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2014年/短編まとめ

作者ちゃんは、今日も笑う

作者: 文崎 美生

「パサパサする」


ごくん、と口の中の物を喉に流し込む。


すると横から手が伸びて来てスポーツドリンクを手渡される。


ゼロカロリーだ。


水分の失われた口の中にスポーツドリンクを流し入れて、ぷはっと息を吐き出す。


リップクリームが塗られた唇がぷるりと跳ねる。


カーテンの閉められた薄暗い部屋。


明かりはパソコンと携帯とテレビ、それからベッド脇のスタンドのみ。


ベッドの上に横たわって携帯を眺めるのは幼馴染みで、机に向かいパソコンを使っているのがこの部屋の主だ。


カロリメイトを食べ終えた彼女の手は、パソコンのキーボードの上に置かれている。


それから絶え間なく聞こえるタイプ音。


彼女の視線はパソコンのみに向けられている。


高校生でありながら個人サイトを運営し、そこから収入を得ている彼女。


パソコンなどの電子機器の扱いは得意だ。


だが彼女が何よりも得意としているのは、物書きだった。


好きなものを好きなだけがモットーで、ただひたすらに創作を続ける彼女。


一日の大半は創作だ。


「……またランク入りじゃない」


眠そうな声が彼女の耳に響いた。


タイピングを止めずにうん、まぁ、と返す。


自分で運営しているサイトの一つ、オリジナル小説を上げているサイトがあるのだが、それが人気サイトのランクに入っているのだ。


だが彼女の声からしてあまり嬉しそうではない。


何か不満があるの?と問う幼馴染みに彼女は曖昧に笑った。


自分が楽しむことが創作には大切だと、過去に彼女は語っていた。


それ自体には幼馴染みも納得したが、この反応は理解できない。


するとタイプ音がカタタン、と小気味よく鳴って止まる。


キーボードに乗せられず宙を漂う彼女の白い手。


パソコンの光に当てられて青白くも見える。


「楽しむことが創作に必要だとするのなら、サイトを運営するには何が必要だと思う?」


キィッ、と回転椅子が軋む。


ベッドのスプリングを鳴らしながら起き上がる幼馴染み。


薄暗い部屋の中で二人の瞳が交わる。


しばらくの沈黙を挟んで、唇をゆっくりと動かす彼女。


「サイトの運営に必要なのは、読者の心を掴む腕なんだよ」


グッパッと自分の手を握って開いた。


それから溜息混じりに楽しむ事よりも、そちらの方が大事だと彼女は言う。


自分の好きなタイプのサイトにならなかったとしても、閲覧の数が増えればいいのだと。


楽しみたいのに、彼女はそう言っているようだった。


それでもランク入りをキープしておきたいのは、もっと自分の作品を多くの人に見てもらいたいから。


数が少なくても読者は大切。


それでも、もっと多くの人の意見が感想が欲しい。


創作には諦めも妥協も許さないのが彼女だ。


「あぁ、ほら、また増えた」


コツン、と彼女が爪でパソコンの画面を叩く。


そこにはサイトの閲覧者数が出ていた。


「今日も頑張らなきゃ」


彼女は笑う。


彼女の生きる世界では創作が全て。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 創作していると読者の数が気になってきますよね。 私も一時期アクセス解析見まくってました。
2014/10/15 09:53 退会済み
管理
[良い点] 共感できる内容でした。 創作活動をしていれば、必ず当たる壁だと思います。 [一言] 自分の意思を通すか、妥協点をとるか。 葛藤であり、苦しみであり・・・どこまでも続く課題で難題だと思います…
2014/10/15 00:52 退会済み
管理
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