壱‐弐
部屋を出て行った織達は、狸組の待機している部屋へ向かうことにした。
「タツさんから何処に集合か聞きそびれちゃったしね。」
甲がけらけらと笑った。
長い廊下を歩いていると、先ほど織達を見事に捕まえた狐面を見つけ、絃が手を振った。
「あ、狐さん。お~い。」
「皆さん。こんにちわ。絃さん、私は宇賀野ですよ。」
狐さん。ではなく宇賀野は皆に気づくと軽く頭を下げ、絃に注意をした。しかし、絃は悪びれもなく言い返す。
「えェ…。狐さん、いつも狐面被ってるし、ぴったりだと思うんだけど…。」
「ねェ~。」と絃が同意を求めると、宇賀野以外の全員がうんうんと首を縦に振った。
「………。」
無言になる稲穂。そんなことはお構いなしに四つ頭はキャッキャという効果音が聞こえるようなテンションで話しを続けた。
「あ、そうだ!狐さん、聞いてよ!さっき僕ら、タツさんに面倒な仕事押し付けられたんだよ~~。」
甲が不満たっぷりの口調で宇賀野に訴えると、織も一緒になってぶうぶうと言い始めた。
「そうそう、タツさんたら「喜べ。」とか言っちゃってさ~。」
「ぶっ。」
織の、「喜べ。」のモノマネがツボったのか、宇賀野が珍しく吹いた。
そんなふうにしていると、廊下の向こう側から高いような低いような、奇妙な声が飛んできた。
「おい!狐組!遅いぞ。」
絃と優がそれに気付いて声を上げた。
「「あっ!ポン太さん!」」
「ぽ…っ!?」
「狐さん!またね。」
話していた宇賀野に別れを告げると、宇賀野も軽く手を振った。そして織たちは、ポン太…ではなく
「お前ら!変なあだ名付けてんじゃねえよ!オイラは明夫だ!」
に向かっていった。
「揚げ夫さん!僕たちを探しに来てくれたの?」
あからさまな言い間違いである。ボケているのが見え見えの甲に(あるいは見え見えにしているのかもしれないが)明夫は声を荒らげた。
「明夫だ!あ・け・お!揚げ物みたいに言うんじゃねえ!遅れてんだよ、早く行くぞ!」
甲の後ろで絃と優が「ナイス突っ込み!」と言ったのは、明夫には聞こえていなかったようだ…。
しかし、ここで終わるはずだった明夫とのコントは、怒りを誘う達人・織(通称)によってぶり返されてしまう。
「でも…明夫よりまだ揚げ夫のほうがいいんでない?」
その時ピキンと甲、絃、優、の中で何かがハマり、明夫の脳内でけたたましく警報が鳴った。
「よぉし!おま「「「確かに!」」」……。」
明夫の抵抗なんぞ無いのも同じ。そして白黒赤茶の弾丸(?)トークが始まる…。
「やっぱり!?そうだよね!明夫ってなんか違うなって思っててサ!いや~言い間違えてよかった~!」
「うん。揚げ夫の方がおも…かっこいいよね~。」
バタバタと袖を振って言う甲の言葉を次いで、うんうんと頷く絃の台詞に、明夫が口を挟もうと、
「おい、さっき面白「脂っこそうで近づきたくはないけど!」………。」
したが出来なかった。優が言葉をかぶせて遮ったのだった。「解る!」という絃と甲の爆笑する声が廊下に響き渡る。明夫は口を開いたまま固まり、その体は小刻みに震えていた。…確信犯かなんて知らない。私も命が惜しい。
「まあ、揚げ夫も良いけど、やっぱり一番はさ…。」
始めが織なら終わりも織か、揚げ夫トークに終幕が近づこうとしていた。所々割愛したところがあるのは許した頂きたい。長かったのだ。明夫という狸の妖怪については、また後ほど(揚げ夫の事も併せて)。皆は、織に合わせて揃って親指を立てて、言った。
「「「「ポン太でしょ!」」」」
同時と言って良いだろう。四度ゴツンという鈍い音が聞こえ、そのあとにきっちり四回うめき声が上がった。明夫は右の拳をさする様に庇うと、凄みを効かせていった。
「さっさと行くぞ。付いてこいや。」
「「「「…イエッサ。(手、痛かったんだ。)」」」」
ポン太さんはすぐに手が出るからいけない。そんなことを織達は明夫に気づかれないような小さな声で言っていた。
今回も見て下さりありがとうございました!なるべくぐだぐだな内容にならないように、苦心しています。(ギャグって意外と難しいですね)次回も覗いていただけると嬉しいです。それではまた次回…。