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金髪ギャルの御堂さんは、地味で無口な文乃ちゃんが気になって仕方がない。  作者: 小坂あと


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第4話









『ありが、と…』


 か細く掠れた弱々しい声が、朝になっても脳裏にこびりついていた。


 親に言わされたわけじゃない感謝の言葉は、耳を澄ませていても聞こえるか分かんないくらい小さく頼りないものだったけど、しっかりとあたしの胸には響いていた。


 人間相手に“小動物みたい”なんて感じるの失礼かもって思うのに、毛布越しに包み込んだ時、庇護欲にも似た感情を抱いてしまった。


 小さな体に宿る命が高熱を伴った体温から伝わって、なんというか――


「かわいかったかも」


 昔から、動物は好き。


 祖母が長らく飼っていた犬は中学の終わりになる頃まで一緒に過ごして、その後たまたま拾った猫は今でも元気で、祖母の家にいるからしょっちゅう撫でに行っている。


 ふわふわな毛並み、人よりもちょっと高めの体温、視覚に訴えかけてくる全身の愛らしさ。全てが癒やしで、眺めてるだけで心が安らぐ。


 葉山も、どちらかと言えばそれに近い。小さくて、熱くて、かわいい。


 とか、なんとか。


 起きてからずっと、そんなことばっかり考えてたせいか。


「あ…」


 教室の扉を開けた瞬間、すぐに視線が吸い寄せられた。


 窓際の席。小柄な背中が机に向かっていて、何かを書いているようでこちらには気付きもしない。


「風邪、治ったんだ」


 脳内で呟こうとしていた内容で、思わず声をかけていた。


 大きすぎない、自然なトーンだったはずなんだけど、過剰なまでにびくりと肩を震わせた後で、こちらを振り返……らなかった。


 あれ。聞こえなかった?いや、そんなわけなくない。みんな喋ってることはいえ、そこまで騒がしくない教室であたしの声が届かない距離じゃない。


 もしかして。


 無視、された?


「おはよ!風邪治った?」


 念押しするようにもう一度言ってみた。


 そこでようやく、ゆっくりとこちらに目を向けてくれた。


 でもすぐ、ほんの一瞬で視線を逸らされた。まるで、見ちゃいけないものでも見たみたいに。


 心の奥に、ちくりと冷たいものが刺さる。


 ……避けられてる?


 あのとき泣かせたから?それとも、なにか気に障ることした?


 理由がわからなくてモヤモヤが胸に残ったまま、ホームルームの時間が近づいてたから自分の席に戻った。


「なに、今日なんであいつに話しかけたん」

「てか昨日も思ったけど仲いいの?」

「あー……や。ほら、体調不良かわいそうじゃん?だから気にかけてるだけだよ」

「やっさし〜」

「さすが芹那」


 周りの席の友達には曖昧に誤魔化しておいて、さも「別に気にしてませんよ?」って空気感を振りまいたけど……。


 正直、その日一日、気になって仕方なかった。


 授業中も、昼休みも、何度も何度も葉山を見てしまうくらいには。


 彼女はいつも静かで、教科書に視線を落としていて、休み時間はひとりでぼうっと窓の外を見るか、本を読むか。見た感じ、仲良くしてる友達はいないっぽい。


 まだ梅雨が明けきらないどんよりとした曇り空、湿度を含んだ風でカーテンが揺れる。彼女の横顔を見てると、窓際の猫を思い出す。


 顔を上げたと思えば、不意に目が合って、だけどすぐに逸らされる。


 そのたびに、心臓が変に跳ねる。ずっと見てたのバレたかも?って気まずい思いと、気まぐれな猫がこっちを向いた時の嬉しさ的な意味合いで。


 ……てか、なんでそんな避けるんだろ。嫌われるようなことしたかな。え、もしかして昨日迷惑だったとか?


 うーん。でも、だとしたらたまに見てくるのはなんなの?あたしが見すぎてるから気になるだけ?


 考えれば考えるほど、モヤモヤする。


 放課後になっても、胸のざわつきは消えなかった。


 みんなが荷物をまとめて帰る中、わざとゆっくり準備していた。伺うように、横目で確認しながら。


 視界の隅で、葉山がひとり立ち上がり、教室を出ていくのが見えた。


 これはたまたま。たまたま出る時間が被っちゃっただけと言い訳をつけながら、あたしも後を追う。


 足音を立てないように距離をとって、階段を下りて、廊下を進む。


 彼女は迷いなく、図書室へと入っていった。


 ……図書室?


 少し意外だった。けど、妙に納得もした。


 あの静けさが似合う子だと思ったから。ああいう場所で、誰にも邪魔されずに本を読んでるんだ。そう考えるだけで、どうしてか胸がざわついた。


 気づけば、あたしの手も図書室の取っ手に伸びていた。相手は、窓際のカウンター席に座っている。


 背筋を伸ばして、真っ白な手で本を捲っていた。


 その姿が、なんだかとてもかわいらしい。


 つい魅入って、それから、迷って。


 もういいやって。


 どうせ気になってるんだから、隣に座ってみればいい。


 開き直って、足を進めた。


 隣の席を引くと、彼女が小さな肩を震わせた。


「……ここ、座ってもいい?」


 ゆっくりと、こちらを見る。


 くりくりとした瞳は、潤みきって揺れていた。


 一瞬、迷ったような顔をして――僅かに、こくんと頷いた。


 その仕草に、ふっと胸の辺りが温かくなる。


 あ……よかった。


 無視されなかった。


 安堵して、あたしは葉山の隣に腰を下ろした。






 

 

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