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王妃様の苦行

レティちゃん、がんばります!(笑)

ここはアンバー王国の王都ディアモンド。

季節は爽やかな風薫る頃。王城はにわかに慌ただしい動きを見せていた。

というのも身重の王妃レティエンヌが、昨夜夜中過ぎにどうやら陣痛が始まったからだ。

寝静まっていたはずの王城が、バタバタと動き出していた。




「いった~~~いっ!!!!」


ベッドの上で、陣痛の痛みにその美しい顔をゆがめるレティ。あまりの痛さに悶絶中。

その横には国王シャルルがへばりつき、


「大丈夫! ゆっくり息をして! ひっ、ひっ、ふ~~~だよ!」


と、侍女サンゴのお国である『ヒイヅル国』に伝わる『らま~ず法』なる呼吸法をレティに勧める。サンゴ曰く『これで痛みを逃すのですわ! 練習しておいてくださいませ!!』だ。


「む~~~り~~~!! 苦しい~~~」


あまりの痛みに体から力が抜けない。むしろどんどん力が入っていく。


「レティ! もうちょっと力抜いて?」

「ふえっ……無理。シャルー、代わって!!」

「いや、それはさすがにできないよ……」


シャルルの手を握り返す力がどんどん増していく。辛そうなレティを見ているのは忍びないのだが、いかんせん代わってやれるものでもなし、途中でやめられるものでもない。


「レティ様! 落ち着いて!」

「ゆっくりでございますわ!」


侍女のパールや、その他の侍女たちも手に拳を握り、シャルルの後ろからレティを見守る。その他にも父であり宰相のトパーズ卿、近衛騎士団長の次兄サファイル、舅・姑である前国王・皇太后夫妻なども集結していて、固唾を飲んで見守っている。

その間も、シャルルはレティの背中を撫で続ける。


「もうすぐトパーズ夫人もミリーニア殿もおいでになるから、落ち着いて!」

「ううううう~~~。シャル~~~」


涙目のレティを宥めるしかできないシャルル。内心は思いっきり狼狽しているのだが、なるべくそれを悟られないように『落ち着け、自分!! 落ち着くんだ!!』と、自分を叱咤していた。


隣の部屋では魔法使いたちによる加持祈祷が行われている。

王宮付きの魔導師、レティの曾祖母に当たる西の森の魔女、そしてレティの遠縁――魔女の直系のひ孫――の東の森の魔法使い。アンバー王国のトップ3の魔法使いが術をかけている。術が強ければ強いほど安全かつ安産となるのだ。

もうじきその加護も効いてくるだろう。それまでの辛抱だった。




しばらくして、自邸にいたトパーズ公爵夫人とレティの姉のミリーニアが到着した。


「レティ! がんばるのよ!」

「超強力な魔法使いたちがついてるんだもの、安心して産みなさい!」


姉と母も駆け寄り、レティの手を握り締め声をかける。




ようやく術が聞き始めたのか、レティの痛みが落ち着いてきたところで、


「さ、そろそろお生まれになりますよ~。ハイ、みなさん出て出て~」


と、レティの様子を見ていた侍医が退室を促してきた。

渋々手を離し、部屋の外に出るシャルルとその他大勢の男性陣。部屋の中で王妃の出産の立会を許されるのは女子のみ、という王家の決まりがあるので、トパーズ公爵夫人とミリーニア、皇太后そして侍女たちが部屋に残った。

シャルルとトパーズ卿、前国王とサファイル、それから先程侯爵夫人やミリーニアと共に駆け付けたレティの長兄エメリルドは、扉の外でやきもきとするしかなかった。


「いたーーーい!!」

「う~~~う~~~う~~~!!」


レティの叫び声だけが扉の外まで聞こえてくる。その声に恐々としながら祈るしかない男性陣。




一方、部屋の中では。


「ゆっくり息をして!」


侍医がレティに呼吸を促す。


「はふはふはふはふ」

「早いっ!!」

「はふ~~~はふ~~~はふ~~~」

「そうそう」


すると、呼吸のし過ぎと、痛みと苦痛で汗だくのレティは喉の渇きを訴えた。


「お水が飲みたい~~~」

「はいっ!!」


用意されているお盆の近くにいたミリィが、とっさに水を差しだすも、慌てているためか、ピッチャーのままお水を手渡す。


「そんなの飲めない!」

「あら、ほんとだわ」


自分の慌てっぷりに驚くミリィ。レティが思わず痛みを忘れて、


「ぶっ!! お姉さまったら!! おほほほほ……っ!! って、いったーーーい!!」


笑った途端、さらに痛みが増し、違和感を感じた。


「今ので力みが抜けて、御子が出てまいりましたぞ!!」


侍医が声をかけた。




一方、扉の外で、各々うろうろしていた男性陣。さながらサル山のおサルたち。

どれくらい経ったであろうか。

まだ外は夜も明けやらず、暗い時刻。


「うんぎゃ~~~!!!」


という、元気な泣き声が扉の外まで響いてきた。


「「「「おおお!! 生まれたか!!!」」」」


一斉に立ち止まり、扉をガン見する。


すると扉が静かに開き、中から皇太后が姿を現した。


「母上!! レティは無事ですか!?」


最初に駆け寄り、レティの様子を聞くのはやはりシャルル。

母親の二の腕を掴み、ゆっさゆっさと揺らす。それを優しい笑みで受け止めて、


「ええ、レティちゃんも御子も元気ですわよ! 王子ですわ!」


高らかに宣言する。


「「「「「おおおおお~~~!!! めでたい!!」」」」」


前国王とトパーズ卿、エメリルドとサファイルは、うれしさのあまりがっしと抱き合う。

シャルルは急いでレティの元に駆け寄った。




王子誕生の知らせは、レティと御子が落ち着くのを待って一週間後に国民、隣国へともたらされた。

城下では『王子誕生おめでとうセール』だの『王子誕生おめでとうキャンペーン』などが繰り広げられている。国民誰もがこの朗報に浮き立っていた。

国内外からも続々と使者が来て、祝辞と贈り物が届けられる。

レティと王子の休む部屋は、贈り物の山で雪崩が起きそうになっていた。




一方レティは。


「あ~。鼻からスイカとはよく言ったもんだわ。あり得ない痛さだったわ~」


御子に乳をやりながら、しみじみとつぶやいているのであった。


今日もありがとうございました(^^)


いや~、すっかり開いてしまって申し訳ないです m ( _ _ )m


お水の話は、実話です(笑)母に水を所望したらそんなことをやってのけました。「飲めるか!!」と切れましたが(笑)

一晩中呻りたしたのも私です orz 次の日、両隣に『うるさくてごめんチャイ」と詫びに行きました……

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