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第10話 父との再会


ピコラはノクスを抱いたまま、壊れた窓を眺めていた。

そして両親のことを考えた。


「ああ、どうしてこんなことになったの」


ピコラは悲しくなった。


両親が死んで間もないというのに、天使たちに辛い目に合わされている。天使たちは……自分たちの正義に合わなければ冷酷な処断をする。それを正しい行いをしていると思っているのだ。


「例え助かっても……彼らの仲間になるなんて……考えられないわ」


ピコラはクルリと背を向けると、扉から部屋の外へ出て行った。その時、胸のカードが光を帯びている。ピコラが紫の布に包まれたデッキを取り出すと、中から1枚のカードがふわりと浮かんで燃えた。皇帝のカードである。


「あっ!」


皇帝のカードは父を現わすカードでもある。ピコラは思わず腕を伸ばした。すると燃えた黒い灰の中から銀色に輝く指輪が出て来た。



「これは……」


ピコラはその指輪を、右手の人差し指に差し込んだ。すると目の前に黒い空間が現れ、ピコラは吸い込まれるように中へ入っていった。そこはまるで宇宙空間のように、真っ黒で星々がキラキラと輝く空間だった。


「ここは一体どこなの?」


ピコラは腕の中にいるノクスをギュっと抱いた。


すると急に星々が流れはじめ、ピコラはどこか遠く飛ばされているような感覚になった。ピコラは星に囲まれたトンネルの中を、ものすごいスピードで駆け抜けていった。


「はにゃ~、ピコラ様、一体どこへ向かってるニャ?」


「わからない……わたしたち、どこへ連れて行かれるのかしら」


「ピコラ様……怖いニャ」


「大丈夫よ……このカードは母様が作ったものだから……私に危害を加えるようなことはないはずだから」


それを聞いたノクスは、顔をピコラの胸の中へ埋めた。


しばらく飛んいくと、前方に強い光が見えた。



「このままではぶつかる?」


ピコラの体が減速する気配はない。


「あの中に……何かあるのかしら?」


ピコラはそのまま、光の中へ飛び込んでいった。


「ノクス! 目を閉じてなさい!」


「ああっ、眩しいニャ!」


ピコラたちが光に包まれ、やがて目が慣れて周囲を見ることは出来た時、そこには一人の天使が立っていた。その天使はピコラのことを優しく見つめながら微笑んでいる。


「父様……」


「ピコラ……迷惑をかけてごめんね……」


その声を聞くと、ピコラは目の前が涙で揺れた。


「父様!」


ピコラが父に抱き着こうと駆け寄ったが、そのまま通り抜けてしまう。



「これは映像なの?……」


すると、その父の姿をした映像は悲しそうな顔をした。


「ごめんよピコラ……私と母さんはもう死んでしまった……。だが、君を死なせるわけにはいかないから、いろいろと仕掛けを作っておいたんだ」



ピコラは少し後ろへ下がって父の姿を見た。


「この、タロットカードのこと?」


すると父は頷いた。


「タロットカードもそうだし、エメラルド・タブレットもそうだ。ここへ来たということは、欠片が9つ集まったのだろう」


ピコラは頷いた。


「欠片はまだ9つ……あと3つもあるのに、カードはあと8枚しかないの」


すると父はニコリと微笑んだ。


「いいんだピコラ。集めたエメラルド・タブレットを出してみなさい」


「えっ」


ピコラは胸の星模様のポケットから、エメラルド・タブレットの欠片を取り出す。するとそれは9つ目の欠片を取り込んで、完璧な1枚の板となっていた。


「あ……もしかしてこれで完成なの?」


すると父は小さく頷いた。


「3は創造、6は調和……そして9は完成を意味する。つまり欠片は9つで完成する」


「じゃあ、欠片が12個あるって言ったのは?」


「あれは天使をかく乱するために言ったことだ」


父はそう言うと、エメラルド・タブレットを指差した。


「ピコラ……君はタブレットに書かれた文字を見ただろう?」


「ええ……努力ではなく、調和が大切って話ね」


「その通り。努力という考え方には、自分の中に欠けたものがあるという想いから生まれるものだ。だが、本当のところ、この宇宙に欠けたものなどない。だから、ピコラ。お前も足りないものを探すのではなく、すでにある流れに身を委ね、波と調和することに意識を向けるのだ」


ピコラは首を振った。


「無理よ。きっと殺されるわ」


「どうしてだ?」


するとピコラは自分の首を指差した。


「ここが少し赤くなっているでしょ? セラフィムに逆らうと、黒い輪が浮かんで首を絞めるのよ」


すると父は小さく頷く。そして、自分の頭の上に浮かぶ天使の輪を取ると、ピコラへ投げた。するとその輪は小さくなってピコラの右手の人差し指にスッとはまった。ピコラが手あげて指輪を見ると、そこには紫色の大きな宝石が輝いていた。


「その指輪は収納魔法がかかった指輪で、亜空間に色々なものを収納できる。もし、今度その黒い輪が浮かび上がったら、苦しそうにうずくまるふりをしながら、その指輪の石に触れるんだ。中に、黒い輪を解除する魔道具を仕込んであるから、すぐに解除されるはずだ」


ピコラはじっとその指輪を見つめた。銀の台座に深い紫色の宝石。その色は吸い込まれるような美しさだった。


「ありがとう……父様……でも、私には無理よ」


ピコラは自信なさげに俯く。


「天使たちは、ただお前を利用しているだけだ。おそらく、生かしておくつもりはないだろう。だからな、やるしかないんだ」


「それしか道はないの?」


ピコラが父の顔をジッとみつめると、父は小さく頷く。


「天使と悪魔の血を引くお前なら大丈夫だ」


「その血が駄目だと天使は言っていたわ」


ピコラはそういうと、父の顔を見た。すると父はジッとピコラを見つめる。


「お前は私とリリアの子だ。この世で一番可愛い子供……。まだ14歳の子供にこんな経験をさせるのは酷い親だと思うが、これも運命だと思って耐えてくれ。この試練を乗り越え、自由を手に入れてほしい」


それを聞いたピコラは、ギュッとスカートを握りしめる。


「ピコラ……善悪を分離させることは、本来は意味のないことなのだ。なぜなら、何が正しくて何が悪なのか……それはその人が与えられた感情や価値観に大きく左右されるから。正しいと思っていることが、裏返せば正しくないことってあるだろう?」


ピコラは天使の行動を思い出した。


「確かに、天使が正義のもと、行っていることが正しいとは思えない」


父は頷く。


「私と母さんはそのことに気付いたのだ。だから共に協力して準備を進めていた。この、特別なエメラルド・タブレットがそのキーとなる」


ピコラは手の中にある翡翠色の板を見つめた。


「エメラルド・タブレットの真の力は「分離を超える」ことだ」


「でも……悪魔と天使がひとつになれるの?」


父は頷いた。


「良いかピコラ。天使と悪魔という二元性そのものが幻想であることを悟り、お前自身が調和の象徴となるのだ。天使たちを倒すのではなく、彼らの心に「欠けたものはない」という真理を示すことが重要だ」


「そんなこと、私に出来っこない!」


「いいや、これはお前にしか出来ないことだ」


「父様!」


ピコラは不安そうな顔で、父を見つめる。


「父様……私はまだ14才なのよ!?」


すると父は押し黙った。しばらく黙った後、そっと目を閉じてから口を開いた。


「時間だ……」


「えっ」


父は目を開けてじっとピコラを見つめた。


「私はあまり、お前に父親らしいことをしてあげられなかった。天使と悪魔のいざこざで、手が一杯だったからな。だが、私はお前を愛していたことは間違いない。これだけは信じてくれ」


そういうと、目の前の父は、キラキラとした光に包まれ始めた。そして、だんだんと、色が薄くなってきていた。


「ああっ、父様!」


ピコラは思わず手を伸ばした。


「ピコラよ……こんな最後の会話も、お前への頼み事ばかりで申し訳なく思っている。もっと……父親らしい会話が出来ればどれだけ良かったか……悲しいがもう時間はない……強く、幸せに生きてくれ。それだけが、父と母の、永遠の願いなのだから」


「父様!」


光の中で、父は微笑みながら薄れていく。


「父様ーっ!」


ピコラは必死に手を伸ばすが、その光はとうとう消えてしまった。



ピコラは星々の輝く夜空に浮かびながら、ただただ、涙を流し続けた。




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