王妃様とかぼちゃ
ハロウィンです! そして今日もアンバー王国は平和なのです!(笑)
ここはアンバー王国の王都ディアモンド。
秋も深くなり、そろそろ木枯らしが吹き始めるかという10月の終わりである。
先日、遠く海の向こうのメリケン国からの貿易船が到着したこともあり、いまディアモンドではメリケンブームが到来していた。
珍しいメリケンの食べ物が流行っていたり、貿易船に乗ってきた大道芸人たちが噴水大広場でショーをやっていたりと、あちらこちらでメリケン文化が紹介されていた。
「……で、これは?」
今日も午前中で執務を終えたシャルルが、最愛の王妃レティエンヌの元にダッシュで帰ってきたところ、サロン内にはオレンジ色の物体が所狭しと転がっていたのだ。
「はい。かぼちゃという、メリケン渡来の野菜だそうです」
そのかぼちゃの中、床に座って何やら作業をしていたレティがその手を休めてシャルルの問いに答えた。よく見ればパールやサンゴ、その他王妃付の侍女たちもかぼちゃの群れの中で何やら作業をしている様子。それを怪訝な様子で見ているシャルル。
「いや、かぼちゃはわかるよ? 今回の交易で輸入したからね。で、なんでサロンにこんなに溢れているんだろう?」
どれもこれも立派な大きさで、かわいらしいレティの顔よりも二回りも三回りも大きなものばかりなのだ。
その中の一つを手に取ろうとしたところ、何やら怪しくうごめくかぼちゃが一つ。恐る恐る近寄ってみると、
「ぬおっ?! アンジェ?!」
「だー」
なぜかかぼちゃの着ぐるみを着た王太子アンジェが、かわいらしく転がっていた。動かなければかぼちゃと同化していたといっても過言ではない。
「アンジェちゃん、かわいいでしょ~~~!! かぼちゃコスなの!」
アンジェを抱き上げたシャルルに向かって超絶スマイルで微笑むレティ。
「うん、かわいいね。でも、ここ床だよねー。アンジェ、赤ちゃんだよねー」
「ええ。だってアンジェったらすっごい真剣な目でかぼちゃを睨んでるんですもの。一緒に遊びたいのかなって思って」
「そっかー」
「もう、すっごいご機嫌さんでしたのよお!」
「にゅー」
まあ、嫁と子供がご機嫌ならばよしとするかと思い直すシャルルであった。
「ところで話は戻るけど、この突然サロンに出現したかぼちゃ畑は何かな?」
シャルルとの会話を切り上げて作業に戻ろうとするレティに、先程答えのもらえなかった質問をぶつける。
「これはね、『ハロウィン』ていうメリケン国のイベントを真似してみようかなぁって思って取り寄せてみたの」
自分の顔の倍以上もありそうなかぼちゃの前に陣取り、作業をしながらレティは答えた。
指先をちょちょいっと動かしてかぼちゃをくり抜いたり切り取ったりしているようだ。
「『ハロウィン』? ああ、こないだメリケン国の大使が言ってたイベントの?」
「そうそう! あれから大使夫人とお茶をした時にもう少し詳しく聞いたの。なんだか面白そうじゃない? アンバー王国にはないイベントだし?」
「うん、まあね」
「『ハロウィン』ていうのは、かぼちゃをくり抜いてオバケのランタンを作って飾って、オバケに仮装した子供たちが『トリックオアトリート!』って言ってお菓子をおねだりして、みんなでパーティーするイベントらしいわ」
「……多分、いろんなものが端折られている気がするけどね……」
「ま、細かいことは気にしない! で、かぼちゃでランタン作ったら面白いなってなったのよ」
しゃべりながらもレティの作業は止まらない。魔法を駆使してかぼちゃのランタン作りに勤しんでいる。ちなみに魔法の使えない侍女たちは力技で作業をしているようだ。
「そうなんだね。じゃあ楽しみにしてるよ」
かぼちゃコスのアンジェを膝に抱き、レティ達の様子を見守るシャルルであった。
最後の方には執務官たちを動員してかぼちゃランタンを作り終えたレティ。
「明日が『ハロウィン』当日らしいから、お祭りは明日ね。夜だと人がいなくてつまんないから、お昼間にしましょう! 今お城にはアンジェちゃんしか子供はいないから、10代は子供役ね!」
ちゃっかり自分はお菓子をねだる方にまわっている。
その間にかぼちゃランタンは王城中に飾られていった。
ハロウィン当日。
「トリックオアトリートぉ!!」
「へっ? レティ様?!」
仮装したレティが執務官の一人を捕まえていた。
今日のレティは超キュートな魔女。黒いとんがり帽子に黒いドレス。今日のドレスはレースやチュールでふわふわした膝上ミニ丈。足元はかわいくボア付きのブーツで。冷え症には抗えなかったようだ。手には今日もかぼちゃコスのアンジェを抱いて。
突然のレティの出現に、この執務官はお菓子の用意をしていなかったようで、
「うわぁぁぁぁぁぁぁ」
という悲痛な叫び声が王城の廊下に響いた。
あちこちで10代の使用人たちがイベントに興じていた。
今日だけは無礼講ということで。
「トリックオアトリート!!」
また前方に誰か執務官らしき背中を見つけたレティは、すぐさま駆け寄りおねだりをした。その声に振り返ったのはアウイン侯爵だった。
「げ、レティ様」
「げ、とは何よげ、とは! ほら、さっさとしないとイタズラしちゃうぞ~!」
厄介なものに引っかかったとばかりに柳眉をしかめるアウイン侯爵に、レティはにやりと笑う。むしろこのいつもスカした侯爵にイタズラしてやりたいというのが本音のようだ。
「はいはい。どうぞ」
しかし敵もさるもの。ちゃっかりと上着の内側に隠し持った飴玉をレティに、かわいいガラガラのおもちゃをその腕のかぼちゃ、もといアンジェに持たせた。
「あー! イタズラし損ねた~! でもありがと!」
にこーっと超絶スマイルで破顔するレティ。
「きゃっきゃ」
ガラガラを早速振りたくるアンジェ。
「いたずらはほどほどでお願いしますよ~」
上機嫌で去っていくレティの背中にアウイン侯爵は言ったのだった。
夜になると、いつもの夜灯ではなくかぼちゃランタンに火が入れられた。そこかしこで怪しげなかぼちゃがニヤニヤ笑っている様子は結構不気味。
そんな薄暗い中、ダイニングで夕食をとるシャルルとレティ。
「確かに、食べ物を粗末にするのはよくないけどさぁ」
がっくりとうなだれて言うシャルル。
眼の前にはこれでもか! というかぼちゃ料理。
かぼちゃのポタージュ、かぼちゃのサラダ。かぼちゃの煮つけ(伝サンゴのヒイヅル国の料理)、かぼちゃパン。メインはかぼちゃのコロッケ。デザートにはかぼちゃのプディング。
まさにかぼちゃのフルコースである。
「今度からはほどほどにします……」
かぼちゃ料理をつつきながら反省するレティであった。
今日もありがとうございました(^^)
お久しぶり過ぎてごめんなさいです(><)




