憶をなくして困っている事にしよう。
「あの、僕は誰なんでしょう。ここに来たときから名前も経歴もわからないんです」
名前がないのは生まれたときに親に捨てられ、そのまま名を持たずに通り名や囚人ナンバーで呼ばれていたから本当だ。
「記憶喪失ってやつかしら、ちょうど記憶を喪失した人間に実験体になってほしいと思っていたのよね」
というわけで俺は謎の女の実験体になるらしい。
「私の知り合いが学園をやっているから、その敵が経営する学園の生徒になってもらいたいの」
「記憶をなくしてるのに学園でスパイを?」
「だからよ」
「よくわかんないです(極論だが記憶がなければその間は裏切らないからか)」
「記憶をなくした貴方がスパイをしながら記憶を取り戻せば学園のアラ探しをしつつ記憶を取り戻せて一石二丁でしょう?」
――――ちょっとマジで意味がわからない。
「名前をあげるわ、干刀シガマ。ね」
「どっちが名字なんですか?」
「もしかしてアナタ異星から来たのかしら。地球では苗字、名前の順で名乗るの。他の星だと逆だけどね」
「はあ……」
まあいつもは殺戮者とか言われるくらいで人名を言ったことがないのでどちらでもいい。
「私は愛歩ネマコよ。これから暫くは面倒をみるわ」
■■
「干刀シガマです。これからよろしく」
とりあえず笑って愛想よくしておけばいいだろう。
だがおかしいな、投獄前は外に出れば酒場などで女が寄ってきたのに全然そういう反応がない。
学園という場は勉強するところとしかわからないが、騒ぎ立てるのが禁止なんだろうか。
「歓迎するよ干刀くん、さああそこの席について」
「よろしく」
「ああ……僕は杠エン。よろしく」
なんか、獄中の囚人より暗い奴だな。何人か殺したみたいに眼鏡の奥は目付きの悪い男だ。
これが投獄星の相部屋のやつが言ってた陰キャというやつだろう。
「ねーねーねー!!」
「どこの星から来たの?」
「どこだと思う?」
「お前ってハーフなん?」
「いやクォーター?」
怪我をしたとき闇医者に調べられディーツ星人とマージン人とか色々混じっていると言われた。
どちらも軍系の星なので、俺の戦い好きな性格は遺伝なんだろう。
「彼女いるのか?」
「あーこっち来たときに遠距離で別れたんだ」
彼女いたことなんて嘘だし、もしいたら投獄で別れてただろう。
「モテたんでしょ」
「まさか」
女警官から追われた事はあるがな。
冗談でもモテたなんて言ったらこいつ調子こいてると思われる。
「ハイハイ、質問責めはそこまで」
「はーい」
「僕は学級委員の冬至ラトウだ」
「どうも」
いかにも聖騎士になる爽やかタイプだ。
「ほら、お前も挨拶して「アタシはリリナ、よろしくシガマくん」」
冬至は小さな人形を持ちながらなりきった。
「ああ、うん」
こいつ普通に見えてヤバイ奴だ。これがなければまったく気づかないのが厄介だ。
というか授業とやらはいつ始まるのだろう。
「あのさ、これから何をすればいいんだろ?」
「ここでは自分の好きな事をしていいんだよ」
「勉強しなくても?」
「ああ、俺たち勉強はもうチップに入ってるからさ」
つまり改造手術で知恵もインプット済みなわけだな。
親が金持ちだと知識も買えるわけだ。
「まあ他のクラスは普通の奴等だから、俺たちはただ遊んでると思われてんだ」
「本当だけど、やることないから仕方ないよね」
しかし、こいつらはチップ済みなのに俺は場違いすぎやしないか?
「しかしその様子だと君は普通に学びに来たようだが、何故このSクラスなんだろう?」
「めっちゃお金かかるのにね」
――金かかるなら、なぜネマコはここに入れた?
「たんに空きがないとかでしょ。金に汚い理事のやり口よ」
「スズカったら穿ちすぎ~」
「あなたが考えなさすぎなのよ摩可リイヌ」
「フルネームで呼ぶなんてヨセヨセシイよ」
この二人は仲が悪いらしい。
「はいはい喧嘩しないで~」
「砲亜さんには関係ないことよ」
「そんな言い方」
「毎日毎日うっせーなあ……アタシの安眠妨害すんなよ」
「だって摩可が」
「わたしなんもしてないじゃん!」
「おっはよーみんなー」
――ポニテ女が勢いよくドアを蹴破り、二丁のエアガンで黒板を破壊した。
そしてみんなは静まりかえった。
「二人ともさっき争う声がしたけど、どうしたの?」
「ごめんなさい、言いがかりが過ぎたわ」
「ううん、わかってくれたならいいの」