梅雨は明けた
君がいなくなってから
ちょうど38ヶ月。
明るい朝を迎えた。
僕は太陽を歓迎する。
以前の君がしたように。
大学の研究室での忙しさが
気分を紛らわせてくれる。
君の存在を忘れさせる。
水槽内のピンク色のハイマツミドリイシは触手を伸ばしている。
ハイマツミドリイシは触手の長く伸ばす変わったミドリイシだ。
今、僕はフェノールオキシダーゼ、
つまりフェノール酸化酵素の定量をしている。
直接酵素を測定するのではなく、mRNAで酵素の存在がわかる。
美白に関係するメラニン産生酵素と同じだ。
このフェノールオキシダーゼがハイマツミドリイシを紫外線からも護っているのだ。
君のいたときは、ハイマツミドリイシなど飼育できなかった。
成長も早いが、RTN、つまり共肉が剥がれる速度も速いミドリイシだ。
典型的な浅場ミドリイシでありながらも、
ハイマツミドリイシの飼育の難しさはこのフェノールオキシダーゼに関係しているのかもしれない。
水質によりフェノールオキシダーゼ産生量が変化して、光参加に耐えられなくなるのかもしれない。
つまり光の適応幅が狭いのだ。
そしてフェノールオキシダーゼに依存している。
君が遺伝子抽出方法を教えてくれた。
君ほど僕にとってすばらしい先生はいなかった。
38ヶ月。
僕は一人でも遺伝子実験ができるようになった。
君が教えてことはひとつも忘れていない。
どれひとつさえ、忘れてない
教えてくれた1000のこと。
君の1000は尊い。
すべて役立っている。
電気泳動のスマイリングをなくすコツ。
電気泳動のゲルをきれいに剥がすコツ。
遠心分離の上澄みをとるコツ。
エタノール沈殿の意味
僕は君のおかげで研究者の道を選んだ。
もうすぐ夏は来る。