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王妃様の贈り物

本格的な冬になり、王城の執務官室勤務のアウイン侯爵様が、奥さんの手編みのマフラーをつけて出仕してくるようになりました。

もちろん侯爵様はのろけまくっています。それを聞きつけたレティは……


また少し話は戻ります♩

ここはアンバー王国の王都ディアモンド。

12月も終わりに近いこの頃、寒波厳しく、王都はすっかり雪化粧に覆われてしまっていた。

それでも王城内はセントラルヒーティングでどこもかしこも暖かいのだが、約一名、とんでもない冷え性の王妃レティエンヌだけはモケモケブーツを履いて城内をうろうろしていた。




「おはよう! アウイン侯爵様」

「おはようございます、レティ様。こんな時間になぜこんなところにお出ましなんでしょうか?」

出仕してきたアウイン侯爵を執務官室で捕まえたレティは、超絶カワイイ笑顔で挨拶をした。

普通の人ならメロメロになるレティの笑顔だが、いかんせんアウイン侯爵には通じない。彼は怪訝な顔でレティの様子を伺っていた。普通なら執務棟などで見かけることのないレティが、わざわざこんなところまで来るのは『大体ろくでもない時』というのが皆の一致した意見だからだ。

そんな侯爵のことなど気にせずに、レティは、

「ふむふむ、これがそうなのね!」

そう言うとおもむろに侯爵の首に巻かれている侯爵夫人お手製のマフラーに手を伸ばした。

「レティ様? 何なさるんですか? これは妻が心を込めて編んでくれたものですから、いくらレティ様でも差し上げられませんよ」

「そんなこと言わないわぁ。エメルお兄様からこのことを聞いたから、一度見たかったのよ。へぇ、シシィ上手ね~!」

「でしょう。で、レティ様。引っ張るのはやめてくれますか? 伸びてしまうし首が締まる……ぐえ」

へぇ~ほお~と言いながら、矯めつ眇めつ引っ張ったり裏返したりと観察に余念がない。

ビミョーに命の危険を感じた侯爵は、やんわりとレティの手からマフラーの端を取り返した。

すると、


「私もシャルーに編んでみよっかなって思ったの。明日からシシィを貸してちょうだい」


またもやにこーっと超絶スマイルで言い放ったのだった。




「無理です。やです」

「シャルーのいない午前中だけよ!」

「妻もパティスリーの手伝いがありますから」

「午後から行けばいいじゃない」

「仕事はそんなに甘くないんですよ」

「ぶうう」

「もう、レティ様は……。……こほん、仕方ないですね、妻に聞いてみてみますよ」

あまりに食い下がるレティの勢いに仕方なく折れることにした侯爵。がっくりと肩を落としため息をつく。というのも執務官室の前でのやり取り、大勢の人間に見られている。つまり、そんな場所で王城のアイドルである王妃レティのお願いをにべなく断る侯爵に『レティ様のお願いを断るなんて!!』という視線がビシバシ飛んでくるのだ。

「きゃー! ありがとう! じゃ、シシィによろしくね! サロンに直接来てもらっていいから!」

「いや、まだ決まりじゃないですから……」

「じゃね~」

侯爵の言葉虚しく、上機嫌で去っていくレティであった。




レティからの依頼めいれいを快く引き受けたシシィは、さっそく次の日から午前中、というかサロンに国王シャルルが帰ってくるまで、だけ登城し、レティにマフラーの編み方を伝授してくれた。

白い毛糸を編み針に絡ませて、せっせと編み進めるレティ。それを横から指導するシシィ。

「そうそう。ここをこうして……ええ、上手ですわ、レティ様」

「そう? ここね。あ、できた」

三つ編み模様の入ったデザイン。見た目は難しそうだが意外と簡単なので、それをレティは編んでいた。

目を数え、落とさないように真剣に編むレティ。珍しく真剣だったがふと手を止めると。

「……なかなか根気のいる作業ね」

虚空を見つめるレティ。

「飽きちゃだめですよ、レティ様」

そんなレティをじと目で見るシシィ。

「ええ、がんばるわ」

再び編み始める。


レティも器用なので、マフラーは意外と速くに完成した。




完成したその日。

シャルルがいつものように超特急で執務を終えてサロンに戻ってくると、満面の笑みでレティに迎えられた。

「おかえりなさいませ!! シャルーが早く帰ってくるのを待ってたのよ!」

「うわっ!! レティ! ただ今」

駆け寄ってきてシャルルに飛びつくレティ。

そんなレティにメロメロになりながらも華奢な体を抱き留めるシャルル。

「今日はどうしたの? えらく熱烈歓迎だねぇ?」

いつもならばここまで大袈裟に出迎えたりしないのに、と疑問を口にするシャルル。

「あのね、シャルーに渡したいものがあってね」

「渡したいもの?」

「そ! プレゼント!」

「へぇ。なんだろ? 楽しみだな」

ウキウキするレティを見ているだけでも幸せな気分になるシャルル。

こっちこっちとレティに手を引かれて、いつものソファのところまで連れてこられる。そして、ソファに座らされたところでおもむろに箱を手渡された。


それはどこにでもあるような真っ白な20センチ四方の立方体に、真っ赤なリボンがかわいらしくかけられたものだった。


しゅるり、と衣擦れの音をさせながらリボンを解き、箱を開けると――


バサバサバサバサバサ……!!

「うわ~~~?! なんだぁ???」




開いた箱から飛び出してきたのは無数の白鳩。真っ白な羽根を周りに散華させながら。


バサバサバサバサバサ……!!


何の警戒もしていなかったシャルルは驚き、箱を開けたままの状態で固まっていたのだが、鳩たちはそのシャルルの首元をぐるぐると旋回しだしたのだ。


「うわ~~~?! なんだぁ???」


鳩がだんだん白い塊に見えてきた。

そしてとうとう一本の線に見えたところで、一気にシャルルの首に巻きついてきた。


「えっ?! ナニコレ? オレ、鳩に縊り殺されるの?! つか、何の呪い?!」


慌てふためくシャルルだったが、やがて首に巻きついた白いものがようやく動きを止めた。


それは柔らかな白い毛糸のマフラー。


「どう? びっくり箱作戦だったんだけど☆」

それまで目を煌めかせてシャルルの様子を見守っていたレティが、シャルルの横に腰掛けながら言った。

「……うん、びっくりした」

若干疲れた表情になるシャルル。

「これね、マフラーっていうんだって。暖かいでしょ?」

「うん、暖かいね。これ、どうしたの?」

「シシィに教わって編んだの。結構上手でしょ?」

「レティが自分で編んでくれたの? 上手だよ。二度驚きだ」

そう言ってマフラーを手にするシャルルは、レティに向かってとろけるように甘い笑みを向けた。

それを満足気に受け止めたレティは。


「これ着けて、王都に一緒にお買物行きましょうね!!」


ニッコリと超絶カワイイ笑顔で言うのだった。


今日もありがとうございました(^ω^)


そして、ハッピーニューイヤーです♡

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