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第11話 エメラルド・タブレット



気が付くと、ピコラは草原の真ん中に立っていた。


見上げるとそこは夜空。三日月が静かに浮かんでいる。


「連絡もなく、どこへ行っていたのだ」


声のする方へピコラが振り返ると、そこにはセラフィムが立っていた。


「連絡もなく消えるんじゃない!お前はこの間の苦しみを忘れたのか」


そこへ強い風が吹き始める。紫色したピコラの髪が、風でなびいて大きく揺れる。


「慌てないで。最後の欠片を取りに行っていたのよ」


ピコラはそう言うと、胸元にある星のポケットから、翡翠色の板を取り出した。


それは手の平に乗るような小さな板である。


「ほう、完成させたのか!エメラルド・タブレットを!」


セラフィムは目を見開いた。そして、エメラルド・タブレットがかすかな光を放っているのを確認すると、口元をニヤリとさせた。


「どうやら本物のようだな……良くやったピコラ」


セラフィムはニヤリと笑いながら右手を差し出した。


「さあ、それをこちらに……」


だが、ピコラはそれを顔の前でヒラヒラさせた。


「先に、この首についている黒い輪を外しなさいよ」


するとセラフィムは、不機嫌そうにピコラを睨みつけた。


「口答えする気が?さっさと渡すんだピコラ!」


するとピコラは大きなため息を吐きながら、エメラルド・タブレットをセラフィムへ渡して、すぐに数歩下がって距離をとった。


セラフィムはエメラルド・タブレットをあちこちから観察すると、ニヤリと白い歯を見せた。


「ははは、良くやったぞピコラ! これだ! これを望んでいたのだ」


喜ぶセラフィムを、ピコラは冷ややかに見つめている。


「そんなものの、何が有難いっていうの?」


「そんなものか……やはり子供には価値がわからないか」


「一体何の価値があるっていうの?」


「これはな……宇宙の真理が書かれてあるのだ。つまりこのタブレットの叡智に触れれば、天使である我々を超えた存在……つまり神に近付くと言うわけだ」


「ははは、なんだか俗っぽいわね。あなたの話を聞いていると、神や叡智と無縁な気がするけど」


それを聞いたセラフィムは、顔色を変えた。


「よくも言ったなピコラ!」


セラフィムは顔を真っ赤にしながら、右腕をピコラへと向けた。


「ぐうっ!」


ピコラの首に黒い輪が浮かび上がって首を絞め始めたのだ。


「もう少し生かせておいてやろうと思ったがもう用済みだ。お前のような不純な混血児は天使ではない。死んだ方がマシだ」


ピコラは苦しそうに顔を歪めた。


「やっぱり殺すつもりだったのね!」


するとセラフィムは鼻を鳴らした。


「当たり前だろ。混血が何を期待しているんだ。お前など仲間に迎えるはずがないのだ」


「ちくしょう!」


ピコラは息が続かず悶え苦しんだ。そして、肩を震わせ……やがて動かなくなってしまった。セラフィムは、ピコラに近付いて足先で脇腹を突いてみる。だが、ピコラの反応はなかった。


「フン、死んだか」


だが、気になったセラフィムは、足でピコラの体を押して仰向けにしようとした。ゴロリと体が回転する。そして紫の髪が広がり、ピコラの白い顔がセラフィムの正面を向いた時、その目が急にカッと見開いた。


「あっ!ピコラ!お前!生きていたのか!」


セラフィムが叫びながらのけ反ったその時、ピコラの両手に魔剣が現れ、セラフィムの顔面を縦に切り裂いていた。


「ぎゃああっ!」


ピコラは続けて何度かセラフィムを斬りつけたが、セラフィムの天使の輪が防御に入ったので、その初手以外の攻撃は届かなかった。ピコラは剣を振って血を飛ばした。


「おのれ、ピコラ!」


ピコラの首にある黒い輪は、彼女の細い首をギュウギュウ締め付けている。ピコラは顔を真っ赤にしながら冷たい視線でセラフィムを見ると、息絶え絶えに言葉を紡いだ。


「私は……あなたに殺されると……分かっていたわ」


首の黒い輪がさらに締まる。


「グフッ……だからそのエメラルド・タブレットには……少し細工を施させてもらったわ」


「なんだと! お前、この貴重なエメラルド・タブレットに何をした!」


その時ピコラの首に浮かんだ黒い輪は、猛烈に締め上げはじめた。彼女は膝をついて、とうとう両腕までついてしまった。


「ああ、私はもう駄目だわ……アー君、ノクス……もっと一緒にいたかったけど……」


「お前はまだ、あんな汚らわしい悪魔と付き合うとはけがらわしい!」


それを聞いたピコラは、とても冷ややかにセラフィムの顔を見た。


「ああ、天使たちよ……あなたたちは正義の名のもとに行って来た数々の悪事を自覚するといい」


それを聞いたセラフィムは白い歯を見せてニヤリとした。その白い歯に、額から流れてきた血が伝って赤く染まる。


「なんだ、ピコラ……それは遺言か?」


ピコラは手を前へ突き出した。その手には審判のカードが握られている。


「エメラルド・タブレットに鍵をかけさせてもらったわ」


「なんだそれは……それが鍵なのか!」


するとセラフィムは、イライラしながら、少しだけ黒い輪の締め付けを緩めた。ここでピコラに死なれては困るからである。


「はあっ、はあっ! ……ゴホゴホッ!」


ピコラのそばに、セラフィムが近寄ってくる。


「さあ、寄越せ。……鍵を!」


するとピコラは顔を上げてセラフィムを睨みつける。


「早く……この黒い輪を外しなさい……私が死ねば……この審判のカードは燃えて消えてしまうわよ!」


するとセラフィムは大きく舌打ちをした。


「なるほど、悪知恵は働くようだな……」


セラフィムは拳を固めて、ピコラを殴りつける。


「ガハッ!」


ピコラは床に倒れた。するとその指先からカードが抜き取られた。ピコラが顔を上げると、セラフィムがニヤニヤしながらカードをヒラヒラさせている。


「卑怯者!」


ピコラの叫び声が飛ぶが、セラフィムの耳には届かない。彼は鼻を鳴らして笑った。


「さあ、見せてくれ、エメラルド・タブレットよ。この宇宙の真理とやらを」


セラフィムはエメラルド・タブレットの上に審判のカードをあてた。するとエメラルド・タブレットが光輝きはじめ、セラフィムの周囲は光で包まれていった。


「ハハハ、これで私は神に近付く!」


セラフィムは審判のカードを眺める。


「ところでピコラ……なぜ、審判のカードが鍵なのだ?」


するとピコラは目だけをセラフィムに向けた。


「まだわからないの?……それはあなたが過去に行った悪事を裁くカードだからよ」


「悪事だと?悪魔どもならともかく、天使の私がなぜ悪事をするのだ?」


「エメラルド・タブレットが見せる宇宙の法則とともに、あなたたち天使と、あなたが敵対する悪魔たちへ審判が下されるでしょう」


ピコラはそう言うと、そのまま倒れ伏した。


それを見たセラフィムは冷ややかに見下した。セラフィムは額から血がボトボトと流しながら、光に包まれていった。


しばらくして、セラフィムは己の異変に気が付いた。自分の体を確認すると、なんとピコラの体になっていたのだ。


「なんだ……これはどうして?」


すると、目の前に自分自身……つまりセラフィム本人が現れたのだ。


「あれは私じゃないか……一体どうして?」


すると、目の前にいるセラフィムは手の平をこちらに向けて、黒い輪を起動する。


「ぐわあああ!」


強烈な痛みが首に走った。セラフィムは小さい体をバタつかせながら暴れる。


「ああ、やめてくれ……死ぬ……」


しばらくすると、彼の意識は遠のいていった。


そして、気が付くと、今度は悪魔の女性と一緒に逃げている自分がいた。


「この女はリリア……すると今の俺は一体? 俺の体はまさかピコラの父親になっているのか!」


セラフィムが振り返ると、セラフィムが追いおかけてきていた。まるで狩りを楽しむ狩人のように。セラフィムは冷や汗を流した。この展開には見覚えがある。案の定、彼が放った光の矢が、今の体を貫いた。


「ぐうあああっ!」


セラフィムは目の前が真っ暗になった……。


このようにして、セラフィムは次々と……自分が殺した誰かになって、自分自身に殺されるということを繰り返した。


セラフィムは発狂した。


「一体何の真似だ!なぜ私がこんな目に! ……うわあああっ!」


それから何度も何度も死を体験しながら……さて、どれだけの時間がたったのか。


目を覚ましたセラフィムは、膝をついて周囲を見渡した。


多くの天使が、セラフィムと同じように悶え苦しんでいるのが見えた。セラフィムには、彼らがなせ苦しんでいるのかが容易に想像できた。その辛さを想像して、セラフィムは思わず両手を覆って涙を流す。


しばらくして、ようやくセラフィムが弱々しく口を開いた。


「ああ、私は...何と愚かな...」


そして、セラフィムを静寂が包み込んだ。



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