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編纂者と行くダンジョン巡り  作者: 鳥バード鶏チキン
リザンへ
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41 出発


 それから帰ってきたライラットがヴァンシュタインさんを一目見て帰ろうとしたのを、彼が引き摺り込んだり、ヴァレンさんがウルフィンの服を脱がそうとしたり多少の騒ぎはあったものの会は続くのだった。


 それで、今回の2級昇格試験に合格したのは、流雲組の代表であるチエ・フカミ。そして、煌砂事務所の代表であるサーミル・アズハルの2人だった。


 残りの2人もいい線をいっていたらしいのだがもう一歩足りないとのこと。結果自体に苦言を呈するものはおらず、この慰労会も2人の昇格を祝うものとなっていた。


 しかし1級の3人について、この4人の受験者に気を許しすぎているんじゃないかとふと思う節がある。


「そりゃ、2次試験に()()()()()()()参加しているからね。それだけで僕たちとしては多少は気を許せるんだよ」


 酒を飲みながら呟くアッシュフォードさん。


「言っただろ? 2級に上がったら問答無用で記憶と肉体を記録して、死亡したらすぐに復元を行うと。その時点で彼らの持つ情報は僕に筒抜けになるわけだよ。それを許しているということは僕らに隠すようなやましい事はないという証拠になるんだ」


「やましい事ですか?」


「国家の転覆を画策していたり……貴族の魔人と結託して人類を脅かしたりとかね。そういうのを考えている人はそもそも試験に参加しないんだよ」




 それからしばらくした後、セレスタがヴァンシュタインさんに向かって真剣な面持ちで尋ねる。


「それで、あなたの目的は何? 3級を軽んじるような人間のあなたがわざわざ顔を見せにくるなんて、喧嘩別れした元弟子の顔を見にきただけじゃないでしょ?」


「他人を軽んじるとかお前が言うのか……それはとにかく依頼だよ、グランゼル帝国の大臣直々のものだ」


 その場にいた全員から笑顔が消える。グランゼルというのは国の一つで、人類の生活圏において西方に位置している南北に広い国だ。


 その国の大臣、しかも1級への依頼だ。深く考えずとも国家の命運を左右する依頼であることは明白だった。


「……あぁ、なんとなく分かったわ。もうそんな時期だったのね」


 引き攣った笑顔のセレスタ。依頼に関する事でここまで露骨に嫌な顔をするのを見るのは初めてだな。


「『リザンとグランゼルの不可侵協定の期間延長』それが大臣からの依頼だ」


「やっぱりね、大変だけどやりがいのある仕事じゃない。でも1級がリザンに足を踏み入れて話まで漕ぎ着けるの?」


「わかってるさ、だからここまで来て2次試験を見に来たわけだからな」


 いまいち話が見えてこない。眉間に皺を寄せていたところアッシュフォードさんが助け舟を出してくれたのだった。


「僕ら1級が人の寿命を大きく超えた時を生きているというのは知っているね?」


「確か鼓動返(こどうがえし)という魔法によるものであるとは聞いてます」


「僕の記録魔法が不死の魔法とするならば鼓動返は不老の魔法だ。その魔法のおかげで何百年生きようとも健康的な身体で過ごすことができる。偽って若手のクエスターと名乗っても気づかれないだろう」


「それがサルヴェリオンが治めるリザンとどう関係するんですか?」


「サルヴェリオンの魔法『夭逝妖精』は寿命を魔力に変換する魔法、どうも鼓動返を受けた体は正しく魔法が機能しないようでね。履歴を偽り、顔を変えても僕らが2級以上であることがバレてしまう」


「……協定の延長の話し合いをするだけなら多少バレたところで問題なさそうですが」


「自分の魔法が効かない相手というのは天敵のようなもので、毛嫌いしている節があってね。まともに取り合ってくれないんだよ。それで、2級の力がありつつも鼓動返を施していない、試験直後のメンツを派遣しようという考えだろうね」


 誰を向かわせようかとヴァンシュタインさんが目を動かし選ぼうとしたところ手を上げたのは他でもないセレスタだった。


「待って、それなら私達が引き受けるわ。部下も全くの無力ではないはずよ」


「……おい、万が一戦闘にでもなってみろ下手したら部下全員失うぞ」


「いいのよ、彼らがヘマして死んだらそれまでのこと。こんなところで躓かれたら後が思いやられるわ……それに珍しい子もいるしヤツと面と向かって話し合う事はできると思うわよ」

 

 俺達3人の顔を見るヴァンシュタインさん、納得したのか一つため息をした後書類を数枚彼女に手渡した。


「……まぁいいだろう、大臣には伝えておこう」


 どうやら、これまでで一番過酷な旅になりそうだ。試験の参加者とその連れ人から憐れみの視線を向けられている気がする。酒を飲む手が止まらない。


 あまりの不安と焦燥感でその後の会はあまり覚えていない……気がついたらトイレでアジマさんに背中を摩られていた。

 



 それから護衛任務が終わるまでの間、特にこれといった問題はなく時は進み契約期間が終わりを告げた。


 ユリエラ・エスカダ、リセア・エスカダとも手短に別れを告げてエルミナスを後にする。護衛対象から他人に戻っただけだ。次に会う時は護衛対象ではなく、暗殺対象の可能性もゼロではない。そこら辺はセレスタの裁量次第だ。



「しかし、リザンですか。ここから陸路で向かうならいくつかのダンジョンを越えることになりますね。多少時間はかかりますが、迂回するのも選択肢……」


 エルミナスの関所を出たところで地図を眺めて回路を確認していたウルフィンだったがそれを遮ったのは他でもなくセレスタだった。


 なぜそんなもったいないことをするのか、ダンジョンを探索したいと駄々をこねるセレスタ。道中のダンジョンは難易度が高いことで有名なものであり物品の遺失リスクも踏まえると避けるべきとウルフィンも反論した。


 そんなリスクヘッジは無駄だとライラットが肩を掴む。師匠はこのままだと駄々をこねて仰向けになって手足をバタバタとしてしまいそうだ。折れたウルフィンはダンジョンを攻略することを納得したようだ。




「それでそのダンジョンってなんなんだ?」


「蒼月の裏洞、風哭かぜなきの丘、シルバークレストバレーですね」


「確かに一癖のあるダンジョンだけれど私たちも4人いるし、ローテルホルンも踏破したのだから気持ちで負けてはダメよ」


 前のギルドで蒼月の裏洞には行ったことある。奥地に生息する魔物の皮をとってきて欲しいという依頼だったな……思い出としては、そうだ。


「蒼月の裏洞って『レベル1ダンジョン』だぞ……まぁそこでは貧弱な師匠も3人もお守りがあれば大丈夫だろ」


 ヴァルク遺跡で泣きながらついてきたセレスタの姿が思い起こされる。普通に探索するよりも倍は疲弊したが、今はウルフィンもライラットもいる。


 なんとかなるだろ……たぶん。

 

 ヴァルク遺跡では加入していなかった2人がレベル1ダンジョンでのセレスタについて疑問を呈していた。


「師匠は魔力量の成長期って面では恵まれなかったようで、幼少期の外見や魔力量に戻されるレベル1ダンジョンでは生まれたての鹿のように貧弱になる。『待ってぇぇぇ! 置いでいがないでぇぇぇ!!』って泣き言を言うのを見たら2人とも驚くぞ」


 目が泳いでいるセレスタを尻目に当時のことを語る。いつかはバレるものなんだから隠すこともないだろ。


「前回のヴァルク遺跡ではレベル1ダンジョンという事前情報はなかったから驚いただけよ! 今回は同じ轍を踏むことはないわ! ……残念だったわね、師匠の醜態を見ることができなくて!」


 弁明するセレスタだったが必死に取り繕っているのは火を見るよりも明らかだった。ただ、それでも蒼月の裏洞を迂回しようという意見が出ないあたり、この人はダンジョンが好きなのだろう。





「待ってぇぇぇ! 置いでいがないでぇぇぇ!!」


 レベル1ダンジョンの探索に適した準備をした後、蒼月の裏洞に挑戦した俺達。案の定というか、ものの数分で置いていかれそうになったセレスタの泣き言が洞窟に響き渡るのだった。



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