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編纂者と行くダンジョン巡り  作者: 鳥バード鶏チキン
エスカダ邸護衛依頼
39/43

39 情報収集


 明朝、試験を終了したセレスタが戻ってきた。衣服はボロボロだったが、本人はケロッとしており、疲労は微塵も見せなかった。


「それで、この3日間は何かあったかしら」


 リセア嬢に教えを請われ指南し、昨日の昼に使用人の襲撃があったものの仕掛けた防衛魔法が正しく働いたと報告する。


「2人が無事だったのならそれでいいわ」


 明日以降の4日に関してはリュシアンの防衛魔法が再起動する予定だという。


「あなた達、明日の夜2次試験の参加者とその関係者集めて慰労会するからセッティングしておいてくれない? 人数は……私達含めて13人ね。予約が取れればどこでも……いや、金はリュシアンが出すからできるだけ高い店にしておきなさい」


「それは分かったが、明日以降の依頼はどうするんだ? 試験が終わって危険な時間は過ぎたとはいえ警備の期間があと4日あるだろ」


「今日以降は私が引き継ぐからーーあなた達は自由にしていいわ」





 エルミナス大図書館


 数日ぶりに訪れる。来館者数は……あまり変わってないな。


 目的は、魔人の貴族に関する情報。もっと言えば『夭逝妖精ようせいようせいのサルヴェリオン』という課題に関するものだ。


ーーあなた達3人をテストとしてサルヴェリオンにぶつけるわーー


 ルナテクス紡績工場でのセレスタの一言が頭の隅に残っていたのだ。ここの図書館では何が有益なものが見つかるかもしれない。


「これはこれは図書館で勉強とは殊勝な心掛けだね」


 振り返るとリュシアン・アッシュフォードの姿があった。ここに来た目的を伝えるとついてきなさいと一言残した。


 前方を歩くリュシアンが振り返ることなく話す。


「あのダンジョン狂いもそんな過酷な課題を出すとはねぇ。確かにそのテストを突破できれば、戦闘という面では未開の地でも生き残れるだろう」


「アッシュフォードさんはサルヴェリオンという貴族について知っているんですか?」


「僕はそいつと戦ったことはないよ? でも他のクエスターが交戦した記録は残っていてね。それと根城にしている都市の情報も集まっているんだ」


「人類から物資をもらう代わりに西からくる他の魔人や魔物の侵入を防ぐ都市、ですか。確かリザンという名前だと聞いていますが」


「よく知っているね。現在、リザンという都市とその周辺はサルヴェリオンという個人によって守られている。それがあまりにも安定しているからか、あらゆる雑務をこなす職であるクエスターもほぼいない」


 このラウキエラという街とあまり変わらない、周囲一体を守っているという点では彼方の方が上だと説明するリュシアン。


「そうだとしても人手が足りないのでは? 師匠も1人だけでは色々な町を守ることはできませんし、相応のシステムを構築するにも広大な範囲では無理があるでしょう」


「そこは彼の魔法によるものだ」


 彼が窓際のカウンター席に腰を下ろし、俺に座るように促した。そして指を鳴らすと一冊の本が鳥のように羽ばたき、彼の手に収まる。


 この本にリザンとサルヴェリオンに関する記述があるとのことだ。


 妖精妖精ようせいようせい


 サルヴェリオンの二つ名であり、得意魔法。その本質は他の生物の寿命を魔力に変換すること。蝶の姿をした眷属が人に纏わりつき花の蜜のように人の寿命を吸い取る。


 寿命を吸い取られた者は小さな子供であろうと、元から存在しなかったかのように消滅する。その姿を見て夭逝妖精という名前が付けられたらしい。


 サルヴェリオンが統治するリザンでは寿命そのものが価値であり、さながら通貨のように扱われるらしい。税を納めるように寿命を捧げ、給料のように寿命が与えられる。


 外から来る者には元々のものに加えて、持ち込む外貨に応じた寿命を受け取るらしい。そのため高齢であっても多くの寿命を持つ者もいるとのこと。


「他者の寿命を魔力に変える、通りで人間に擦り寄るわけですね」


「人間ほど寿命が長くて、定住して群れている生物もないからね」

 

「……それなら直接人間に手をかけるよりも、家畜に手を出しそうなものですけど」


「それではタダでは済まないというのを知っているらしい。人が見ず知らずの他人よりも家畜を重要視するというのに気がついているようだ」


 牛一頭よりも人1人の方が搾り取れる寿命は長いしね。と付け加えるリュシアン。


「……夭逝妖精の魔法は分かりましたが、それが人手不足をどう解決するんですか?」


「サルヴェリオンは魔力から分身を作ることができるんだ」


 分身? ゴーレムとかその類のものじゃないのか?


「広い区分ではゴーレムと同じものだが細かい命令が必要な割にその他の行動が難しいゴーレムとは異なり、曖昧な命令でもそれぞれが解釈して行動することができる。自我というものではないが、側から見たらそれを持っていると見間違える人もいるだろう」


 話しを聴きながら紙面の文字を追っていたところ該当する箇所に辿り着いた。サルヴェリオンが自身の魔力から作る分身「白い男」と「赤い女」についての記述だ。


 話の通りのゆるい首輪をつけた自分の手足といった感じか。反抗せず、自立して動くことができるらしい。


 彼らがリザンのライフラインを維持し、他の魔人による脅威から守っているのだとか。そのため戦力という面でも4級、5級のクエスターに遅れはとっていないとのこと。


 また魔力の貯蓄という面も持ち合わせている。なんらかの理由でサルヴェリオン(本体)の魔力が不足した場合、吸収されることで魔力を供給するのだとか。


 人類がまだ成し得ない、魔力の貯蓄だ。


「読めば読むほど、とんでもない奴ですね。師匠が死にかけたという話にも合点がいきます」


 そんなやつと俺達をぶつけるのか……果たして何年後になるのやら。


 しかし、この本。サルヴェリオンの魔法の詳細からリザンの食事処や、支社を置いている企業まで色々なことが記載されているが……逆を言えば統一感のない本だ。


「すまないね、読みづらいだろ? 僕達がいろんな人の記憶を寄せ集めて作った本だからね。少しでも関係するものを集めていたらそんなものになってしまった」


「僕達……ですか?」


「セレスタが君たちのような弟子を持つように、僕にも弟子や孫弟子がいるんだ。で、その人達にいろんな形態で人の記憶を集めさせている。記憶の保存は僕にしかできないけど、記憶を垣間見るのは他のクエスターでもできるんだよ」


「……1級の人って自分の魔法に誇りってあるんですか? 貴族の魔人が自分の魔法を広めようとせず、その唯一性を重視するという話を聞いたんですけど。師匠もアッシュフォードさんも自分の魔法をわりと簡単に人に教えますよね」


「貴族の連中の魔法の習得は途方もない時間と労力がかかるけれど、でも技術なんて広めてこそだよ、もちろん一定の線引きはするけどね。何でもかんでも独占してしまったら文化の進化が止まってしまうだろ? 技術の善悪なんて使い方と使う人に依るものだから僕らはその見極めができれば十分なんだよ」


 本を半分ほど読み進めていたところ、一つ気になることを思い出した。


「そういえば、慰労会のことについてなんですけど」


「一応世間的には試験期間だからね、開いている店を探すのも一苦労でしょ」


「まぁ、そこは他の2人に任せているので……それで参加者が13人と聞いているのですが、数が合わないような気がするんですけど……本当にこれであっていますか?」


 セレスタ、リュシアンの2人の1級、それで4人の2次試験の受験者、流雲組の2人と、煌砂事務所の構成員の1人、そして俺達3人組。合計で12人のはずだが……。まさかとは思うがジェニオの奴を呼ぶのか?


 数分考えた後、リュシアンが思い出したかのように反応した。


「そうか君たちは会ってないのか。2級試験っていうのは会場設営を行う僕と試験官の1級がいるんだけど、それらとは別にギャラリーの1級2級がいるんだ。そのうちの1人が食事会に来たいと言い出してね。君が知りたいのはその人だろうね。その時になったらまた紹介するよ」


 確かに3級の上澄みが集まる機会ともなれば観にくる人もいるのも自然か。


 それからリュシアンはやることがあると立ち去ってしまった。それから1時間ほど、本を読み終えた俺は立ち上がったところで初めて気がついたのだった。


 この本ってどこにあったものなんだろう。

 


 


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