出会う話
今日もきれいだなぁ。
かっこいいなぁ。
きれいな髪に、きれいな瞳に、きれいな体つきに、きれいな手…。
私の…“僕”のものにしたいなぁ。
三日前。
文化祭が近づいてきていた。クラスではコスプレ喫茶をすることになっていた。
いやだなぁ。こんなの、いやだなぁ。コスプレなんて、いやだなぁ。
私は頬杖をついて窓の外を見ていた。
クラスの人たちは私には目もくれずに、準備に急いでいた。バタバタとうるさい。
やだなぁ。やだなぁ。最悪だなぁ。帰りたいなぁ。
「ねぇ、美月さん」
「…なん、ですか?」
それはクラスの人気者、東野くんだった。
私は少しうつむきながら返事をする。
「美月さんって、絵、上手だったよね?チラシ作ってもらえないかな?」
「なに、描けばいいの?」
「ん~…」
考えるしぐさをしていた。
クラスの女子たちの目がいたい。小さい声で「何アイツ」「生意気なんだけど」「オタクが」と言っていた。
このクラスだけ、以上にリア充が多かった。ほかのクラスはアニオタが多かったのに、私だけハズレをひいてしまった。
「コスプレだから、いろんな服を着た人を描いてもらえば」
「……わかり、ました」
私はそう返事した。
いやだなぁ。
最悪だなぁ。
クラスの女子たちにいびられるに決まってる。もうやだなぁ。
がすッ。
「ねぇ、何描こうとしてんの?」
ほら、きた。
最悪だなぁ。
「描くなら、この雪乃さんにしなさいよ?ひらっひらの純白のドレスがいいかしら?」
クラスの女子たちのトップ、雪乃さん。裏の通称“雪の独裁政治”。
このクラスの女子を全員下につけてみせた雪乃さん。私が最初に“奴隷”になった。
「モデルはわ・た・し!わかったわね?」
「………はい」
こう返事しなければいけない。それはわかってた。
やだなぁ、やだなぁ、やだなぁ。
* * *
アイディアが思いつかない。
雪乃さんを描くのはきまっていたけど、服がおもいつかない。
「まだ残ってたんだ?」
「…東野、くん?」
私の前の席の椅子に東野くんがすわった。私の机のうえで頬杖をつく。
いやだなぁ。話しかけないでほしいなぁ。
「…これ、雪乃さん?」
「…!描けって、いわれて」
「ま、“裏の独裁者”だからね…」
東野くん…?
たしか、東野くんは、雪乃さんの“お気に入り”だったはず。それは東野くんもしっていて、実は付き合っているっていう噂もあったようなきがする。
「俺、気に入られても困るんだよね。どっちかっていうと、大人しい人のほうが好きだし」
「そう、なんだ」
「うん、そう」
にこりと笑ってみせる東野くん。その笑顔は夕日にてらされて、綺麗に私の瞳にうつった。
………きれいだなぁ。きれいだなぁ。うつくしいなぁ。
「…雪乃さんのこと、どうおもっているの?」
「……正直言って、嫌いかな?」
「…!」
私は息がつまった。
雪乃さんのお気に入りの東野くんが、そうおもっていたなんて。
東野くんは、私の唇に指をあてた。
「これ、内緒ね?」
片目を瞑ってみせる。ウィンクのつもりだろうが、ヘタっぴだ。
かわいいなぁ。かわいいなぁ。かわいいなぁ。
そっと、東野くんは私の唇から指をはなした。
私に再び笑いかける。
「絵のアイディア、俺も一緒に考えるよ」
それが、私と東野くんの出会いだった。