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王妃様の実験

ゆっる~いお話なので、軽く読んでくださいね。

楽しんでもらえるとうれしいです。

ここはアンバー王国という。

南は海に面し、北は険しい山をのぞむ。

とりわけ大きな国土を保有するわけでもないが、豊かな大地と概ね穏やかな気候の賜物で、とても豊かな国である。

隣国との国交も友好的で、とても平和であった。


そんなアンバー王国の王都ディアモンド。

今は人々が各々仕事を始めようかという時間。


市街地を見下ろす小高いディアモンドの丘の上の王城の一室、王妃の間にて、ご本人である王妃様 ― レティエンヌ・ウル・アンバー ― が、何やら科学実験の器具のようなものを前にごそごそとやっている。

レティエンヌ ― 愛称レティ ― は、ただ今風邪薬を調合中なのであった。




う~。朝から喉が痛い。なんだか熱っぽいし。


本格的に風邪をひいてしまう前に薬を飲もうと思ったのだ。

薬は城の薬師に言えばすぐ調合してくれるのだが、レティは自分で作ってしまおうと行動していた。


レティは、アンバー王国筆頭公爵家の令嬢だった。

筆頭公爵家トパーズ家は、魔術に優れた家柄で、優秀な魔導師を何人も輩出してきた。

魔術だけではなく政治にも優れているので、常に魔導師長か宰相かどちらかにトパーズ家の人材が登用されている家柄。

そんなトパーズ家の末っ子がレティで、そして17歳ながらもしっかりと優秀な魔法使いでもあった。

この国の薬は、魔導師達が薬草と魔術を絶妙にミックスさせて作っている。

魔導師は、いうなれば薬師兼お医者様みたいなものでもある。

『よく効く薬』なのか『効かない薬』なのかは、調合した魔導師にかかっているともいえる。街でヤブと言われる薬師は、魔術が足りてないのに起因するのである。

というわけで、優秀な魔法使いであるレティにとって、薬は何の問題もなく作れるものであった。




薬草は、城の庭園で育てられている。

無農薬・安心安全有機肥料で、庭師のオニキス爺やが丹精込めて育ててくれている。

「おはよう、爺や。」

愛らしい笑顔でレティが爺やにあいさつする。

「おはようございます、レティ様。今朝はどういうご用事ですかな?」

好々爺なオニキス爺やがニコニコしながら聞いてくる。

爺やはもちろんのこと、城中の者が、小柄で華奢、濃いはちみつ色の髪と瞳の、それはそれは可憐なこの王妃様をとても可愛がっているのであった。爺やに至っては、自分の孫たちよりも年若い王妃様を、本当の孫以上に可愛がっているといっても過言ではない。ちなみに彼の孫の何人かは、近衛兵にいたりする。

「風邪薬を調合したいの。薬草を見繕ってくれる?」

「おや、どなたがお風邪をひかれたのですか?」

「実は私が。あ、でも陛下には内緒ね。ばれちゃったらベッドに軟禁間違いなしだもの。」

ちょっと不服気に口元を尖らせる。

そう。彼女の旦那様 ― 国王であるシャルル・ディ・アンバー ― は、ものすごーく彼女を大事にしている。それはそれはまぶしいくらいの寵愛で。そして周りの者はその溺愛っぷりを呆れ…いや、温かい目で見守っている。

だから、風邪気味なんてばれたら確実に「ベッドで絶対安静!」なんてことになってしまう。

「おやおや、それはいけませんね。で、どの様な症状でございますか?」

穏やかな声音で爺やは尋ねる。

「喉の痛みと微熱、かな?でもまだ軽いのよ?今朝起きた時からだし。だから早目に薬を飲もうと思ったのよ。城の薬師に頼んだら早いけど、絶対陛下にばれちゃうじゃない。だから自分で作っちゃおうって思ったの。」

「クスクス。陛下にも困りものですな。では、これとこれと…」

国王のことを考えて、クスクス笑いながらもオニキスは手早く薬草を集めてくれた。

そしてそれらを水で綺麗に洗って、レティに渡しながら、

「くれぐれもお大事になさってくださいませ。」

と優しい笑顔で言ってくれた。

「ありがとう、爺や!陛下には絶対に絶対の内緒よ!」

レティは手を振りながら庭園を後にした。

「はいはい。わかりましたよ…って、微熱くらいではなさそうなんですがねぇ。」

と、日頃よりも紅いほっぺの色を思い、心配そうに後姿を見送ったオニキスであった。




自室に戻って、調合の道具なんかを用意して薬を調合し始めた。

レティの片手には「トパーズ家秘伝☆御薬大全」なるぶっとい本。

風邪薬なんて、ちょろいもんだった。

本来ならば。




どっこーーーーん!!!

「きゃーーーーーーー!!!!!」

ゴロゴロゴロ・・・・・・ごん!!!!

「~~~~~~!!!!!」




一方。

国王シャルルは自分の執務室でせっせと書類の山を処理しているところだった。

最愛のレティと過ごす時間を少しでも長く勝ち取るために、彼は常に常人とは思えないスピードで仕事をこなすのだった。

一日の執務を、いかに午前中で終わらせるか…これが彼の至上命題であった。

そこへ突然、


どっこーーーーーん!!!


という爆発音がした。

石造りの城が、わずかに揺れる。

「なっ!?」

驚き、はっと執務室の扉の方を見やると同時に、


「きゃーーーーー!!!」


次は悲鳴が響いた。

あれは間違いなくレティの声!!!

「レティ!?」

最愛の奥様の名前を叫ぶと同時に、シャルルは部屋を飛び出していった。




何をどう間違えたんだろう??

どうやったら風邪薬で爆発させることができるのよ??


薬草を調合し終えて、魔力も込めて、最後に火であぶり少し煮詰める。

煮詰めようと試験管を火に翳した時だった。


どっこーーーーーん!!!


爆発した。


本人は気付いていないが、それは明らかに魔力を込めすぎたことが原因だった。

風邪気味で、ちょっと熱っぽいこともあって、魔力の分量を間違えたのだ。

感覚って、恐ろしいものである。

とっさに防御の結界を張ったが、小柄なレティは爆発の勢いで吹っ飛ばされた。

正確に言うと、吹っ飛ばされて転がっていった。


ごろごろごろ・・・・・・ごんっ!!!


軽くしか閉められていなかった扉をも開け放ち、廊下まで転がり、最後に廊下の壁で後頭部を痛打した。

「~~~~~~~!!!」

声にならない呻きが漏れた。

あまりの痛さに、頭を抱えて蹲ってしまった。

なんでお城は石造りなのよっ!と見当違いなことを思いながら。




どたどたどたどた!!!

足音を幾つも引き連れて、シャルルが階段を駆け上りレティの部屋に急ぐと、部屋の前には頭を抱えて「う~う~」と呻りながら蹲るレティ。

「レティ!!何があった!?」

レティに慌てて駆け寄り抱きしめてから、どこか異常がないか探すシャルル。

「あ~~~。シャルー。ごめんなさい。」

打撲の痛さから涙目で旦那様を見上げるレティ。

「すっごい爆音が聞こえたんだけど…、レティ、何してた?」

超キュートな涙目レティにニヤつきそうになる自分を「いかんいかん」と戒めながら、ちょびっと怖い声でレティに質問すると、

「えーと、ちょっと薬の調合に失敗しちゃって…えへっ」

笑ってごまかそうとするレティ。

「ちょっとじゃないよね?薬なら城の薬師に言えばいいことじゃないか。そんなかわいい顔して誤魔化そうったって、俺には通用しないからね。白状しなさい。」

「あ、でも周りには初めから結界を張ってたから、家具とか壁とかは無事よ?試験管とかが壊れちゃっただけ。」

またまたかわいい笑顔で、すっとぼけたことを答えるレティ。

「そーゆーことじゃなくて!ちゃんと何をしていたのかを答えなさい。」

しらばっくれるレティの頬を、しっかりと自分の両手で固定して、じと目で見据えるシャルル。


結局、すべてを白状させられたレティは、城の薬師が配合した風邪薬を飲まされて、自室のベッドに軟禁されてしまうのでありました。

ベッドの横には仕事をこちらに持ち込んだシャルルの見張り付きで。


読んでくださって、ありがとうございました。

これからも、よろしくお願いします。

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