『ざまぁ』された元王太子ですが……
リブリーの朝は早い。
太陽が昇る前に起き、近くの井戸へ水を汲みに行き畑に撒く。
朝食のパンとスープを食べ終えた後は畑仕事をして野菜を収穫、近くの町の市場に卸し小銭を得ている。
その日に必要な物を商店で買い家に帰り再び畑仕事に精を出している。
こんな生活を5年も過ごしている。
最初の頃は不平不満だらけだったがここに住んでいるのはリブリー1人、頼れる者は誰もいないから結局は動かなければならない。
試行錯誤の結果、現在では最低限の生活は維持出来るようにはなった。
そして、時が経つにつれて自分を冷静に見える様になったリブリーはかつての自分が起こした行為を客観視出来るようになった。
かつてリブリーはこの国の王太子だった。
信頼できる友人、美しい婚約者、優しい家族、全てを手に入れていて順風満帆だった。
思えば、それが当たり前でそれより下に落ちる事なんて考えていなかった。
しかし、躓きは何処にあるかわからない。
リブリーはやらかしてしまったのだ。
貴族学院でとある男爵令嬢に出会い一目惚れしたのが躓きのきっかけだった。
初めての恋はリブリーを暴走させた。
周囲の咎める声を無視し男爵令嬢にぞっこんになった。
そして、貴族学院の卒業記念パーティーで婚約者に婚約破棄を一方的に宣言した。
しかも、あらぬ罪を着せ断罪しようとした。
国王はこの事態を重く受け止めリブリーを王太子剥奪の上、王籍からの除籍、辺境への追放という処分にした。
婚約者だった公爵令嬢には慰謝料が支払われたがそれはリブリーの個人資産から支払われ無一文どころか借金を背負った。
毎月、小銭を貯め役人に納めている。
今では平民としての日々を受け入れている。
ある日、いつもの様に借金を納めに役所に行くと役人に『会わせたい人物がいる』と言われ応接間へと連れて行かれた。
扉を開くとそこには思いもかけない人物がいた。
「お久しぶりです、兄上」
「レンク……殿下ではないですか」
思わず呼び捨てにしようとしたが今の自分の立場では失礼にあたる、と思い殿下付けをした。
そこにいたのは現王太子である弟のレンクだった。
「どうして此処に……」
「兄上に報告しないといけない事があります、まず、父上が退位される事になりました」
「国王陛下が……、それでは殿下が」
「はい、近日中に正式に即位し国王となります」
「そうですか……、それはおめでとうございます」
立派になったレンクを見てリブリーは頭を下げた。
「……私が起こした愚かな行為で殿下を含め多くの人々に迷惑をかけた。 本当にすまなかった」
「兄上……、昔の真面目な兄上に戻りましたね」
「この5年で冷静になってあの頃の自分がおかしかった事に気付いたよ」
「いえ、自分が王太子の立場になって兄上がどんな思いをしていたのかが身に沁みてわかります。 本音を言えるのがどんなに難しいか、個人を捨て常に国の事を優先を考え行動する、王というのは孤独なんですね」
「私は精神的に弱かった、だから真実の愛に逃げてしまった……、私は王の座には向いて無かったんだな。……婚約者とは上手くいっているか?」
「はい、お互い話しあって絆を深めています。 彼女が言っていました。『もっとお互いの弱い部分を曝け出せれば良い関係を築けていたかもしれない』と」
レンクの婚約者は件の公爵令嬢だ。
「彼女には責はない、全ては私が起こした事だ」
「父上や母上も兄上がきっと立ち直る事を信じていました。 そして兄上は期待に応えてくれました」
「え?」
「今月で公爵家に対する借金は全て返済されました。 公爵も許してくださるそうです。 私は即位の時に恩赦を用意しています」
「それは……」
「兄上が王籍に復帰出来る準備をしています、兄上には私と一緒に国を支えてほしいんです」
「レンク……、気持ちは嬉しいが私は王籍に戻る事を考えていないよ」
リブリーはそう告げた。
「例え周囲が許したとしても私は自分が許せない、それはこれからもずっとだ」
「兄上……」
「それに今はどうやって自分の生活を豊かにするかが楽しいんだ。 平民としてどこまでやれるか、こんな気持ちは王家にいる時は感じなかった事だ」
「兄上は今が楽しいんですね……」
「そうだな、辛い事も多いが楽しいよ」
「そうですか……、兄上が満足しているのであれば無理矢理戻す事はできませんね」
結局、リブリーはレンクの誘いを断った。
その後、リブリーは町で出会ったある女性と結婚し子供も出来て幸せな人生を送った。




