公爵令嬢と王太子
またちょっと過去に戻ります(^^)
シャルルのアタック編です♪
ここはアンバー王国の王都ディアモンド。
先日のトパーズ公爵令嬢レティエンヌの『お誕生日&お披露目ぱーちー』は、いつの間にか『王太子殿下と公爵令嬢の婚約お披露目ぱーちー』にすり替わっていて、さらに準備のいいことに翌日には二人の婚約が発表され、レティエンヌはすっかり『王太子殿下の婚約者』と認識されてしまっていた。
それからというもの、毎日のように公爵家にプレゼントが届けられる。ドレスだったり、お菓子だったり。どれももちろん王太子シャルルから。花束に至っては毎日のように贈られてきた。
シャルルはノリノリだが、レティはちっともその気になっていない。
かなり温度差のある二人だったが。
「レティお嬢様。今日もお花が届いておりますよ~」
侍女のパールが、一抱えもあるピンクのバラの花束を抱えて、レティの私室に入ってきた。
「まあ! 美事なバラねぇ! ……でももうさすがに花瓶がないわね」
贈られてきたバラのあまりの美しさに、うっとりと見入るも、ふと現実を思い出し、部屋をぐるっと見回しながら、頬に手を当て、レティはため息をついた。
毎日のように贈られてくる花束で、レティの私室は「花屋か!!」と突っ込みたくなるくらいに色とりどりの花々で埋め尽くされてしまっているのだ。屋敷中の花瓶を総動員しているのだが、間に合っていない。
目をつむり、腕組みをして考えるレティ。何か花瓶に良さげなものはないかと。
しばらく考えた後、その大きな愛くるしい瞳をパチッと開けた。ひらめいた! とばかりに。
「う~む。仕方ない。お父様のブーツを代用するか」
「いや、レティ様、お待ちください。なぜにお父上のブーツなのでしょうか?」
「だってあれ、乗馬用のとってもしっかりした皮でできたブーツなんですもの。水も漏れたりしないわ、きっと」
「……お父上のブーツに入った花を部屋に飾りたいですか?」
「……それは嫌ね。ありがとうパール。いいところを突いてくれて」
「お褒めに預かり光栄でございますわ」
では……と、再び腕組みし、首をうなだれ考えるレティとパール。
「エメル兄様の金魚鉢を拝借しましょう!」
「えっ!? あれはエメリルド様が大切に飼っておられる金魚の……」
「金魚はタライに入れとけば大丈夫よ! 気付かないって!」
「……絶対に気付くと思いますが……」
「いいからいいから、持ってきて?」
「……エメリルド様の侍女様にお願いしてみます……」
半時後。
首尾よくエメリルドの金魚鉢をゲットしてくるパールであったが。
その夜、残業を終えて遅くなった長兄の帰宅後、
「わぁぁぁぁ!! 私の金魚がぁぁぁぁ!!!」
という悲痛な叫びが屋敷中に響いたが、いかんせん、レティはすでに夢の中の住人だった。
金魚鉢の一件以来、花束が届くのは3~4日に一回と、間隔があくようになった。どうやらエメリルドがシャルルに「枯れてから次のを贈れ!!」と詰め寄ったらしい。
毎日の花束攻撃が落ち着いたと思ったら、今度はシャルル自身が毎日のように公爵家に顔を出すようになった。
「今日はお庭を案内してください」
「美味しいお菓子を手に入れました」
「珍しい本を見つけたのでね、一緒に読もうかと」
何かと用事を作っては公爵家を訪問してくる。
ニコニコと満面の笑みでレティとミリーニアに対面するシャルル。
「ねえ、殿下ってば、お暇?」
「それ、絶対ご本人の前では言っちゃいけないわよ?」
「わかってるわ、お姉さま」
こそこそとレティは姉のミリーニアに耳打ちする。シャルルは毎日、それはそれは驚異的なスピードで執務を終わらせ、レティの元へと日参しているのだが、いかんせん、レティはそんなこと知らない。暇人レッテルを貼られる結果となっている。このレッテルは、結婚後にようやくはがされることとなるのだが。
「どうかされましたか?」
こそこそと耳打ちで話すレティとミリィに、それでもにこやかに問いかけてくるシャルル。
「いえいえいえいえいえ、べ、別に、おほほほほ……! さ、邪魔者は退散しますので、後は若いお二人で……」
「って、ええ?! お姉さま?!」
「じゃね! レティ!!」
そんなお見合いの席での仲人さんのようなセリフを残して、そそくさとその場にレティを残して退散するミリィ。
引き留める間もなく、
「さ、公爵家ご自慢のお庭を見せてください」
と、相変わらず満面の笑みのシャルルに手を取られ、庭の散歩へと拉致られるレティであった。
そんな毎日が続いて3ヶ月目のある日。
珍しくシャルル自身も花束もプレゼントも届かなかった。
シャルルは、自分が行けない日には必ず花束を贈っていたのだが、その日は何も来なかったのだ。
「珍しいこともあるものね?」
「ええ」
「来ないとおっしゃっていたかしら?」
「そんなことはお聞きしておりませんわね」
「だよね。一体、どうしちゃったのかしら?」
首を傾げるレティとパール。
次の日も、その次の日も、シャルルは現れず、贈り物も届かなかった。
そんなことが1週間も続くと、さすがのレティも心配になってきた。
「何かお病気とかじゃないかしら?」
「それとはお聞きしてませんけどね? お父上様かエメリルド様にでもお聞き遊ばしたらいかがでしょう?」
「そうね。そうするわ」
自室でパールとああだこうだと言っているよりははるかに効率がいい。
「王城の、お父様の執務室に行ってくるわ。移動魔方陣発動!」
思い立ったら吉日、とばかりに、レティはとりあえず王城の宰相執務室に転移した。
がちょっ。
王城にある、宰相執務室。
ど○でもドアよろしく、何もない空間に突然ドアが現れ、そこからレティが顔を出した。
「お父様?」
「うわっ!! びっくりした。レティか。どうした? 今は執務時間なんだが?」
以前のこともあり、ゆっくりとドアを開けたレティだったが、突然の娘の参上に、トパーズ卿は思わず椅子からずり落ちそうになっていた。
「ごめんなさい。あのね、殿下のことなんだけど」
「殿下? シャルル様のことかい?」
「ええ、そうなの。最近お忙しいの? それとも何かお身体を壊されてるとか?」
「いや? まあ、元気っちゃ元気だが、そうでないっちゃそうでない……」
奥歯に何かが挟まったような物言いのトパーズ卿。少し目を泳がせて、挙動不審である。
「なあに? それ」
「つまりだなぁ……。じゃあ、殿下のところに行ってみるか?」
小首を傾げてキョトンとした表情で問うてくるレティの姿は超絶かわいい。それを見て頬が緩むのを感じた卿だが、それをぎゅっと引き締めた。
「いいんですの? 執務中でしょ?」
「ああ、今なら誰にでも歓迎されるよ」
「??」
よくわからないが、とりあえず歓迎はされるらしい。促されるまま、執務室を後にした。
「殿下」
コンコンコン、とノックし、返事も聞かぬままに王太子の執務室のドアを開けるトパーズ卿。
中では。
――シャルルが自身のデスクに『だら~~~ん』と伸びている。どこにも力が入っていないようだ。上半身をデスクに乗せ、だらけきっているのだ。
だらけるシャルルの横には、山のように積まれた書類の数々。シャルルの決済を待っている。
しかし肝心のシャルルは、魂的な何かが抜けだしたようになっている。
そんなだらけた様子のまま、
「なんだ。トパーズ卿かぁ。何の用だよ」
とこちらに目をやることもなくぞんざいに問いかけてきた。
「殿下に客人が来られたのですが」
「そんな気分じゃない」
相変わらずだらけたまま、適当に返事をしているシャルル。
「いいんですかぁ? そんなこと言って」
「ん?」
トパーズ卿のからかうような声音に反応して、シャルルが首をもたげてドアの方に顔を向けた瞬間。
「ぬあっ?!」
驚きでその目が見開かれ、ついで慌ててだらけていたその身を机から引き剥がした。
シャルルが見たものは、扉の隙間からひょっこりと顔を出すレティの姿だったのだ。
「レレレレ……!! オレの妄想か?!」
ほうきを持ったおじさんじゃあるまいし。突然のレティの登場に大いに動揺するシャルル。
目をごしごしと擦っている。
「殿下、ごきげんよう。お元気なようでよろしゅうございましたわ」
レティは、超絶かわいいスマイルとともに淑女の礼をとる。
「わざわざオレに会いに来てくれたの?」
「まあ、はい。そんな感じです」
「うぉぉぉぉぉ!! エメルの進言を聞いておいてよかったぁぁぁぁ!!」
「エメル兄様?」
感激に打ち震えたシャルルは、そのまま執務官室の方に向かって祈りをささげている。
ぽかんとそれを見守るレティと、呆れ顔のトパーズ卿。
押しても押しても一向に自分を意識してくれないレティに、『どうしたらこっちを見てくれるのか』という相談をエメリルドにしたシャルル。エメリルドは『押してもだめなら引いてみな、ですね』と、助言をしたのだ。つまり『当分レティの前から姿を消してみ』ということだ。
泣く泣く助言に従ってレティ断ちをしていたところだったが、レティ切れに執務も滞ってきたところだった。
「オレのこと、気にしてくれるようになった?」
「ええ、そりゃもちろんですわ」
「よかったぁぁぁぁ」
レティの手を握り締め、さっそく充電を図るシャルルであった。
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