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王妃様のお花見

あー、すっかりご無沙汰になってしまいました。


そろそろ春ですね♪

ここはアンバー王国王都ディアモンド。

厳しい冬も終わりに近づき、だんだんと暖かい日が増えてきた頃。




バーーーーン!!

「シャルー!! あのね、私、ヒイヅル国に行きたいの!!!」

「「はぁぁぁぁ????」」


ある日の午前中。

今日も今日とて、国王シャルルは最愛の王妃レティエンヌと少しでも長い時間を過ごすためにと、シャカリキに執務に励んでいた。


後もう少し……!頑張れ、オレ!


自分に檄を飛ばしつつ、最後のスパートに入ろうかという時だった。


バーーーーン!!

突然、執務室の扉が全開されたかと思うと、最愛の王妃その人が姿を現し、

「シャルー!! あのね、私、ヒイヅル国に行きたいの!!!」

とのたまったのだ。

その場に居合わせた宰相――レティの父親でもあるトパーズ卿だが――ともども、いきなりの登場、いきなりの発言に、

「「はぁぁぁぁ????」」

面食らうばかりであった。


「レティ。いきなり登場して、何を言い出すんですか」

先に我に返ったトパーズ卿がレティに問う。

「あら、お父様、いらしたの? ええとですね、私、ヒイヅル国で『サクラ』なるお花を見てみたいんですの!」

美しいハニーブラウンの瞳を好奇心で爛々と輝かせながら、レティは何でもないように父親に向かって言った。

「『サクラ』? 聞いたことのない花の名ですね」

顎に手を置き、考えるトパーズ卿。

「こちらにはない、かの国独自の花だそうですの。樹全体に桃色の花をつけ、それはそれは幻想的なんだそうです」

勝手に妄想に入り、うっとりとした表情で言い募るレティ。

「それは、また侍女のサンゴから聞いたの?」

やっと戻ってきたシャルルが、レティの目の前で手をひらひらさせながら言う。

「そうなんですの。サンゴが絶賛する『サクラ』を一目見たくなったんですの!」

眼の前でひらひらしてしたシャルルの手を「きゅっ」と握り締めて熱く語るレティ。

サンゴと言うのはヒイヅル国の宰相令嬢。ここで行儀見習いとしてレティの侍女をしているのだった。

「ヒイヅル国って……」

もう片方の手でレティの手を包み込み、ハニーブラウンの瞳を見つめるシャルルは、少し困惑気味。

「ちょっとだけですから? ね? 魔法陣で、パパッと行って帰ってきますわ!」

「レティだけじゃだめ。オレも行く」

慌てて言い切るシャルル。

「いや、ちょっと待ってください。陛下は執務をどうするんですか?!」

冷静な宰相から待ったがかかる。

「レティも。いきなりそんなことを言いだしてどうする? 一国の王妃が軽々しくいきなり他国に花見に行けるとでもお思いか?」

呆れたように、レティにも言い聞かせる。

「それより、レティ。今は執務時間だよ? とりあえずこのことは後から話し合いましょう」

そう言うと、宰相は執務室からレティをポイッとつまみ出したのだった。




「じゃあ、こっそり行きましょうよ」


あれから執務を無事終えたシャルルと、トパーズ卿も一緒に昼食を終えて。

サロンでお茶をしながら、『ヒイヅル国へ行こう会』計画を練る。

「正式の訪問ではなく、こっそりお忍びの花見と言うことにしない?」

レティが提案する。

「サンゴのおうちのサクラを見て、帰ってくるだけ」

にっこり超絶スマイルで言われると、抗えないのがシャルル。

「うっ……。わかった」

「で? いつ行くのですか?」

またもや冷静に問うトパーズ卿。

「うーん、明日か明後日? ねえ、サンゴ。いつくらいがいいのかしら?」

後ろに控えている侍女のサンゴを振り返り、レティが問うと、

「ええ、明後日くらいが見頃ではないかと。一昨日の実家からの通信では申しておりました」

にっこりとサンゴが答える。

「じゃあ、明後日にしましょ!」

レティが勝手に決めてしまう。

「では、明日、陛下には目いっぱい執務に励んでいただきますから」

冷たく言い放つ宰相。

「うう……。わかった」

項垂れるシャルル。




「魔法陣は、オレが展開しよう」

シャルルが言う。

あまり知られていない話だが、シャルルの方がレティよりも魔法レベルは上だったりするのだ。普段は魔導師達がすべてを取り仕切っているので、披露する機会がないだけなのだ。

「はい。おねがいしますね」

にっこり上機嫌で返事をするレティ。

今の二人は平民の姿。

シャルルはダークスーツ姿。レティは春らしい、淡い若草色のワンピース。

サンゴも、自国の衣装を身に纏っている。キモノと言うらしい、絹に色とりどりの文様を織りなしたものだ。

一応、トパーズ卿もついてくることになった。

ちなみにシャルルとトパーズ卿の留守番は、卿の長男であり、宰相見習いのエメリルドに押し付けられた。卿の「お土産買ってくるからね~」の一言だけで。


魔法陣を展開して、座標をヒイヅル国のサンゴの家に置く。


「いざ、発動――」




そこは、アンバー王国とは全く違った雰囲気であった。

家・屋敷は木でできており、基本的に平屋。

広い庭を囲むようにいくつもの建物が建てられている。

サンゴの家は宰相カンパクというの家だけあって、かなり立派なものであった。

先触れは出していたので、

「これはこれは、わざわざのお越し、光栄にございます――」

サンゴの父であるカンパクのヒスイがにこやかに出迎えてくれた。

「久しぶりだな、カンパク殿。急なわがままを言って申し訳ない」

シャルルが挨拶する。

「いいえ、とんでもございません。このように急でなければもっとおもてなし出来ましたのですが……。急ごしらえで申し訳ございませんが、桜の宴の準備をいたしました。どうぞご堪能くださいませ」

人のよさそうな笑みを浮かべて、ヒスイはアンバー王国ご一行様を庭の桜が良く見える広間に案内する。


カンパク家のサクラは見事なものであった。

大ぶりの枝に、みっしりと咲き誇るサクラ。

風もなく、麗らかな陽気のなか、一片一片とはらはら散っていく様は何とも優雅で儚い。

それを愛でながら、

「ほんとに美しいですわね~! こんな花、初めて見ました!!」

レティとサンゴはサクラに近い、かなり端近な所に鎮座して、サクラモチなるワガシとマッチャをいただいている。


一方、シャルルとトパーズ卿は。


「ささ、もっと召し上がりください。この国のジザケでございます」

にこやかにヒスイが酒を勧める。

「やや、これは実に美味い!」

アンバー王国にはない美酒に、トパーズ卿もご機嫌。

「トパーズ卿、これをエメルの土産にすっか~」

シャルルも珍しい酒とごちそうにすっかり上機嫌で出来上がっている。


せっかくのサクラはどこへやら。男性陣は昼間から飲めや歌えや騒がしい。

すっかり部屋の中で宴会に興じている。

「シャルーもお父様も! 何しに来たのかわからないじゃない! お酒ばっかり飲んでないでサクラを愛でたらいいのに。もったいない!」

レティが宴を半目で見ながら呆れかえる。

「ま、いつもこのようなものですわ。殿方は花見と称して酒の宴を開きたがるものなのです」

サンゴがじと目で父親を見ながら言う。


「もう連れてこないんだから! 今度からはこっそり一人で来るわ!」

そう心に誓うレティであった。


今日も読んでくださってありがとうございました。


もうすぐお花見の季節ですね~。って、まだ早いか(笑)


うちの隣、桜で超有名な公園なんですけど、花見の時期はうるさいのなんの……

(^^;)

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