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編纂者と行くダンジョン巡り  作者: 鳥バード鶏チキン
エルミナスへ
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26 課題と依頼


「エルミナスにもそれなりの時間滞在することになるわ。それであなた達にそれぞれ課題を出そうと思うの」


 2級昇格試験の期間は約2週間。その間、休暇にするのも体が鈍るでしょう。と口を開くセレスタ。彼女は一冊の本を取り出しライラットに差し出した。


「これ魔導書か。なんの魔法のだ?」


座標魔法(私の得意魔法)。あなたにはこれを習得してもらうわ」


 座標魔法。セレスタが言っていた任意の対象や空間にマーキングする魔法。感知魔法の代わりにもなるし、攻撃魔法がマーキングした相手を追尾できるようになる。


 次裂破から収納魔法が作り出されたように、貴族の魔法を元にセレスタが作ったものらしい。


「これを2級昇格試験が終わるまでに習得しろって? ……あまり自信がなーー」


「発動に時間がかかるとはいえレーヴェンの収納魔法が扱えるんでしょう? できないとは言わせないわよ」


 その一言でライラットが黙る。課題を受け入れたらしい。それを確認したセレスタは別の本をウルフィンに差し出した。


「ウルフィンにはこれらの攻撃魔法ね。感知魔法はある程度できるようになったようだからその膨大な魔力を攻撃のために扱えるようになりなさい」


「……分かりました。がんばります」


「それで俺は? 俺は何をすればいい?」


 セレスタが俺を見る。2人に明確な課題を出している以上、何かあるはずだ。この旅の間に回復魔法も教えてもらって、かなり上手く扱えるようになったし期待していいだろう。


「あなたには……そうねぇ……基本的な回復魔法は教えて切り傷も治せるほど上達しているから上出来なんだけど。次は土魔法を教えてあげるわ、私の得意分野だし、そのうち必要になりそうだから。それはそれとして私達のギルドはこの依頼を引き受けたのよ」


 土魔法、具体的になんの魔法なのか聞く間もなく、セレスタは一枚の紙を差し出してきた。


 護衛依頼。

 依頼主 ガルマン・エスカダ

 依頼内容 2級昇格試験が行われる2週間の間の警護

 

 その下には報奨金などの情報が書かれていた。額の割にはシンプルな内容だ。


「エルミナスって宿も凄い高くて2週間分もお金を出したくないのよ。それでこの依頼主が護衛を引き受けてくれたギルドに部屋を貸してくれるらしくてね」


 要は金の節約か。まぁ依頼さえこなせば無料で過ごさせてくれるならそれに越したことはないかと納得していたところ、ライラットが声を上げた。


「エスカダって、魔石採掘企業のお偉いさんだな。多くの国が依存しているレベルの企業だぞ」


 名前は聞いたことある。デカい鉱脈を持っており、魔石に含まれる不純魔力を効率よく取り除く精製法を開発することで他の魔石供給会社よりも安価な提供を実現している。


「しかし、あそこの鉱脈ってここからどのくらい離れていると思っているんだ。本人がエルミナスに滞在しているとは思えないが」


「別荘があって妻と娘が住んでいるみたいね、依頼主は今回の護衛対象じゃないわ」


 まぁ金があるなら身内を安全な場所で生活させるのは変な話ではないか。

 

「それにしても、僕も何度も警護、護衛依頼は受けたことありますけど……この額凄いですね。場所が場所なら数年は遊んで暮らせますよ」


「エルミナスに関する依頼は依頼主が資本家がほとんどだから動く金は凄いし、ヘマしたら芋蔓式に数百人のクビが飛んでいくわよ」


「これ依頼に失敗したら僕たちの首が物理的に飛びますよ」


 確かに報酬金の欄には多くの0が並んでいる。それだけ地位のある人物の関係者なのだ、妥当な額ではあるだろうし万が一にもしくじったら俺たちの人生が終わりかねないと思っても無理はない。


「流石にないわよ。もっと護衛任務にノウハウのあるギルドに依頼を出したり、事前にエルミナスを出ていない時点で落ち度はガルマンの方にあるし藁にも縋る思いで私達に依頼しているでしょうから」


「それって、事前にエルミナスを出ようとしたエスカダ家の人間を邪魔した奴がいるって話になるぞ」


「この期間で襲われるの前提で頼んでいるということか、報酬が高いわけだ」


 何事もなく2週間を過ごすというのは期待できないらしい。



 翌朝、俺達はローテルホルンの6号目を目標に準備を進めた。昨日、半日で二号目まで進んだならばそのくらいまでは辿り着けるだろうという概算である。


「オスカー。お前その剣どこで手に入れたんだ?」


 後ろをついてきていたライラットが俺が手にしている剣を指差した。


「俺が襟巻き(元いた)ギルドに流れ着いた時から持っていた物らしい、マスターのジジイが言うにはある日のギルドの前で布に包まれた赤子の俺とこの剣が置かれてたって。それがどうしたんだ?」


「その魔力伝導性、アルケミウムの塊だろ? たしか神代重工の物だよな?」


 確かそんなことをセレスタも言っていたな。師匠はこれよりも珍しい物はいくつも持っているらしいが。


「らしいな、いろんな武器を触ってきたがなんだかんだコレを握るあたりいい物には違いなさそうだが」


「昔カタログで見たものとは少し形が違うけど……それ、いい物には違いないっていうか。凄まじくいい物だぞ、それ」


 俺が世間知らずと言わんばかりに言葉を選ぶライラット。


 荒涼天こうりょうてん、それがこの剣の名前だ。神代重工というのは年の暮れに技術の粋を集めて最高の一振りをつくるらしく、彼の国で信仰されている神の名前をつけるとのことだ。


 性能も優れているが、それよりも希少性に優れ大体は家宝にされるらしい。外に持ち出して、ましてや探索に失敗すれば持ち物を失うダンジョンで振り回すものではないという。


 そして物の珍しさをセレスタの所有物を基準に考えるなと怒られてしまった。


「これが貴重な物なのは分かったが何が問題なんだ?」


「何が問題って、普通お前みたいな生まれが不明な奴が手にできるわけがないだろ。その手に渡った経緯が気になっただけだ」


 荒涼天はアルケミウムという種類の金属塊を加工したものだが、この金属、魔力を伝える素材として優秀で刻術魔法を前提とした武器を作る際に必須とも言えるレアメタルだ。


 この剣ほどのサイズのアルケミウムは売れば半生は遊んで暮らせる金になるらしい。だからと言って売るつもりはないが。


 カタログで見た形とは違うとは言っていたし、人前で何度も振り回すようなこともなかったためこれまで剣の価値を指摘されたことはなかったな。


 俺にはこの剣を手にするほどの人との繋がりがあるということか。


 


 


 

 


 



 


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