作者ちゃんは、今日も笑う
「パサパサする」
ごくん、と口の中の物を喉に流し込む。
すると横から手が伸びて来てスポーツドリンクを手渡される。
ゼロカロリーだ。
水分の失われた口の中にスポーツドリンクを流し入れて、ぷはっと息を吐き出す。
リップクリームが塗られた唇がぷるりと跳ねる。
カーテンの閉められた薄暗い部屋。
明かりはパソコンと携帯とテレビ、それからベッド脇のスタンドのみ。
ベッドの上に横たわって携帯を眺めるのは幼馴染みで、机に向かいパソコンを使っているのがこの部屋の主だ。
カロリメイトを食べ終えた彼女の手は、パソコンのキーボードの上に置かれている。
それから絶え間なく聞こえるタイプ音。
彼女の視線はパソコンのみに向けられている。
高校生でありながら個人サイトを運営し、そこから収入を得ている彼女。
パソコンなどの電子機器の扱いは得意だ。
だが彼女が何よりも得意としているのは、物書きだった。
好きなものを好きなだけがモットーで、ただひたすらに創作を続ける彼女。
一日の大半は創作だ。
「……またランク入りじゃない」
眠そうな声が彼女の耳に響いた。
タイピングを止めずにうん、まぁ、と返す。
自分で運営しているサイトの一つ、オリジナル小説を上げているサイトがあるのだが、それが人気サイトのランクに入っているのだ。
だが彼女の声からしてあまり嬉しそうではない。
何か不満があるの?と問う幼馴染みに彼女は曖昧に笑った。
自分が楽しむことが創作には大切だと、過去に彼女は語っていた。
それ自体には幼馴染みも納得したが、この反応は理解できない。
するとタイプ音がカタタン、と小気味よく鳴って止まる。
キーボードに乗せられず宙を漂う彼女の白い手。
パソコンの光に当てられて青白くも見える。
「楽しむことが創作に必要だとするのなら、サイトを運営するには何が必要だと思う?」
キィッ、と回転椅子が軋む。
ベッドのスプリングを鳴らしながら起き上がる幼馴染み。
薄暗い部屋の中で二人の瞳が交わる。
しばらくの沈黙を挟んで、唇をゆっくりと動かす彼女。
「サイトの運営に必要なのは、読者の心を掴む腕なんだよ」
グッパッと自分の手を握って開いた。
それから溜息混じりに楽しむ事よりも、そちらの方が大事だと彼女は言う。
自分の好きなタイプのサイトにならなかったとしても、閲覧の数が増えればいいのだと。
楽しみたいのに、彼女はそう言っているようだった。
それでもランク入りをキープしておきたいのは、もっと自分の作品を多くの人に見てもらいたいから。
数が少なくても読者は大切。
それでも、もっと多くの人の意見が感想が欲しい。
創作には諦めも妥協も許さないのが彼女だ。
「あぁ、ほら、また増えた」
コツン、と彼女が爪でパソコンの画面を叩く。
そこにはサイトの閲覧者数が出ていた。
「今日も頑張らなきゃ」
彼女は笑う。
彼女の生きる世界では創作が全て。