表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/25

王妃様と春宮様

王妃様のお花見の続きです。まだヒイヅル国にいました(笑)


タイトルには「春宮様」ですが、本文では「トウグウ」様です。

タイトルは漢字の方がいいかなぁ、と。

ここはヒイヅル国の都、キョウ。

アンバー王国国王シャルルと王妃レティエンヌ、宰相トパーズ卿はお忍びでこの国へ『お花見』というものをしにやってきているのであった。


王妃レティエンヌの侍女サンゴがこの国のカンパク令嬢で(カンパクは宰相に当たる)、サンゴから「サクラ」は素晴らしいと聞いたレティが、どうしても見たいということになって、国王・宰相と3人非公式でカンパク家へ花見に来たのだった。




花を愛でるのはそこそこに、男性陣はすっかり宴会モード。

御昼過ぎにはすっかり出来上がってしまっていた。


「ああ、もうシャルーったら、サクラを見ませんこと?」

呆れ顔でシャルルに詰め寄るも、

「レティ、このジザケ美味しいよ? うちの国にないから、今度から輸入しようかぁ」

などと、上機嫌でほざいている。

「酔っ払いい!! いつもこんなに酔ったりしないのに、変ねぇ?」

引っ付いてくるシャルルを押しのけながら、柳眉をしかめるレティ。

ワインやブランデーなどは常に飲んでいるし、ここまで酔っぱらうことなどないのだが。

「このジザケは、かなりきついのですよ。陛下もトパーズ公爵様も飲みなれておられないので仕方ございません」

サンゴが苦笑いしながら説明する。

「ふうん? そうなの。でも、つまらないわねぇ、二人ともこの調子じゃどこにも行けなさそうだし」

シャルルとトパーズ卿をじと目で見るレティ。

「遠出は無理でしょうから、お隣の大内裏へ参りましょうか?」

「大内裏?」

「はい。王城でございます。内緒でこっそり参りましょう。叔母上様に会いに行くという名目か何かで」

「サンゴの叔母様はどういうお方なの?」

「はい。父の妹に当たる方なのですが、この国の正妃でございます」

「まあ、そうだったのね」

サンゴの実家のカンパク家は、ヒイヅル国では一番の名門貴族。

後宮ではお妃・側室、政治面ではカンパクやダイジンなどの重職を歴任しているのだ。

よって、サンゴの実家も王都キョウの王城・大内裏に隣接している。

それはキョウの中でも一等地の中の一等地である。


「正妃様にいきなり会いに行っても大丈夫なものなの?」

はちみつ色の瞳を好奇心でうるうるさせながら、レティが聞く。

「はい、先触れは出しますけれど。でも、二人だけで出歩くのは憚られますねぇ……」

頬に手を当てて思案顔のサンゴ。

面会は問題ないが、移動手段が問題らしい。

「じゃあ、移動魔法で行きましょう! う~ん、外の門は開き戸だったわよね?」

レティが確認する。

レティの移動魔法は、扉の上に魔法陣を展開させそれを開くと移動先に出るというものだ。

まあ、ど○こでもドア的なもの。

しかし、この国のドアは基本的に引き戸ばかり。

さすがのレティも引き戸に魔法陣を展開したことがなかったので、辛うじて思い当たったこの屋敷の門を使おうと考えたのだ。

「はい、そうでございます。でも、重たいですよ? 多分」

と言っても、常に自分で開けることなどないサンゴは重さなど知らないのだが。

「大丈夫! そこは魔法で何とかなるから!」

かわいらしくウィンクしてみせるレティであった。




屋敷の門の内で魔法陣を展開する。

「よし! いざ!」


ぎぎぃぃ……


重量軽減の魔法をかけた屋敷の門は、レティの力でも軽々開いた。

そして、開けた先には。


「まぁぁぁ!! これが魔法というものなのですね!!」


きらびやかな衣装を着た、艶やかな美女がこちらを見ていた。

部屋の奥、周りよりも一段高いところに座する彼女は、目の前にいきなり現れた姪御とレティを見つめている。

「いきなりごめんあそばせ、叔母上様!」

にっこりとサンゴが挨拶する。

「本当に、久しぶりねぇ? サンゴ。アンバー王国では元気にしてて?」

ゆっくりと優雅な仕草で口元にあった扇をのけながら、切れ長の目を細め、つややかに赤い口端を上げて微笑む美女。

眼の前にいた艶やかな美女が、ヒイヅル国の正妃・ルリであった。

「はい、それはもう! 毎日とても楽しく過ごさせていただいておりますわ! そう、ルリ叔母様、こちらがアンバー王国のレティエンヌ王妃様ですの!」

嬉しそうに叔母の元へ寄り、後ろを振り返りレティを紹介する。

「ご紹介に預かりまして、レティエンヌ・ウル・アンバーと申します」

にっこりいつもの超絶かわいいスマイル全開で、ワンピースをちょんとつまみ、レディの挨拶をするレティ。

「まあ! なんて愛らしい王妃様なのかしら!! 非公式の訪問なのですから、気を使わずに見学して行ってくださいませね!」

ルリもレティの可愛さににっこりと破顔する。

「うれしいですわ! ありがとうございます!」

「こちらにはサクラを見にいらしたとか? 内裏にもカンパク家に負けぬ美事なサクラが咲いてましてよ? サンゴ、案内してさしあげなさい」

「はい! ではレティ様参りましょう!」

サンゴは元気よく返事すると、レティを連れてルリの部屋を後にした。




サクラを見ていたはず。

サンゴの後について行っていたはず。


なのに。


「なぜ私はサンゴとはぐれてる?」


おやおやおや?? と、首を傾げるレティ。

内裏に咲くサクラを見た後、またルリの部屋に向かっていた二人。

途中でアンバー王国にない庭の景色にうっとりと見入っていたら、サンゴを見失っていた。

この国の建物は、廊下が曲がりくねっている。直角にかくかくと曲がっている。

途中で部屋に入られても判らなくなる。

「おーい、サンゴぉ~」

大きな声は出せないので、小さな声で呼んで歩くレティ。


し~~~~ん


完全迷子だ。


「どうしましょ!? 移動魔法……引き戸でもできるかしら??」

自分の横に、整然と並ぶ障子の引き戸とにらめっこしながらつぶやく。

とりあえずやってみなくちゃわからない~、と、魔法陣を展開させようとした時。


「どなたかな? 見かけない人だ」


凛とした声が、後ろから響いた。

「あわわっ?!」

驚いて振り向くと、そこにはすらりとした男の人が立っていた。

切れ長の涼やかな目元が、レティをじっと見つめいている。

あっさりとしているが、きれいな顔立ち。

薄い唇に微笑みをのせたまま、

「この国の者ではありませんね? どちらからの留学生かな?」

じりじりとレティとの間を詰めてくる。

「えーと、あの、ですね。カンパク家に滞在している者なのですが…… サンゴとはぐれてしまったようで……」

詰めてくる間を開けるべく後退するが、いかんせん後ろは障子。

あはははは~と笑ってごまかすレティ。

とうとう目の前に立った彼は、レティの両手を取り、


「とても美しい方だ。どこの国のお嬢様かな? お名前は何と言います? このまま私の妃になりませんか?」


うっとりとレティの瞳を覗き込みながら言い放った。

「はぁぁぁぁ????」

眼を見開き驚き呆れるレティ。

この状況でいきなりお妃て!! あんた誰ね~!? だ。

驚きすぎてパクパクしながら目の前の男を見上げていると、


「こらぁ!! メノウ様!! こんなところでナンパしない!!!」


スパーーーーン!! と扇が飛んできて、見事に目の前の男の頭にヒットした。

「あいたっ!! サンゴ!! 扇を投げるな!!」

当たったところを押さえながら、メノウと呼ばれた男が扇の飛んできた方向を睨む。

そこには見失ったはずのサンゴが仁王立ちしていた。

「サンゴおおおおお!!」

取られていた手を振り払いサンゴの元に駆け寄るレティ。

「ああ、レティ様!! 大丈夫でございますよ?」

駆け寄るレティを笑顔で抱きしめてからサンゴはメノウに向かい、

「こら! メノウ様! このまま叔母上様のところへ行きましょうか?」

じと目でメノウを睨むサンゴ。

「いやいやいやいや!! それはちょっと……って、この方は母上の客人か?」

先程までの余裕の微笑みはどこへやら、引きつり笑いになるメノウ。

「そうですよ! さ、レティ様、戻りましょう」

引きつるメノウを放置して、レティの手を取るサンゴ。

「うん。ねぇ、サンゴ。この方はどなた?」

そのままずんずんと引かれて歩きながらも、小首を傾げてサンゴに問うレティ。

「……叔母上様の息子で、お恥ずかしながらこの国のトウグウ(皇太子)でございます……」

眼をそらして、すこしきまり悪げに告げるサンゴ。

「まあ! そうでしたの!」

またもや眼を見開き驚くレティ。

するとすかさず、

「そうなんですよ! で、あなたはどちらのお嬢様ですか?」

いつの間にか復活して、二人の後ろにくっついてきているメノウ。

「「む……」」

お忍びの訪問ゆえに、軽々しく名乗れないレティとサンゴ。

「こほん。この方はすでに奥方様なので、ナンパしても無駄よ? メノウ様」

気を取り直してメノウに宣言するサンゴ。

隣でコクコクコクコクと肯くレティ。左手薬指に光る結婚指輪を見せつけながら。

「ウソだぁ! 絶対サンゴよりも年下だろ! 信じないからな!」

それでもしぶとく食い下がるメノウ。

「仕方ないですわ。引き戸でも魔法陣ができるかしら?」

そう言うとレティは障子に移動魔法を展開した。




「シャル~~~~!!!」

引き戸でも魔法陣はうまく発動した。

そして移動したカンパク家の宴会場、もとい、大広間。

まだまだ宴もたけなわなところで、上機嫌のシャルルに飛びつくレティ。

「どうしたの~? そういやレティ、どこいってたの?」

まだ上機嫌なシャルルがフニャフニャしながらレティの頭を撫でる。

「ちょっと散歩行ってたの。そしたらナンパされちゃったの!」

ウルウルお目目でシャルルを上目づかいで見るレティ。


「なんだってぇぇぇぇぇ!!!!」


レティの爆弾発言にばちーーーーんと目が覚めたシャルル。

腕の中のレティを少し剥がして、

「大丈夫だった? 誰だ? そんな不埒な輩は!!」

今にも攻め入りそうな様子。手元に剣がなくてよかった。

「結婚してるのも信じてくれなくて困ってるの。何とかしてぇ」

「どいつだ?!」

鋭い目で周囲を見るシャルル。

シャルルの胸元にひしとくっついたまま、指だけで『アレアレ』と指すレティ。

そこには、レティとサンゴと一緒に移動してきたメノウが立ちすくんでいた。

「彼が、彼女のだんなさん?」

レティとシャルルのやり取りを一部始終見ていたメノウが、隣に立つサンゴに問う。

「そうですよ」

にっこり答えるサンゴ。「ああ、やっぱりこのお二人はほんとうに仲睦まじくていらっしゃるわぁ!」とうっとり見つめている。

さすがにこの二人に隙がないことを理解するメノウだった。




王国へと帰る段になって。

「ご主人に愛想を尽かすことがあったら、いつでも迎えに行きますから!」

レティの手を取り、しっかり握り締めるメノウ。

結局レティ達は『トパーズ公爵の娘夫婦』と紹介された。ビミョーなニュアンスの違いはあるが、間違いではない。

「ねえから」

びしっとメノウの手を叩き落とすシャルル。

その自由になった手をシャルルに絡めて、

「さ、帰りましょ!! みんなが待ってるわ」

にっこりと超絶スマイルを繰り出すレティ。


色々あったけど、楽しかったわ~、とご機嫌なレティだった。


レティ、ナンパされるの巻でした(^^)


「トウグウ」。私は「春宮」のほうが雅な感じがしていて好きです。


今日もありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ