小さな王国の最後の日
とある断崖絶壁。
そこに、私たちの小さな国はあった。
巨大な岩壁の奥深く。入り口は一本の大きな木によって守られ、外敵から私たちを隠してくれている。
その木の根元から続く暗い道の先には、いくつもの部屋が広がっていた。
そこが、私たちの家。
私はまだ子供だった。
外の世界を知らない。ただ、毎日を仲間たちと過ごし、大人たちに守られて生きていた。
「さあ、ご飯だぞ」
大人たちはいつも優しかった。遠くまで出かけ、食べ物を集め、私たちのために運んできてくれる。
小さな身体なのに、みんな必死だった。
「私も大きくなったら、みんなのために働くんだ」
そう思っていた。
いつか私も、大人たちのようになれる。
そう信じていた。
その日までは。
突然だった。
ガガガガガガ……
地面が揺れ、壁が震えた。今まで聞いたことのない巨大な音が、私たちの家に響き渡った。
「なに……?」
「何が起こっているの!?」
仲間たちが怯える。
大人たちが慌てて走り回る。
そして入り口を守っていた、あの大きな木が動いた。
抜かれたのだ。私たちの家を守ってくれていた木が。
光が差し込む。
今まで見たことのない、真っ白な世界。
そしてそこに現れたもの。
「あれは……?」
巨大な影。私たちから見れば、山のような存在。
人間だった。
「うっわ……気持ち悪!!」
その声は、雷のように響いた。
人間は巨大な棒を持っていた。
それは私たちの家よりも遥かに大きく、簡単に壁を壊していく。
ガリガリ。
ズズズズ。
長い年月をかけて作った部屋が、崩れていく。
「やめて……」
「そこには卵が……」
私たちの未来がある。まだ生まれていない仲間たちがいる。
でも、人間には届かない。
「げぇ……どんだけ卵あんだよ。きんも」
その言葉が胸に刺さった。
私たちは何をしたのだろう。
ただ生きていただけ。
ただ家族を守っていただけ。
人間から見れば、ただの邪魔な存在なのかもしれない。
大人たちは必死だった。
自分たちよりも、子供たちを。
卵を。
小さな命を守るために、何度も何度も立ち向かう。
でも、相手はあまりにも大きかった。
人間は白い煙を吹きかけた。それが何なのか、私たちは知らなかった。
ただ、苦しかった。
身体が動かなくなる。
仲間たちの声が消えていく。
目の前で、大切な家族が倒れていく。
「どうして……」
最後に、私は空を見た。
初めて見る青い空。
こんなにも広かったんだ。
私たちは、ただここで暮らしていただけなのに。
誰かを傷つけたわけでもない。
奪ったわけでもない。
ただ、生きていただけなのに。
私たちの国は、人間の庭掃除の途中で消えた。




