壱‐壱
「…全く、お前たちはいつになったらまともな働きをしてくれるんだ?」
眩しい金色の髪の男は、渋面で机を挟んだ向かい側で、面を外し、表情を露わにして、床に正座したカラフルな四つの頭にそう言った。
「タツさん。怒ってるね。」
黒髪の少女は赤い瞳を隣の銀髪の少年に向けながらそっと囁いた。銀髪の少年は金の瞳を目の前の男へ向けたまま、あろうことか。部屋の中全員にバッチリ聞こえる声で返事をした。
「ほんとにね。血圧上がらないのかな。」
室内騒然。隣の黒髪の少女・絃は「言いやがった…。」とつぶやき、栗毛の少女・優は深い溜息をこぼし、赤髪の少年・甲は堪えようともせず、盛大に吹いた。
「……織。」
タツさんと呼ばれた男は、呆れたように銀髪の少年・織の名前を呼んだ。
「お前は。本当に…。」
織は、次の言葉が出てこないタツさんに向かって茶化すような声色で言葉を重ねた。
「あれェ…タツさん?どうしたんですか?もしかして…図星…。」
「呆れて声も出ない。」
タツさんこと龍臣は、低い声で織の言葉を遮った。眉間のしわは先程よりも大分深くなっている。織は攻撃の手を緩める気はないらしく、次のネタを探しているようだ。絃が何かしきりに話しかけているが…止めようということではないようである。龍臣のデスクの横に控えていた補佐官の鳥海は失神しかかっている甲と、それを睨む優も含めざっと状況を確認した後、軽く肩を竦めると、
「とりあえず、元々の目的へ戻しますか。」
とつぶやき、手をパンッと、広い室内に響き渡るほど強く叩いた。
「「「「「!?」」」」」
龍臣も含めた五人はびくりと肩を揺らし、室内にはしん、と静かになった。
「織くん。絃ちゃん。甲くん。優ちゃん。それに、総統。」
鳥海は先ほどの龍臣よりもドスのきいた声で一人ひとり名前を呼んでいく。そして名を呼ばれると皆、顔を青くした。
「皆さん静かにしましょうね?」
その時の鳥海の顔は、歴代二位に入るくらい、黒かったという…。
「さ、総統。要件を済ませてしまって下さい。仕事はまだまだあるんですから。」
鳥海に急かされた龍臣は、ごほんと一つ、わざとらしい咳をして、すっかりおとなしくなった四人に向き直った。
「喜べ。騒がしいお前たちに一つ、仕事を用意してやった。」
「喜べ」という言葉に輝いた四人の目はすぐに落胆の色に染まった。
「うえぇ。」
「なんでそうなる…。」
「いらない~。」
ぶうぶうと声を上げる四人に、鳥海の視線が刺さった!
「「「「どんな仕事ですか!」」」」
龍臣は次から四人の説教は鳥海に任せようかと真剣に考えた。という話は秘密である。
「詳細は狸組の奴らから聞け。この任務は狸組との合同で行う。」
「狸組」というのはこの組織の中にある隊の中の一つのことだ。ちなみに、識達は狐組である。
狸組と聞いて、識達のテンションはドンと上がった。
「え、狸の人達とやんの?」
「やった!楽しくなりそうじゃん!」
「イジリ放題…。」
「だね。」
後半に不安を感じるセリフを聞いた気がする。が、スルースキルをフル活用するとしよう。
龍臣は水を得た魚のようにはしゃぐ識達に釘を刺そうと言葉を重ねた。
「これは大切な任務だ。お前達は、あやかし物たる自覚を持ち…。」
が、
「総統。聞いてません。」
鳥海の声に龍臣が下げていた視線を上げると、両開きの扉からゾロゾロと部屋から出ていく識達が目に入り、そして消えていった。
「っ…!」
慌ててガタンッと立ち上がると、龍臣は声を張り上げる。
「待てっ!お前たちっっ。人の話をっ最後までっっ聞かんかぁぁっっ!」
「五月蝿いです総統。」
「っ…す、すまん…。」
鳥海からの注意を受けすごすごと、勢いで後ろに飛ばしてしまった椅子に座りなおす。そして龍臣はふっと思った。
『俺の立場って、一体…。』
気苦労の絶えない、残念な、総統こと龍臣なのであった。
やっと四人の名前を出せました。最初から出しておけば…と、少し反省しております。今度は狸組の子達と共に、この世界の説明とか、織達のいる組織の説明とか。そんなことを話させようかな。とか、話してもらおうかな。とか考えております。遅くなってしまうかと思いますが、気長に待っていただけると嬉しいです。