6 旅路
「セレス……師匠、街までどのくらいだ?」
2、3歩前を歩く長身の女性に投げかける。女性は腰まで伸びた金髪、全てを引き込むような碧眼の女性は満足そうに振り返って答える。
「あと半日ね、しっかりと歩きなさい」
村を出た俺たちは次の町、オグリファンドに向かっていた。俺の服装は普段着に旅用のマントを羽織っている。腰に剣をぶら下げて、持ってきたショルダーバッグは普段よりも重い。理由は明白だ。セレスタに収納腕輪を使うことを禁止されたのだ。必要最低限の装備やアイテムを日頃から吟味するためだという。
それだけではない。転移腕輪という主要な都市に移動するための道具の利用も禁止させられた。だからこそ今こうやって歩いている訳だが。
ただ村を経って数日で簡単な自己回復魔法も教えてもらえた。やはり1級は理論的な分野も精通していなければならないのか教えるのが上手かった。独学だと1,2か月は要していただろう。
そしてポーションの使用も禁止させられた。魔法を教えてやったのだから要らないだろうとのことだ。本来必需品として認知されているポーション、かさばるのを覚悟してでも鞄に詰め込むのだがその容量は他に道具のために使うべきという考えらしい。
正直初歩の回復魔法で治せる怪我など擦り傷程度の唾つけておけば治る程度のものなのだが、ダメージ覚悟で闘いに望むことは論外だと切り捨てられた。
どれもこれも未開の地を探索するためらしい。道具に頼らない程の力が必要らしい。空を見上げる。日が西に大きく傾いていた。
「このまま行けば夜中の到着になるぞ」
「少し早いけど、休んで日を跨ぐ頃に出発しましょう」
「野宿か?」
「いいえ、ここは街道よ。……数分歩いた先に休憩地かしら、小さな建物があるわね。とりあえずそこまで向かいましょう」
空中に地図を表示させるセレスタ。俺のように物質的なものでなく、画面が空中に表示されているものだ。魔法なのだろうが何事もなく発動したことに問いかける。
「……あぁ、これ? これは自身の周囲数キロを表示するものよ」
「一般的に使われているものとは違うのか?」
「あれは各都市の魔力塔から送信されている地図データを表示しているに過ぎないの」
「……? 違いが分からん」
「要は送信元がない場所や魔力塔の送信域の外では使い物にならないのよ。都市やそれらを繋ぐ街道のような整備されたところでしか使えないわ」
「詳しいんだな」
「当たり前でしょ? 提案したのは私なんだから。形にしたのは他の人達だけど」
数日前に簡単な不思議のダンジョンで狂喜乱舞していた奴とは思えない。目を離せば探検に赴く変った人物だと思っていたがしっかりと人類に貢献していたのを思い知らされる。
「今のも将来的には一般的なものになるのか?」
「どうかしら、個人の技量に依存しているから。やろうと思えば出来なくはないでしょけど消費魔力が大きい割には不明瞭な地図で、既存の物を超えるパフォーマンスは期待できないわ」
未開の地で大まかな地形を把握するための運用を想定しているものに過ぎないらしい。
「……これが休憩所か」
数分歩いてたどり着いたのは雨風を凌ぐための小さな屋根の小屋だった。使われた形跡はなく、寝床代わりの座面の広い椅子には砂が覆っていた。こんなものでも地べたで寝るよりは熱を奪われないだけ遥かにましだ。
「90分おきに見張りを交代するわ。街道とは言っても魔物が出ないわけではないから」
「いいぞ。最初は俺がやる」
セレスタはそう、と短く言い残し椅子に横になった。10分もしないうちに寝息が聞こえる。8級のクエスターの昇級試験を思い出す。野宿の課題など今の時代に何の役に立つのかとチームメンバーと愚痴を吐いていたのが印象深い。
それから6時間、特にこれといった問題も起こることはなく。二人だけのキャラバンは日を跨いだころ再び歩き始めたのだった。