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編纂者と行くダンジョン巡り  作者: 鳥バード鶏チキン
エスカダ邸護衛依頼
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38 生き方

 3日間、それぞれが持っている技術をリセアに注ぎ込もうとしていたが俺の身体強化魔法や、ライラットの刻術魔法の習得は困難だった。


 普段、感覚的にやっている魔法も教えるのは難しい……俺に身体強化魔法を教えたのは前にいたギルドのマスターだったがあの人も教育者としては優秀だったのか。


 事件が起きたのは3日目の昼だった。リセア嬢に剣の打ち合いをしていたところ、中庭に走ってきた使用人の1人が銃をリセア嬢に向けて引き金を引いた。


 次の瞬間――引き金を引いた使用人の側頭部から、鈍く裂けるような音がした。彼女はそのまま膝を折る。


 銃口はリセア嬢に向いていたはずだ。だが弾は、どこか不可思議な軌道を描いて発砲者の頭を貫いていた。中庭の空気が、一瞬で凍りつく。


 側頭部から流れ出た血が中庭の地面に染み込む。


 空気が一瞬にして凍りつく。硝煙の匂いが鼻につく。


「それが師匠と2人で考えたシステムか」


「そうだ、と言っても私は魔法を刻んだけで魔法自体は先生が構築した物だがな。リセア嬢ちゃんとユリエラ様から一定範囲内で引き金が引かれると座標魔法で軌道を配置してーー弾頭が使用者の側頭部から貫く仕組みなんだよ」


 弾倉から出した銃弾の数を数えるライラット。数が合っているのを確認した後、血に濡れた弾頭と薬莢を拾い上げる。


「その範囲は?」


 俺が他の襲撃者いないかあたりを見回しつつ尋ねる。銃声に驚いた他の使用人が窓から中庭を覗き込んだり、こちらに寄ってきているのが見えたが、近づくなと声を荒げる。


「大体20m」


「広いですね、お二方から意識して離れない限り引っかかりますよ」


 ウルフィンが魔法で創り出した麻袋に死体を慣れた手つきで入れていく。


「……とにかく依頼は2人の護衛でしょ? 依頼通りに事を進めるぞ」


 ライラットが多少言葉を濁す。俺たちの依頼は2人の護衛でその他は守る義務はない、仮に彼らが自衛のために発砲したとしても護衛対象の20m以内であれば容赦なく持ち主の頭を撃ち抜く。


 元より腕の立つクエスターはこのような拳銃では怯まない。2人を守るのに加えて口止めのための拳銃らしい。


 リセア嬢が懐に入れていたはずの拳銃が滑り落ちる。ライラットはすぐさま広い、小さい掌に握らせた。


「2人から20mとは言ったが、厳密には2人の拳銃から20mだ。自衛用として渡している以上、あからさまに別のものを渡すわけにもいかなかったんでな。……黙っていて悪かったよ」


 リセア嬢の小さな手をライラットが強く包み込む、決して手放すなと暗に示していた。そんな状況に口を開いたのはユリエラ夫人だった。


「御三方はこのようなことは手慣れているように見えますね。みなさん若くーーリセアとも10ほどしか違わないでしょう……どのような経験をすれば死体を見ても平然としていられるのでしょうか」


 ライラットは木刀持ち、リセアに向かってくるように指示する。必死に剣を振るリセアだが、それを涼しい顔をして捌いていく。その片手間でユリエラ夫人の問いに答える。


「さぁな、私は親父にべったりで、武器や魔法の基本は学んでたし……それこそ嬢ちゃんよりも小さい時から依頼の魔物退治もやっていた。母さんはそれが気に入らなかったようだがな、あとは先生とは違う1級の元で依頼をこなしたり、工場のテスターとして汚れ仕事もしていた」


 ウルフィンはその場に座り感知魔法を再発動して後に続く。

 

「僕は親に売られてある組織の実験体として過ごしてきました。そこで色々やらされましたね」


「俺は、物心ついてない時からギルドで育てられて、いろんなダンジョンに入り浸ってましたね」


 3人ともクエスター以外の生き方は考えられないと答える。それが信じられないという顔をするユリエラ夫人。正直俺たちのような考え方は珍しいわけではない……ただ環境と考え方の違いなだけだ。


「それじゃ、家族というのは」


「親父は死んだし、母と2人の姉とは元々仲が悪かった。今更情を持てというのは無理だな。辺境の街だったし魔物か魔人に襲われて死んでるかもな」


「金欲しさに息子を売り飛ばすような親、そんな連中を愛せ……なんて軽々しく言わないで欲しいですね」


「親の名前も顔も知りません」


 正直俺達3人がつながっているのは「クエスターであること」「セレスタに師事していること」だけな気がする。2人が何が好きで何が嫌いなのか、趣味はなんなのかよく分かっていない。


 それで困っているわけでもないが。


 どこか不安な面持ちのユリエラ夫人に伝える。


「心配しなくても、リセア嬢には武器の振り方と魔法のことしか教えませんよ……クエスターとしての生き方なんて、憧れるものじゃないですよ」


 俺達はたまたま才能に恵まれていて、たまたま腕の立つ人に教えてもらっていただけだ。10級、9級のクエスターなんて今日の飯も怪しい額の依頼しか受けられない。


「普段から1級の傘の下で守られている街で過ごし、有事の際にも1級に依頼できるほどの金のある家に生まれたんだ。数日での成長は目を見張るものがあるけど……こんな事の成果を発揮する機会なんてないのが一番だ」


 リセアの木刀を引っ掛けて飛ばし、彼女の眉間に切先を突きつけるライラット。模擬戦の決着はついたらしい。


 

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