王妃様と侍女
前話、観察日誌の解決編(??)です。
ここはアンバー王国王都ディアモンド。
先日から様子のおかしかった王妃付侍女のパールだったが、王妃レティエンヌの観察により『恋煩い』ではないかと判明した。・・・あくまでもレティの中ではだが。
「パール?お話を聞かせてほしいんだけど?」
超絶かわいいスマイルを全開にして、レティはパールに詰め寄った。
「うっ・・・。な、何をですか?」
レティのかわいさに瞬殺されそうになったが、なんとか踏み止まり問いかけるパール。
「ん?パールがここの所ずっと上の空だった り・ゆ・う!」
にこーーーっと笑うレティ。
うっ、と引き攣り笑いになるパール。
こういう、無邪気さを前面に押し出してきている時のレティには、誰も勝てない。
「えーとですねぇ・・・。」
言いよどむパール。目が泳ぐ。
すると。
「パールは事務官のペリドットくんが好きなのね?」
ずばり。レティが核心をついた。
見る見るうちに顔を赤くするパール。
「レっ、レティ様!!どどどどど・・・」
どうしてそれを!と言いたいのだが動揺が過ぎて言葉にならない。
「ちゃーんとパールのことを見てましたもの!ふふふ!」
自分の予想が当たっていてご機嫌になる。
また無邪気に笑っているが、お尻に黒くてとげとげしい尻尾が生えているようだ。
「先日の花瓶を割った時ですが、ぶつかったのがペリドット様でございます。」
花瓶は取り落としてしまったものの、パール自身はペリドットに抱き留められて怪我はなかった。
抱き留められたということに動揺していたため、慌てて花瓶の破片を拾おうとして指を切ったのだ。普段ならなんでもない作業なのだが。
怪我の手当も、花瓶の始末もすべてペリドットがしてくれたということ。
「ふむふむ。それでパールはペリドットのことが気になってしまったのね。」
「お優しいだけでなく、花瓶の始末などもてきぱきとされて。それに、お仕事の方もなかなかおできになるお方とお聞きしました。」
赤くなるパール。そんな姿に身悶えするレティ。
パールったらかわいすぎるっ!!
「わかったわ!私、パールに協力するわ!!」
華奢なかわいらしい手をグッと握り締め決意を伝えるレティ。
小さな頃から慣れ親しんできたパールの恋だ。応援して当たり前!実らせてなんぼ!!
「協力・・・ですか・・・?」
むしろそっとしておいてほしいんだけど・・・とパールは言いたいところだが、言い出したら止まらないのがレティ。
「そうよ!もっとお話しするチャンスを作るのよ!出会うチャンスを増やすのよっ!!」
鼻息荒く宣言するレティ。パールは無駄な抵抗はしないことに決めた。
まずは、ペリドットの人となりを知らなくては!
そう考えたレティは、自分の長兄で、事務官室長官のエメリルドを呼び出した。
「エメル兄様!ちょっとお聞きしたいことがございますの。」
サロンでお茶を出しながら、いつもの必殺スマイルを繰り出す。
御多分に漏れずレティに甘いエメリルドは、
「何かな?僕でわかることなら何でも答えるけど。」
優しい微笑みを妹に向ける。
「あのね、お兄様のところのペリドットさんについて聞きたいの・・・」
少し声を潜めて切り出したレティに、エメリルドが答えたのは、
『侯爵家の三男。仕事もできて、周りもよく見えている。対人関係も物腰柔らかで、優しい、加えてあの容姿だから男女関係なく好かれている。特に侍女・メイドたちにはファンクラブもあるらしい。』
ということ。
すっごい好物件じゃないですかー。ニヤリとするレティ。
「彼女は?婚約者とかいらっしゃらないの?」
「さぁ?どうだろ。婚約者は聞いたことないね。彼女も、今はいないみたいだよ?でもどうしてそんなことレティが気にするの?陛下が聞いたら発狂しかねないよ・・・?」
簡単に想像できるから恐ろしい。
「あ、私じゃないのよ?ちょっと彼に好意を寄せている者がいてね。おかしな人だったら止めなくちゃいけないと思ったの。」
にっこり笑うレティ。
「そう?ならいいけど。僕にまで妬くような人だからね・・・。」
と言いながら扉の方に顔をやるエメリルドの視線の先には、ブリザードびゅーびゅーの国王シャルルが立っていた。
「・・・オレのいない間にレティとお茶なんて・・・許せん!」
低い声で唸るシャルル。
「あ、僕は仕事があるから帰るね~!じゃね!レティ!あははは!!」
引き攣り笑顔でそそくさと退散するエメリルドであった。
それから、レティによるパールのための『アプローチ大作戦☆』が始まった。
王妃付の侍女の中に、ペリドットファンクラブの者がいないのをいいことに、侍女長以下、全員を巻き込んで。
まずはやたらと事務官室に用事を作ってはパールを使いに出す。
向こうもエメリルドが気を利かせて、サロンへはペリドットを使いに出してくれる。
休憩時間を把握して(ペリドットが休憩に入るとエメルが知らせてくれる)、パールにも休憩に入らせ、カフェテリアで偶然会いましたー的な出会いをさせる。
侍女仲間はペリドットの姿を見ると、ここぞとばかりにパールの噂をする。もちろん、いい噂だ。
レ、レティ様・・・さすがにやりすぎでは・・・?
心苦しくなるパールであった。
しかし、そんな作戦をちまちまと実行して3週間。
それはいつもの午後のお茶の時間。
いつものように、レティはシャルルと仲良くソファに座りお茶を飲んでいた時だった。
コンコンコンコン!!
忙しないノックが響く。
「どなたでございますか?」
侍女長が誰何する。
「私です、パールでございます!」
休憩を取らせてたパールが戻ってきたようだった。侍女長が扉を開けるとパールが入ってきたが、しかし、なんだか焦っている様子。
「どうしたの?パール?」
いつもと違う様子に、いぶかしげに問うレティ。
「レ、レ、レ、レティ様ぁ!!どうしましょう!ペリドット様からお付き合いを申し込まれてしまいましたっ!!」
顔を赤らめ、侍女服のスカートをぎゅっと握り締め、動揺が隠せないパール。
「きゃあああ!!本当?!よかったじゃないのぉ!!ああ、私のことのようにうれしいわ!!」
「うおっ?!」
思わず隣のシャルルをうっちゃって、パールに抱き付いて喜ぶレティ。
ああ、頑張った甲斐があったわ!!
それは自己満足じゃないのだろうか・・・?頑張ったのはパールだと思うが。
その後。
「いや、元々ペリドットはパールのことが気になってたみたいだよ?」
午後の休憩時間にサロンで優雅にお茶を飲むエメリルド。
今日はシャルルも一緒だ。しっかりレティにくっついている。
「え?そうなの?」
驚いてレティが問う。
「うん。本人いわく『ただでさえ忙しいのに、好きでもない女≪ひと≫に怪我の治療や割れた花瓶の処理なんてしませんよ。』だそうだ。」
「あらま。」
あっちょんぶりけ。
そんなパールはペリドットと仲良くラブラブ休憩時間に入っていて不在。
「だから、レティ達があれやこれやしなくても、自然と何とかなったんじゃないかなぁ?これも彼曰くだけど『王妃様達がいろいろ画策してくださったから、パールと会う確率が飛躍的に高くなって喜んでたんです。』だそうだよ。」
すっかり作戦のことはばれていたみたいだ。
「なーんだぁ。じゃあ、次の段階として、二人の邪魔をして、愛の試練を課そうかしら・・・ますます燃え上がる二人・・・いいわぁ・・・」
くふふふふ・・・と超絶スマイルになるレティ。
いや、超絶真っ黒笑顔と言うべきか。
「・・・レティ。やめときなさい。」
さすがにこれは止めねばならないと思うシャルルだった。
一応、すっきりしていただけたでしょうか・・・?
ペリドットくんは、気ままなレティに健気に尽くすパールを以前から知っていて、好ましいなと思っていたという設定でした。
読んでくださってありがとうございました!