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金髪ギャルの御堂さんは、地味で無口な文乃ちゃんが気になって仕方がない。  作者: 小坂あと


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第5話







 


 ページをめくる指先が震える。


 紙の感触、インクの匂い、規則正しい行の並び。


 そこに安心を感じるはずなのに、今日はどうにも落ち着かない。


 視界の端にちらつく、誰かの気配。というより、存在感。


 ついさっきのことが、何度も何度も頭を過ぎっていた。


『話してみたくて』


 そんなことを、言われたのだ。


 今まで誰かにそんなふうに声をかけられたことなんてなかった。たいていの人は、私のことなんて気にも留めない。教室では空気みたいに扱われ、図書室でも一人で本を読むのが日常。


 なのに、彼女は困るくらいしっかりと視線を向けてきた。


 目が合ってしまった時の、あのまっすぐな瞳。反射的に視線を逸らしちゃったけど、今もまだ、胸がざわざわと波打っている。


 それに……今日、ずっと無視し続けてしまった。


 理由は、自分でもわかっている。昨日、彼女が差し伸べた優しさに、胸がいっぱいになったからだ。


『大丈夫だよ』


 そう言って、私を抱き締めた腕は、びっくりするくらい自然だった。まるで、そうするのが当たり前かのような、慣れた仕草で。


 けれど、私は素直に受け取ることができなかった。ただ固まって、涙を堪えるのに必死だった。


 うまく言葉が返せなくて。何か言わなきゃと焦るほど、喉が詰まって声にならなかった。何年ぶりだろう、他人からあんな風に気遣われたのは。胸の奥がじんわりと熱を帯びて、張りつめていたものがぷつりと切れた。


 嬉しかった。本当に、嬉しかったのに。


 恥ずかしさと照れくささ、どうしたらいいかわからない混乱が一気に押し寄せて、ただ涙腺を崩壊させて泣くだけで終わってしまった。


 感情が処理しきれなくてオーバーフローしてしまったようで、 今思い出しても情けなくて、心臓がぎゅっと痛くなる。


 彼女は、どう思っただろう。あんな態度を取って、傷つけてしまったかもしれない。もしかしたら、あれだけで泣くなんてキモいとか、なんなの?と不満を抱いたかも。


 そうなったら、あの優しさはもう向けてもらえないんだ。


 考えると辛くて、孤独が積み上がって行くばかりだったから、途中からは思考を放棄した。嫌なことは、忘れられるなら忘れた方が良い。


 きっと今後、関わることはない。突き放すことで、信じきっていた。


「少し……話せる?」


 それなのに……今日、予想に反してまた来てくれた。


 話しかけられた時の声色も、香水の香りも、昨日と同じで。ジャスミンと、少し甘いムスク。普段なら苦手に感じるはずの香りが、彼女のものだと思った瞬間に特別なものへと変わった。


 私の了承を待たずして、口を開いた。何か話すのかと思ったけどしばらくはこちらを静かに見据えて喋りだす気配はなかった。


 見られてると、ドキドキする。恐怖心や、何か悪いことしたかなって不安で。


 「それ、面白い?」


 ふいに隣から聞こえてきた声に、肩が跳ねた。


 「ご、ごめんなさい……えっと、なに……?」


 キョドった私の反応がおかしかったのか、綺麗な唇が軽く笑みを作って、体の力を抜くみたいに相手は椅子の背にもたれた。


「読んでた本、かなり集中してるから。そんなに面白いのかな〜って」

「……面白い、です」


 咄嗟に答えたけど、実際はほとんど内容が頭に入っていなかった。


 御堂さんは、私の読んでいたページを覗くように少し顔を近づけてきて。


「へぇ、けっこう難しそう。なになに?主人公が孤独な魔術師……?」

「……は、はい。人と関わるのが苦手な人が、旅の中で仲間と心を通わせていく話で…」


 口にしてから、自分のことを言ってるみたいで恥ずかしくなった。


 相手がどう反応するかが怖くて、視線を本の文字に落とす。でも、彼女はからかったりしなかった。むしろ穏やかに目を細める。


「そっか。なんか、いいね。あたしそういうの好きかも」


 言葉の端に嘘がない。 直感的に分かって嬉しくて、少しだけ顔を上げて彼女を見ると自然に微笑んでいた。それがまた、胸の奥をくすぐる。


  私は、ずっと日陰にいた。今も、日陰にいる。


 だから、今こうして普段関わるはずのない存在が隣にいるだけで、焼けてしまいそうなくらい眩しい。太陽の擬人化があったら、きっとこの人だろうって思うくらい。


 明るく、透き通った金色が揺れる。


「また来てもいい?」


 その問いかけに、言葉がすぐに出なかった。出ない代わりに、首を浅く縦に動かした。断るはずもなく、断りたいとも思ってなかった。


 彼女は「やった」と嬉しそうにはにかんで、そのまますっと立ち上がった。


「じゃ、また明日ね」


 教室に戻っていく後ろ姿を、私は静かに見送った。


 他人の背中を、こんなにも長く目で追ったのは、たぶん初めてだった。


 ……なんでだろう。 また会いたいと、自然に思ってしまう魅力が、彼女にはあった。


 明日が楽しみになったのは、いつぶりだろう?


 眩しさに目を細めて窓の外を見れば、厚い雲で覆い尽くされた梅雨の空に、一筋の光が差し込んでいた。


 









 


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