王妃様と西の森の魔女
ここはアンバー王国王都ディアモンド。
今日もこの国は平和であった。
「ねーねーシャルー。ちょっとおうちに帰りたいんだけど?」
王妃レティエンヌが、キュートなおねだりポーズで夫である国王シャルルにお願いする。
そのお願いとは、実家への宿下がりなのだが、シャルルは、
「うん?まだ忙しいからもうちょっと後にしてくれる?」
と、返事するだけ。
シャルルの中で、『レティの実家への宿下がりは自分も一緒に行く』という決まりにしているらしい。片時も離れているのが耐えられない、というのが理由らしい。どんだけウサギなんだか。
ちょっと前からしきりにレティが宿下がりをお願いしているのだが、ちょうど執務が忙しい時期であったので、『もうちょっと待って』という返事でここまできていたのだった。
「え~!もうちょっともうちょっとって言って、もう2週間も待ってるんですけど~。知らないよ~、勝手に帰っちゃいますよ~。」
ちょっと拗ねモードなレティ。そんなレティに弱いシャルルは、
「う~~~!ごめん。じゃあ、後1週間待って!お願い!」
合掌してレティにお願いする。
ちょうど2週間前から宰相であるトパーズ卿、見習い事務官のエメリルド・ウル・トパーズ-レティの兄-が揃って隣国へ出張中で、誰にも政務を丸投げできないシャルル。
トパーズ卿たちが帰ってきたら、執務を丸投げして一緒に里帰りしようと考えていた。
「もう、知らない。」
ぷ~っと頬を膨らますレティであった。
次の日の昼下がり。
シャルルの執務は多量で、レティの元に帰ってこれたのがやっと3時のお茶の時間。
天気がいいので、庭園でお茶をすることにした。
「ふ~~~。やっと生き返った気がする~。」
テーブルに突っ伏して唸るシャルル。
「今日もお忙しかったのね?お父様もエメル兄様もいらっしゃらないから大変ね。」
超絶かわいい笑顔でニコニコするレティ。
「あ~、レティの顔を見てるだけで癒されるよー。」
と、シャルルがふやけた顔をしたその時だった。
ギュイーーーーン!バサッ!!
突然、空からドラゴンが現れた。
びっくりするレティとシャルルや傍に控えている者たち。
ドラゴンはレティめがけて急降下してきた。
「きゃーーーー!!!!」
「レティ?!」
レティの体を『むんず』と掴むと、
ギュイーーーーン!!
また急上昇して飛んでいく。
シャルルがとっさに剣を抜いたが、そんなものまったく意味のない、ほんの一瞬の出来事だった。
「レティーーーー!!!!!」
あっという間にドラゴンは見えなくなってしまった。
「近衛兵を集めよ!!軍隊も召集しろ!!レティを助けに行かねば!!!」
気色ばんだシャルルが叫ぶ。
その時。
ヒラヒラと空から舞い落ちる一枚の紙。
「?」
シャルルの手元に落ちてきたそれには、
『レティエンヌは預かった。返してほしくば西の森に、国王一人で来い。ばーい・西の森の魔女☆』
と書かれてあった。
「うぬ・・・西の森の魔女の仕業であったか・・・。」
トパーズ王国に西に広がる森。
ここには昔から魔女が住んでおり、怪しげな魔術や薬を作るといわれていた。
シャルル自身は直接は知らなかったが、小耳にはさんだ程度に聞いたことはあった。
「西の森の魔女がなぜレティを!?オレに何か言いたいことがあるならオレに直接言えばいいものを・・・!」
怒りに燃えるシャルルであった。
軍を引き連れて森へ向かうのは得策ではないと判断したシャルルは、一人で行こうとしたのだが、やはり周りに止められて、精鋭の近衛兵だけを連れて行くことにした。
森の近くまで近衛兵と一緒に行き、そこから森へは一人で入る。
こんな時に限って、シャルルとこの国一番の実力を争う近衛隊長のサファイル-レティの次兄-は、宰相たちと一緒に出張に出ていて不在。
その次に実力のある騎士ジルコニスと、その配下である第一小隊を連れて行くことにした。
「レティ様、ご無事でいらっしゃることをお祈りいたします。」
「ああ。指示かのろしが上がるまでここで待機していてくれ。」
森の入り口で、シャルルはジルコニス達と別れ、一人徒歩にて森へと入っていった。
意外ときれいに整備された小道を行くことしばし。
目の前に小さな小屋が見えてきた。
「ここが魔女の家・・・?」
・・・なんの妨害もなくあっさりと辿りついたんだけど・・・?
魔物や魔獣や仕掛けがあるかとドキドキしながら来たのだが、ただの森ハイキングみたいだった。
いや、ひょっとしたらこの小屋はトラップで、開けたら魔獣が襲い掛かってくるとか?なんか仕掛けがあるのかも知れない!油断はできない。
グッと、こぶしを握り、気合を入れなおすシャルル。
こちらから、小屋の中の様子は見えないので、ドアの横に身を潜め、耳を当てて中の様子を伺うことにした。
『やだわぁ、おばあ様ったら!』
『ほんとほんと、おほほほほほ!』
なんだか和やかな女性の会話が聞こえてくる。
『ほんとにびっくりしましたのよ!』
レティの声が聞こえた。
「?!レティ!!」
思わず『バーーーン!!』と扉を開けてしまったシャルル。
さっきまでの用心はどこへ行った。
「あらー!シャルー!!来て下さったのね!」
突然の訪問者がシャルルだと気付いたレティは、みるみるうちに超絶かわいい笑顔になる。
「・・・レティ?これ、どーゆーこと・・・?」
あっけにとられたシャルル。
眼の前には、お茶を楽しむ貴婦人たちと、黒いマントを着たお婆さん。
攫われた~とか誘拐された~とかいった雰囲気はみじんも感じられない。
「・・・確か、レティは西の森の魔女に連れ去られたんだよね?」
事実を確認するシャルル。
「そうはそうなんだけど、シャルー、西の森の魔女って、私のひいお婆ちゃまよ?知らなかったの?」
きょとんとしながら言うレティ。
「ひいお婆ちゃん?!・・・今知ったよ、レティ。」
がっくりと膝から崩れ落ちるシャルル。
「まあ、陛下。ご存じなかったとは大変驚かれたでしょう。」
おっとりと言うのはレティの母。
「トパーズ公爵夫人・・・。」
「おお婆さまは、母の祖母に当たる方ですのよ。」
艶やかに微笑みながら告げるのは、レティの姉のミリーニア。
「こんな時に限ってレティの身内が誰も城内にいなくて、聞くこともありませんでした・・・」
がっくりなシャルル。
というか、すっかり悪い魔女にレティを連れ去られてしまったと思い、テンパっていて誰の話も聞く余裕などなかったのが事実。
「おお婆さまが、私に会いたい会いたいとおっしゃるから、宿下がりをお願いしてたのに、シャルーったら全然聞いて下さらないんだもの。」
恨めし気に言うレティ。
「そうじゃ。だから驚かせてやったのだよ。ほーっほっほっほっほ。」
高らかに笑う魔女のおお婆さま。
「そもそも、宿下がりにいちいちついて帰る旦那がどこにいるんじゃ!そんなに縛っている様じゃダメじゃの。嫁の一人くらい、自由にさせてやれないようじゃ・・・」うんぬんかんぬん。
すっかり説教されるシャルル。
そんなシャルルを他所に、公爵夫人、ミリーニア、レティはお茶の続きをしているのであった。
それからというもの。
バサバサバサバサ・・・!!
「きゃーーーー!!」
「今度は大鷲かっ!?」
がしっ!!
「きゃー!!シャルー!!いってきまーす!!」
大鷲に掴まれながら手を振るレティ。
「レティに会いたいからって、いちいちドラゴンだの大鷲だので攫っていくのは勘弁してくれよ・・・ばあさん・・・」
毎回毎回ハラハラしてしょーがねえだろ。
迎えに行って小言を言われるのもオレだけだし・・・。
むくれるシャルルであった。
今回はファンタジー王道でしたね♪
掴まれたら痛そうですが。やんわりと掴んでいる・・・ハズです(笑)
今日も読んでくださって、ありがとうございました!