公爵令嬢のデビュー
本編より3年ほど過去です。
『公爵令嬢の魔法陣』の後のお話。
ここはアンバー王国王都ディアモンド。
アンバー王国筆頭貴族であるトパーズ公爵には、二人のご子息と二人のご令嬢がいた。
長男のエメリルドは23歳、父の仕事を継ぐためにと王城で事務官をしている。
ちなみにトパーズ公爵は先代の国王からの宰相を務めている。
二男のサファイル21歳は、近衛騎士団に所属しており、実力も素晴らしく、副団長を務めている。
長女のミリーニアは18歳。大輪のバラのように美しい彼女は、社交界の華、宝石ともいわれ縁談が引きも切らない様子。本人がまだ乗り気でないことからどれもまだ纏まってはいないのだが、それがますます若い貴公子たちの間でもてはやされる一因ともなっていた。
末っ子の、次女のレティエンヌは14歳。まだ社交界にデビューしてないにも拘らず、独身貴族の中では噂に上ることもしばしばであった。
艶やかな姉とは対照の、清楚で可憐な美しさ。末っ子で、屋敷中のみんなから溺愛されて育っているので、素直で無邪気な性格。
まだ見ぬ姫君に対する期待はとどまることを知らず膨らんでいくのであった。
そんなレティも再来月には誕生日が来て15歳になる。
「そろそろ社交界にデビューかな。」
父のトパーズ公爵が言う。
「そうですわね。お披露目を兼ねた夜会を開きましょうか。ああ、どんなドレスにしましょう、ウキウキしてきますわ!ミリィとレティ、色違いのお揃いっていうのもいいかも!」
母の公爵夫人も同意する。すっかり妄想モードに入っていたが。
「じゃあ、早速準備に取り掛からねばなるまいね。」
公爵もにっこりと上機嫌で言った。
「宰相んちでパーティーやるんだって?」
しばらく後、国王陛下―フィリップ・ド・アンバー―の元でお茶をしていたトパーズ公爵に、国王が訊ねてきた。
「お耳が早いですね~。そうですよ。うちの末っ子レティのお誕生日兼社交界デビューぱーちーですよー。」
にこにこ笑いながら答えるトパーズ卿。
「いいなぁ、いいなぁ、オレも行きたい。かわいいレティはますますかわいくなっただろうなぁ。」
以前に会ったレティの姿を思い出して思わず笑顔になる。
「あの時はまだ12歳だったかなぁ?それでもすっごい美少女だったなぁ。あー、うちの息子にちょうだいよ。」
「レティをですかぁ?え~やだなぁ。王太子妃なんかになっちゃったらなかなか会えなくなるじゃないですか。」
「そんなこと言わずにちょうだいよ、公爵ぅ~。」
何気にフィリップとトパーズ卿は幼馴染だったりする。ご学友?みたいな?
だから、誰もいないときは友達のような会話になってしまう。
「なんだかこないだ偶然出会ったらしいじゃないか。それから毎日のようにレティの話ばっかりしてるんだけど?うちの息子。」
「あ~、そんなことありましたね~。」
先日の忘れ物お届け騒動だ。
魔法陣を使ってレティが王城の宰相執務室に届け物に来た際に、王太子シャルルと出会ったのだ。どうやらそこでシャルルはレティに一目ぼれしたらしい。それ以来なにかとトパーズ卿にもレティのことを聞いてきたりとうるさかった。
「わかった!じゃあ、来月のぱーちー、オレんとこでしよーよ!」
「って、お城でぇ?」
まさかの発言に驚くトパーズ卿。
「そうそう!そしたらオレもレティに会えるし~!シャルルも大喜びだ!」
自分の発言に満足したのか、上機嫌で計画を進めようとする国王。
「う~ん、まあ、いいですけど?お城でお誕生日パーティーしたら、特別扱いも甚だしいじゃありませんか。」
「いや、公爵家の子供たちはみんな特別なんだよ!うちの子たちと同様だ。」
確かに、フィリップはトパーズ家の子供たちも大層可愛がっていた。
「はいはい。わかりました。妻にも伝えて、準備しなおさないと。」
「こっちの準備はまかしとけー!!」
親指を立ててグッジョブポーズのフィリップだった。
「レティのお誕生日パーティー、お城でやるんだって!すごいじゃない、レティ!」
午後のお茶を飲みながら、レティの姉、ミリーニア―愛称ミリィ―はレティに言った。
「大袈裟よね~。わたし、おうちでみんなでケーキ食べるくらいでよかったのに。」
ちょっとしかめっ面も超キュートなレティ。
ミリィは、レティとお揃いの濃いハニーブラウンの柔らかくウェーブする髪と、同じくハニーブラウンの瞳は常にうるうるしていて、まろやかな白い肌と綺麗に紅を引いた唇、どれをとっても美女と言うにふさわしい、艶やかさを身にまとっていた。
反対にレティは、サラサラの水の流れるようなストレートヘア。姉とよく似た白い肌、紅をささずとも瑞々しい桃色の唇、華奢な体、清楚・可憐と形容するにふさわしいかわいらしさ。艶ではなく、きらきらとした光をまとっているような感じだ。
「あら、ケーキならいっぱい食べられるわよ!それもとびきり美味しいのをね。それに極上のケーキだけじゃないわよ、美味しいごちそうでも何でも食べ放題に飲み放題!」
ニヤリと笑うミリィ。彼女は抜群のスタイルにも関わらずすごい大食漢でお酒も強いのだ。
「ケーキも食べ放題?う~ん、魅力的!」
ほんのオプションに過ぎないケーキ食べ放題に魅力を感じてしまったレティ。
さっきまでの死んだ魚の目と違い、生き生きキラキラ目を輝かせる。
「そうよ~!歌って踊って食べて飲んで!パーティーってとっても楽しいのよ!」
どこの宴会だ、ミリィ。
パーティー当日。
お城に着き、次兄サファイルのエスコートで馬車を降りるレティを待ち受けていたのは、恐れ多くもロイヤルファミリー、国王・王妃・王太子シャルルであった。
「おお、おお、レティ。また美しくなったね。今日は誕生日おめでとう。いろいろプレゼントも用意してあるぞ、さ、存分に楽しんでくれ・・・うぉっ?!」
上機嫌でレティに話しかけるフィリップの言葉の途中にも拘らず王太子シャルルが、ずいっと父親を押しやると、
「お久しぶりです、レティエンヌ嬢。お元気でいらっしゃいましたか?今宵は私にエスコートさせてくださいね?さ、中へ参りましょう。」
アンバー王家特有の琥珀色の髪、それを短くさわやかに整えたシャルルは間違いなく美形。これまた同じ琥珀色の瞳にレティだけを映して爽やかに微笑みながら、レティに手を差し伸べる。
「お久しぶりでございます、王太子殿下。先日は失礼いたしました。今宵はこんなに素敵な夜会に招待いただきましてありがとうございます。さ、兄様参りましょう。」
と、ドレスの裾をちょこんとつまんで淑女の礼をしたにもかかわらず、差し伸べられた手をまるっとスルーするレティ。
ガクッと、項垂れるシャルル。
が、次兄サファイルは、
「あーレティ、ここからはシャルル殿下がエスコートだよ?おれさぁ、王女様のエスコート頼まれちゃってんだよね~。」
と、あっさり妹の手をシャルルに渡してしまった。
「はあああ?・・・ちょっと兄様、話が違うじゃない。社交は適当に、飲み放題食べ放題をエンジョイする約束だったじゃない!」
小さな声で兄に抗議するレティ。王子にエスコートなんてされてた日にゃ、たべほーどころかお相手するのにいっぱいいっぱいで食いっぱぐれかねない!
「だってさぁ、オレのアイドル第二王女様のエスコートなんだぜ?断るかっつーの。」
「・・・兄様、買収されたわね・・・」
「さぁ?」
とぼけるサファイル。
「くっ・・・覚えてなさい!兄様!」
レティの捨て台詞は、王女様にデレデレの次兄にはもう届いてはいなかった。
「さ、参りましょう。私からもプレゼントを用意してますから、ぜひ受け取ってくださいね!!」
満面の笑みで促すシャルルに、今日の食べ放題を諦めの境地でついていくレティだった。
パーティ編も書きたいな~と思っています。
少々おまちくださいませ☆
今日も読んでいただいてありがとうございました!
2012/02/20誤字修正しました m( _ _ )m




