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短編集

この気持ち、はじけ飛んで_Cider!!

作者: 紫陽花の鼬




          1


 あの人が帰ってきた、という電話が来た。

 私が夏の暑さもじめつく、大学の寮でコンビニのご飯を食べていたときだった。白身フライをかじりかけ、箸をくわえて電話を取っていた私は、慌てて聞き返していた。フライが宙を舞った。

 女の子なんだから自炊しなさい、というのは田舎実家のお母さんの談だけど、私は相変わらず新品の冷蔵庫の中身が空っぽな女である。それに、べつに女の子だからといって炊事洗濯をきちんとやらないといけない決まりはないと思う。


 お母さんには大学の研究で忙しい、なんて断ってはいたが、暇なのは同じ経験がある諸氏しょしならば分かってもらえるだろう。


 でも、その電話は驚いた。

 お隣のお兄さんの帰宅だからだった。



「――ネパールから帰国したんですって」


 その一日後。

 私はすぐに田舎鉄道の車輌に乗りこんでいた。

 おい、忙しいんじゃなかったのか。というツッコミはなしである。


 荷物をまとめるのも慌ただしく、ほとんど私はかき集めの服をトランクに詰め込んだ。夜逃げ魔か、火事場泥棒か――そんな荷物を両腕にかかえて出てきた状態だが、まあ、今着ている服装に関しては自信があるからいいでしょう。と自分を納得させてみる。お気に入りの『よく見える服』なんだから。


 よく――高校生時代の友達と再会して、変わってないねー。と楽しそうにされることがある。ナメていると思う。私という女子力を上げる真っ盛りの大学生様にとっては逆に失礼なことで、メイクも服のセンスも進歩していないと烙印を押されたようなものだ。



 ――ま、まあ。研究で忙しいからね。


 そう突っぱねたが、どれほどの説得力があったのか自分でも怪しい。ともかく、田舎鉄道に乗りこんだ瞬間。懐かしい景色――見えてくる窓外の青空と懐かしい座席に、いつも思い出すことがあった。


 それは、味だ。

 瑠璃色のサイダー。


 私は車窓を思いっきり開けると、髪がゆれる真夏の風の中で。その瑠璃色の瓶を口に運んでいた。

 ありていに言っちゃうと、それはラムネのことだ。

 私の魔法の飲み物。

 瓶入りの炭酸ジュース。美味しい。私が高校の受験で上京しているとき、ほぼ一夜漬けの押し潰されるような不安と、寝不足のやつれきった苦しさの中で、頬にそれが押し当てられた。

 ぎゃっ、と叫んだほど冷たくて、そして眠気が吹っ飛んだ感触だった。

 座席で顔を上げると、そこには駅で見送ってくれたはずのお兄さんが立っていた。肩で、息をつきながら。


『…………お前な……』

『え?』

『なに受験票、母親に預けたまま不安そうに揺られてんだよ……!』


 と。

 ――はい。私以上に地味な、眼鏡の。まるで家庭教師をするためだけに生まれてきたような人だな――と日頃から少し思っていた(失礼)お兄さんが、お怒りモードでそこに立っておりました。とさ。

 それから、長々と車輌の座席での説教。

 正直、疲れました。

 ついでに買ってきてくれた『サイダー』を飲んでいた私がふと気づくと、お兄さんは、黙ったと思っていたら寝ていました。


 すう、すう。と寝息を立てて。

 当時地史学の大学生だったお兄さんは、どうやら私の家庭教師として。一緒に徹夜して――そして、私以上に疲れ切っていたようでした。

 寝顔はわりと男前だな、なんて感じながら、私はコトンコトン揺られる車輌で駅売りらしいラムネを飲んで落ち着きました。後で母に聞いた話、どうやらお兄さんも受験票を忘れたことがあったらしくて、そのときに一緒にラムネと渡されたそう。



 瑠璃色のサイダー。


 それは、夏の味。


 本当は夏に飲むものなんだろうけど、私の場合はコートを着る季節にも味わい深いものがあります。一口、含んだときの泡っぽい甘さ、喉に下るときの弾ける心地。気持ちがいい。


 私は、うだる暑さの田舎駅に下りると。

 真夏の入道雲を背景に、飲み終わった瓶を清々しく売店に置くのでした。


「へへ。お兄さんよ、海外で女日照りを味わったことだろう。華の女子大生の麗しさを見せてあげるから覚悟なさい」








 目的:キャンペーン小説の、より美味しそうな描写をしてみる。グルメ描写?

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