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小さな王国の最後の日

作者: 黒瀬雷牙
掲載日:2026/08/05

 とある断崖絶壁。


 そこに、私たちの小さな国はあった。


 巨大な岩壁の奥深く。入り口は一本の大きな木によって守られ、外敵から私たちを隠してくれている。


 その木の根元から続く暗い道の先には、いくつもの部屋が広がっていた。


 そこが、私たちの家。

 私はまだ子供だった。


 外の世界を知らない。ただ、毎日を仲間たちと過ごし、大人たちに守られて生きていた。


「さあ、ご飯だぞ」


 大人たちはいつも優しかった。遠くまで出かけ、食べ物を集め、私たちのために運んできてくれる。


 小さな身体なのに、みんな必死だった。


「私も大きくなったら、みんなのために働くんだ」


 そう思っていた。


 いつか私も、大人たちのようになれる。


 そう信じていた。

 その日までは。

 

 突然だった。


 ガガガガガガ……


 地面が揺れ、壁が震えた。今まで聞いたことのない巨大な音が、私たちの家に響き渡った。


「なに……?」


「何が起こっているの!?」


 仲間たちが怯える。

 大人たちが慌てて走り回る。


 そして入り口を守っていた、あの大きな木が動いた。


 抜かれたのだ。私たちの家を守ってくれていた木が。


 光が差し込む。


 今まで見たことのない、真っ白な世界。


 そしてそこに現れたもの。


「あれは……?」


 巨大な影。私たちから見れば、山のような存在。



 人間だった。



「うっわ……気持ち悪!!」


 その声は、雷のように響いた。

 人間は巨大な棒を持っていた。


 それは私たちの家よりも遥かに大きく、簡単に壁を壊していく。


 ガリガリ。

 ズズズズ。


 長い年月をかけて作った部屋が、崩れていく。


「やめて……」


「そこには卵が……」


 私たちの未来がある。まだ生まれていない仲間たちがいる。


 でも、人間には届かない。


「げぇ……どんだけ卵あんだよ。きんも」


 その言葉が胸に刺さった。


 私たちは何をしたのだろう。


 ただ生きていただけ。

 ただ家族を守っていただけ。


 人間から見れば、ただの邪魔な存在なのかもしれない。


 大人たちは必死だった。

 自分たちよりも、子供たちを。


 卵を。


 小さな命を守るために、何度も何度も立ち向かう。


 でも、相手はあまりにも大きかった。


 人間は白い煙を吹きかけた。それが何なのか、私たちは知らなかった。


 ただ、苦しかった。


 身体が動かなくなる。

 仲間たちの声が消えていく。

 目の前で、大切な家族が倒れていく。


「どうして……」


 最後に、私は空を見た。

 初めて見る青い空。

 こんなにも広かったんだ。


 私たちは、ただここで暮らしていただけなのに。


 誰かを傷つけたわけでもない。

 奪ったわけでもない。

 ただ、生きていただけなのに。


 私たちの国は、人間の庭掃除の途中で消えた。

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