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第7話 放課後の失踪


放課後の帰り道。


小学三年生の咲良は、学校で嫌なことがあって塞ぎこんでいた。


そのせいもあって、俯きながら一人でトボトボと帰宅する。


道路の脇に、グレーのワゴン車が止まっていた。


咲良はその車を避けて車道を歩くが、車の真横を通った時、ワゴン車のスライドドアが開いた。


「キャアッ!」


車の中から黒い手が伸びて来て、あっという間に咲良を車の中へ引きずり込む。


そして車は、すぐさまその場を走り去ったのだった。





ピコラの月の記憶亭は、ここ数日客が全く来なかった。


来てもたわいのない悩みで、カードと共鳴するほどの強い欲求や悩みを持つものはいない。ピコラは思わずため息をついた。


「困ったわね……。エモーショナル・レゾナンスが溢れるほどの相談者がいないわ」


するとアー君が箒で床掃除をしながら口を開いた。


「小さな相談から出る共鳴をたくさん集めて、一つのエモーショナル・レゾナンスに出来ないのかよ?」


「それが出来たら苦労してないわよ」


ピコラは肩をすくめた。すると、表を掃除していたノクスが部屋の中へ駆け込んできた。


「ピコラ様!お客様っすよ!」


それを聞いたピコラは立ち上がって、テーブルの上へタロットカードのデッキを置いた。しかし、相談者の女性が部屋に入って来た途端、ピコラの胸のポケットに収納してある魔のタロットカードが光輝きだした。それを見たピコラは、テーブルの上に置いてあったタロットカードを棚へ仕舞った。


「どうやら今日は、こちらのカードを使わなければならないようね」


そういうと、ピコラは相談者をテーブルへと案内した。


相談者の女性は美智子という主婦で、自分でもなぜここへ来たのか良くわからないのだという。確かに彼女自身に災難が訪れるような気配は、ピコラには見えなかった。だが、彼女をとりまいているどす黒く渦巻くような不安に、ピコラはだだならぬものを感じていた。


「あの……占い師さんに相談することではないと思うのですが……実は昨日から娘が帰って来なくて」


「娘さんが? もしかして誘拐されたの?」


「私はそう考えています。警察は落ち着いて犯人からの連絡を待つように言ってましたが……私だけは居てもたってもいられず外で探し回っていたのです」


美智子はそう言いながらも、顔を涙でくしゃくしゃにしていた。


「お願いします!どうか娘を……娘はどこにいるんでしょうか!教えてください!」


そういうと、抑えていた感情が溢れかえったのか、美智子は机に顔を突っ伏して泣き出してしまった。


その時デッキの中から一枚のカードが飛び出し、美智子の元へと飛んだ。そしてカードが彼女の指先に触れた時、体中から金色の光が湧き上がった。


それはキラキラと霧のように湧き上がって、雲のような固まりとなる。


「カードが共鳴したわ!」


ピコラは立ち上がって素早く光の中へ手を差し入れ、翡翠色の欠片を取り出した。


「これで7つ目ね」


やがて光の雲は消えてなくなり、美智子の体は光に包まれ、彼女は夢の中へと落ちていった。


「あとはアルカナツールが出現するのを待つだけ……それまでカードが彼女に何を見せているのか……私たちも見てみましょう」





気がつくと、美智子は自宅近くの通学路に立っていた。


「占い師の部屋にいたのに、どうしてこんな所へ?」


美智子が不思議に思っていると、前方から小さな子供が歩いてきていた。


「咲良っ!」


美智子は咲良の元へ駆け寄り、触れようとしたが、触ることが出来ない。どうやら、今は見ていることしか出来ないようだ。


美智子は咲良を見つめる。


彼女が歩く先に怪しいワゴン車が停まっている。


美智子の直感は、そのワゴン車何怪しいと訴えていた。美智子はナンバープレートの番号をじっと見つめる。

――次の瞬間。


スライドドアが勢いよく開いて、咲良が悲鳴とともに、車の中へ吸い込まれる。


「あっ!咲良っ!」


ワゴン車は急発進する。


次の瞬間、美智子の体は倉庫街にいた。


倉庫街のはずれに、昭和物流と書かれた倉庫があった。薄汚れていて、今はもう営業されていないようだった。


その倉庫の事務所に、咲良は閉じ込められていた。


恐怖の中で、咲良はぎゅっと胸の前で両手を握る。


「ママ……助けて……!」


「咲良っ!」


美智子は叫んだが、もちろん咲良に聞こえることはない。


――暗い。怖い。


美智子は焦ってキョロキョロと周囲を見渡す。


「倉庫街。近くに港!」


そして現れた犯人は、あぶらぎった中年の男だった。男は咲良に話かけたり、お菓子をあげようとしていたが、咲良に拒否されている。


「この男は、娘に何をしているの?」


美智子は嫌な予感がした。もしかすると、変質者なのかもしれない。それなら、いまだに身代金を要求してこないのもわかる気がする。


「ああっ!やめて!咲良に触らないで!」


美智子は叫んだ。


「ああ!咲良!無事でいて!」


美智子はそのまま、気を失ってしまった。


その様子を見たピコラは、彼女の肩に上着をかけてあげた。


「ノクス……しばらく目を覚さないと思うけど、彼女のことをよろしくね。くれぐれも、軽はずみな行動はさせないように」


「わかったにゃ」


ピコラはそういうと、美智子の前にあるカードを取って、ポケットへ入れた。


「ふふふ、このカードは、どうやら私に使って欲しいみたいね」


 

その頃倉庫の中では、男がイライラしながら咲良を怒鳴りつけていた。


「どうしてみんな俺のことを受け入れてくれないんだ!俺のどこが怖い?俺はこんなにも優しいのに!」


男は咲良に近づく。


「いやっ!こないで!やめて!」


「こうなったらお前も、他の女の子がいる場所へ送ってやる」


「どうして?このまま家に帰してよ!」


「そんなことをしたら、俺が犯人だってバレてしまうじゃないか」


「いやっ!やめて!……な、何をするのっ!」


「お前には、友達の所へ行ってもらう!」


「いやっ!そんなとこ行きたくないっ!誰か助けて!」


すると男はニヤリと笑った。


「ここは港の倉庫街。こんな夜中にゃ誰もこないさ。さて、お別れだ……」


男の手が咲良の首へと伸びた時、咲良は恐怖のあまり意識を失ってしまった。


「チッ……気を失いやがった……」


男が残念そうに立ち上がった時、突然倉庫の窓が開いて、風がビュウと吹き込んで来た。男は驚いて振り返った。


するとそこには黒い人影が。


「誰だお前は!」


するとその人影はゆっくりと歩いて来て、ジロリと男を睨みつける。そして、ポケットからカードを取り出し、その絵柄を男に見せた。


「死神よ」


それを見た男は大笑いした。


「ははは、そんなちっちゃいナリで何が死神だ。笑わせるな!」


男は立ち上がって、そばにあった鉄パイプを拾いあげる。


「痛い目に会いたくなけりゃ、おとなしく俺の言うことを聞くんだ。でなきゃ、俺も本気を出すしかない」


するとピコラは大笑いした。


「本気を出すですって?笑わせるわね。出来るものならやってみなさい」


ピコラは死神のカードを顔の前にかざした。


するとそれは青白い炎と共に燃えて灰となり、その直後、ピコラの手には大きな鎌が握られていた。


「お前!そんな鎌どこから!」


「さあ、その首を置いて地獄へ行きなさい。あの世であなたに恨みを晴らそうと、あなたに殺された女の子達が待っているわ」


「うるさいっ!俺は上級国民なんだぞ!お前も殺してやる!」


「愚かな……」


その瞬間、ピコラの鎌が、男の命を刈り取った。


その瞬間、男は真っ赤に燃え盛る火の海に叩き落とされ、そのまま焼けた鉄の鎖に繋がれていた。


「あ、熱いっ!誰か助けてくれっ!」


そこへ、これまで彼が殺した少女たちが亡霊となって現れた。男は必死の形相で声をあげる。


「だ、誰か!水を!水をくださいっ!喉が渇いて死にそうなんだっ!」


そうやって暴れる男を見て、亡霊たちは顔を見合わせる。そして改めて憎しみの目で男を睨みつけると、皆が両腕を伸ばした。


男の絶叫が、地獄で響き渡った。



挿絵(By みてみん)




翌朝、たまたま港へ取材に来ていたテレビの撮影班は、古い倉庫の前で少女が倒れているのを発見する。


「き、君は誘拐された咲良ちゃんじゃないか!」


撮影班のクルーたちは、咲良が監禁されていたと思われる倉庫の中へ入っていく。


するとそこには数々の写真や拘束具、男の身元がわかるような証拠が次々と見つかった。


撮影班はすぐさま警察へ通報。咲良は救急車で病院へ搬送された。



数日後の朝、美智子は咲良を連れて路地裏のビルを訪ねようとしたが、美智子たちはビルを見つけることが出来ない。


「おかしいわね……このあたりだったと思ったのだけど……」


「ママ……夢じゃないよね……今回のこと……」


「夢なわけないでしょ?夢で済ませられないくらいの奇跡を見せられたんだもの。それに……あなたも見たんでしょう。謎の女の子を」


すると咲良は頷いた。


「気絶してから目が覚めた時、ぼんやりと見たわ。その女の子は真っ赤な服を着ていて、頭に角が生えていたわ。それから……天使の輪があったの」


それを聞いた美智子は、あの占い店が人ならざる者が営んでいたものかもと思った。


その時、雲が切れて朝日が2人を照らした。


2人はもう、ピコラたちに会えないと悟ると、ジッと目を閉じて頭を下げ、手を合わせた。そして、助けてくれたことに感謝したのだった。






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