4 セレスタの趣味
ギルドもクビになって依頼が受けられなくなってしまった。いや、前からマスターにはよそのギルドに鞍替えするように言われていたのだが無視し続けた結果がこれだ。特にやることもなくなった俺はセレスタの様子でも見に行こうとダンジョン入り口に向かったのだった。
暗がり洞窟入口
いつも通り解放された入口。侵入した時点で魔物が生成されるため内部の魔物が出てくることはないらしい。
いつも通り人はいない。珍しいものが得られるわけでもないため変ではないのだが。まぁ俺でもダラダラとやっても20分で制覇できるダンジョンだ。5分もすればセレスタはダンジョンを制覇して戻ってくるだろ。
「……あぁ、ついてきたのね。ストーカー?」
10分経過したころ入口からセレスタの姿が戻ってきた。
「意外と時間がかかりましたね」
「まぁ、探索しながら進んだからかしらね」
そう言うと手元に紙を数枚出現させて開いて地面に置いた。俺のような腕輪は使っていないあたりストレージ魔法を扱っているのだろう。
「あなたの言葉通り単純なダンジョン構造だったわ、この感じだとパターンもそんなに多くないわね。敵も弱かったし、駆け出しクエスターの修行の場としては十分ね」
紙には探索したダンジョンの構造が記されていた。この量からして既に5回は制覇したらしい。しかしこの地図どこかで見たような気が……。
「セレスタさんって、もしかして編纂者ですか」
「言ってなかったかしら? ……あ、やばこれ言っちゃダメなんだっけ」
コンパイラー、今では使わないクエスターはいないと呼ばれているマップと呼ばれる道具を造っている人物だ。周辺の地形や施設を自動で更新し、自身の魔力を登録することで現在位置を表示することができる道具だ。
この道具が出てから初めて訪れる町で迷子になるクエスターはいなくなった。それだけではなく既存の地図よりも遥かに便利なため都市間の移動においても欠かせないものになっている。ポーションの作成者など実名は聞いたことはない。それは単純に莫大な影響をもたらす人物を特定しないようにするためだが……こいつ、口が軽すぎる。
「魔物が出てくる山道や洞窟は魔物の巣が駆逐されて、財宝が入った宝箱が空になったらそれはもうただの道なのよ。そのダンジョンは入るごとに地形が変わって、侵入者を追い払う魔物は尽きることがない、熟練のクエスターであっても新鮮な体験を得られるというのはとても貴重なことなんだとは思わない?」
「……いや」
「だいたいあの連中も何十年も日の当たらない暗い場所にいるから頭も凝り固まるのよ。最強の攻撃魔法とか考えるくらいなら外に出てマッピングをするべきだと思わない!?」
こちらに言葉を発せさせないほどすさまじい早口でまくし立てるように言葉を吐き出すセレスタ。普通に引く、数時間前まで冷静で貫禄のある人物だと思っていたがまさかここまでのダンジョンジャンキーだったとは。
「……そうか、229歳だもんな。長く生きたら刺激が欲しくなるのは分かる。俺は何も見聞きしていないから、村に帰ってくるときはさっきのように凛とした顔をしてくれよな」
もはや飾ったような敬語すら使う余裕はない。踵を返してこの場から離れようとしたところ、セレスタが動かさまいと拘束魔法で生み出した鎖で縛られる。不意の魔法に簡単に簀巻きにされた。
「そうだ、あなたさっき体はもう大丈夫と言っていたでしょ? ダンジョン、一緒に行きましょうよ。一人でやるよりも楽しいに違いないわ」
狂ったように笑う彼女を止めるものなどおらず。俺は情けなく暗がりの洞窟に引きずり込まれたのだった。