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夢幻大迷宮  作者: 鳥バード鶏チキン
リザンへ
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44 理性なき戦場

「そうだあなた達。今日はここでわたしと模擬戦をしましょう」


 シルバークレストバレーに向かう最中、セレスタが足を止めて突然声を上げる。


「先生とか? 別に構わないが……」


「僕の暴走した時のリスク把握ですか? この辺りにダンジョンはありませんよ?」


「師匠、まさかとは言わんがここでやるのか?」


「そうよ、シルバークレストバレーを超えたらリザンはまた鼻の先だから。あなた達3人の力の把握を今一度しておこうと思って、どんな手段でもいいから私を殺す気できなさい」


 普段俺達は4人でダンジョンを攻略しているわけだが、仲間としての面は知っているが、実力を正しく測るには敵として戦うのが1番らしい。


 そういう真剣勝負は死亡しても外に出されるだけのダンジョンでやるのが1番なのだが……まさかここ(ダンジョン外)でやるつもりなのか?


「シルバークレストバレーでやるのはダメなんですか?」


 ウルフィンが尋ねる。暴走する彼にとってはダンジョン内でどれだけ暴れようが被害はないからだ。これまでもそうしてきた。


 手段は問わないと言っていたため暴走も含めてかかってこいということだろうか。


「ダメよ。あなた達3人がまとめてかかってこないと意味ないもの。ライラットのアサルトビットがどのようなものかも知っておきたいしね」


 アサルトビット――ライラットの切り札であり、暴走のリスクを抱えた装備。それを外で使うのは確かに危険だが、逆に言えば“失うわけにはいかない”から外で戦うということか。


「確かにここらへんなら多少荒れたところで問題ないんだろうが、先生はいいのか? 暴走した私とウルフィンを同時に相手するんだろ? ……いや1番の問題はそこじゃなくて」


 ライラットの視線がこちらを向く。ウルフィンもその意図が分かったらしい。


「オスカーが……その、下手したら死ぬぞ。先生は3対1のつもりなんだろうが、実態は私とウルフィンとオスカーと先生の1対1対1対1になると思う。アサルトビットを使う私が敵味方の判断ができるとは思えない」


 言い淀んでいたが、諦めたように正直に言う。ウルフィンも同じだ。暴走すれば誰を狙うか分からなくなる。



「前にも言ったと思うけど、こんなことで死ぬようだと貴族相手に生き残るなんて無理よ。……戦う前提なのを疑問に思っているだろうけど、あなた達は珍しい存在だから十中八九目をつけられると思っておきなさい」


 そう言い切ると、セレスタは杖を握り直した。


「分かったらさっさと始めるわよ」






 セレスタ囲むように俺たちはそれぞれが準備ーー俺は剣を構え、ライラットはアサルトビットの仮面を被り、ウルフィンは腕を切りつけ、回復魔法で暴走を誘発した。


 二人の変化は目に見えて変わった。

 

 ウルフィンは青い人狼のような姿になり遠吠えのような鳴き声を上げた後魔法で作り出した戦斧を手にした。

 

 ライラットは……声一つあげることなく6機のビットを背後に漂わせている。右手で収納魔法を発動させて一本の槍を取り出した。普段は楽をするために魔法を刻んだカバンでやっていることだが……素手でもできるのか。


 普段軽口を叩く彼女が無言で佇んでいるのは集中しているというより……不気味だ。普段落ち着いて視野が広いウルフィンが暴走して叫ぶのとは対照的だ。


 三対一のはずなのに、実態は全員が敵になる“四つ巴”。

 とにかく――生き残るしかない。


「……」


 無言のまま、ライラットがセレスタへ突進した。二機のビットがスラスターとして背に張り付き加速、残り四機は槍に接続され巨大な緑の刃を形成する。


 セレスタは軽く杖で受けた――ように見えたが、次の瞬間、槍が青白く閃き、太い光線がはしった。


 俺は手にした(荒涼天)を盾に変更させて間一髪で防ぐ。セレスタも片手で防ぎ、杖の先端で彼女の脇腹を突こうと繰り出したが、直後盾となったビットに阻まれた。

 

 アサルトビット――“一人で任務を完遂するための兵装”。移動・攻撃・防御、全部を同時にこなしてくる。


 普段からライラットの身のこなしには舌を巻いているが……仮面を被ると動きに無駄がない、次の動きまでの判断が早すぎる。


 光線の余韻がまだ地面を焦がしている中、ウルフィンがいきなり俺の横をすり抜け、ライラットへ跳びかかった。


「グルァアアアアッ!!」


 完全に標的を選んでいない。ライラットのビットが反応し、4機が散開して迎撃の光弾を放つ。


「おっと、同士討ちかよ……!」


 俺は二人の間に巻き込まれないよう距離を取ろうとしたが――その背後、音もなくセレスタの影が迫っていた。


「オスカー、油断しないの」


「ッ!」


 杖の一撃を受け、ギリギリで受けた荒涼天ごと吹き飛ばされる。それでもセレスタは追撃をせず、俺ではなく暴走した二人へと視線を向けた。


「さて――ここからが本番よ」


 彼女の足元に魔法陣が広がり、地面がうねるように盛り上がる。


 重力が歪むような、空気が沈むような圧迫感。


 セレスタが“敵”になる。


 この模擬戦は、ここからが本当の地獄だ。



 ウルフィンの氷の魔法とライラットの光線が交錯する中、セレスタの魔力が空気を震わせた。


「さぁ――まだまだやれるわよね?」


 足元から噴き上がる魔力の衝撃波。


 ウルフィンが吹き飛ばされても、獣の反射で地面を抉り止まる。

 

 ライラットは六機のビットを推進に再配分し、再加速してその場で耐える。


 俺は――“真正面から戦わない”。


(勝てるわけがない。理性を失っているウルフィンとライラットとぶつかっても死ぬだけ。俺がやるべきは、“生き残るための動き”だ)


 荒涼天は剣から盾へ、盾から槍へ。形状変化の連続で、とにかく巻き込まれないように立ち回る。ライラットのビットの射撃は距離を取るよりも間合いを詰めた方が対処しやすい。


 目の前でウルフィンがセレスタに飛びついた。


「ガアアァッ!!」


「はいはい、いい暴れっぷりね」


 強化魔法を施したセレスタが杖を横薙ぎに振った瞬間、ウルフィンの体はまるで紙みたいに、ライラットの方に弾き飛ばされた。


 ライラットがその軌道を読み、二機のビットで狼を弾き、セレスタに槍を突き出した。


 緑の残光が伸びる中、セレスタの周囲に“透明な壁”が発生し、緑の光が吸収された。


「まだまだね」


 吸収した魔力を光弾として打ち出すセレスタ。


「ッ……!」


 ビット2機が盾、残りの4機が彼女の手足について背後に動かして衝撃を流すように動く。

 反応は間に合っている。だが衝撃に追いついていない。

 

 緑に爆ぜる光。

 

 空間が震え、爆煙の向こうからライラットが地面に叩きつけられる音が聞こえた。


 俺は荒涼天を盾に変えて衝撃に耐える。その瞬間。

 セレスタの視線が――“俺だけ”を射抜いた。

「オスカー、動きは悪くない。でもね――」 


 杖を軽く回す。


「守ってばかりでは生き残れないわ」


 脇腹に杖の一撃、崩れた体勢にウルフィンが斧を振りかぶって突進してくる。


(マズい!)


 コイツには盾ではダメだ、もろともやられる。剣に変えて、いち早く懐に飛び込み切りつける。


「ググッ!」


 呼吸が整ってなかったのと、踏み込みが甘く決定打にはなっていない。セレスタにやられた箇所が痛みその場に崩れ落ちる。


 ウルフィンの傷は既に癒え始めている。この再生も貴族の血によるものか、以前戦った時よりもタフになっているな。


(クソがっ!)


 トドメを刺そうと斧を振り上げたウルフィン。その隙をセレスタが見逃すわけがなかった。


「ウルフィン、あなたから処理するわね」


 セレスタがウルフィンの太い首を背後から掴む。


魔力喰い(マギヴァラクス)


 その瞬間――ウルフィンの暴走形態が揺らぎ、獣の咆哮が悲鳴に変わる。


「グ……ガ、アァ……!?」


 彼の体から蒼い魔力が煙のように抜け上がり、セレスタの腕に吸収されていく。


 暴走形態の根源――“魔人の貴族の魔力”


 それを、セレスタは根こそぎ吸い上げていた。


「魔力切れの獣は、家畜以下よ」


 ウルフィンの姿がぐらりと崩れ、そのまま気絶した。


(ひとり――落ちた)


 その隙を見て、ライラットが突撃する。


 セレスタの防御魔法を背後のビットが全推力で押し込み、槍の刃は直視する目を焼くほどの緑の光を放っていた。


「――ッッ!!!」


 中心にあるのは、殺意すら通り越した“機械的な最適解”。


 マスクの隙間から漏れる吐血、彼女は完全に生物としての限界を超えていた。しかしこれは彼女の維持ではなく、プログラムされた機械的なものだ。


 セレスタが楽しそうに呟く。


「よく立ち上がって来たわね、でも限界かしら」


 杖の先端を槍に合わせて防御魔法を解いた。




 直後の深い青の爆光ーー今ウルフィンから奪った魔力の光だった。


 俺は荒涼天を地面に突き立て、衝撃に備えて踏ん張る。それでも吹き飛ばされた。

 

 煙の向こう、ライラットが仮面を吹き飛ばされて、口と鼻から血を流して気絶していた。先ほどまで暴れていたビットがその周囲に落ち葉のように積み重なっていた。


(ライラットも……落ちた)


 残るは俺だけ。セレスタが振り返る。


「さて、最後の一人ね」


(正面からやり合えば一瞬で終わる……はず、だった)


 だが身体の奥底から何かがざわつく。


 さっきまでとは違う、熱とも冷たさともつかない“脈動”。胸の奥で何かが軋み、血流が一瞬、逆流したような感覚。


(――何だ、これ……?)

 セレスタの目が、ほんのわずか、細くなった。

「……ふぅん?」

 俺は剣の形の荒涼天を構えてセレスタの動きを見るつもりだった。


 だが。体が勝手に別の形を選んだ。


 荒涼天が瞬時に右手に纏わりついた。


「……ッ!」


 視界の端が赤く染まる。

 心臓が早鐘を打ち、魔力が自分の身体に合っていない速度で暴れ始める。しかし頭は酷く落ち着いている、向き合っている相手の動きがゆっくりに見える。


 これまで以上のパフォーマンスを出せるかもしれない。そんな感覚だった。


 セレスタの顔から笑みが消えたのが分かる。


「オスカー。それは――」


 後半、何を言っているのか分からない。荒涼天の刃が赤黒く光り、俺の足が動いた。


 ただ一つはっきりと聞こえた声。


「――止まりなさい」


 セレスタの杖が軽く地面を叩いた。直後俺の足元から巨大な2本の巨木が絡みつくように俺にまとわりつき、魔力を急速に吸い取られているのが分かる。


(……身体が、動かない……!)


 次の瞬間、俺の魔力が一気に冷え落ちる。


 制御を失った反動で、視界が黒く染まり――完全に意識が途切れた。



 



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