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編纂者と行くダンジョン巡り  作者: 鳥バード鶏チキン
エルミナスへ
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24 2級の恩恵

 白紙営業所は新しい仲間であるライラックとと共にルナテクス紡績工場を後にする。次の目標は2級昇格試験が開かれるエルミナスだ。ここから見える北の山を抜けたところにある都市で、周囲を山々で囲まれた天然の要塞とも言える地形に位置している。


 そこでの用事はセレスタが試験官として参加する2級昇格試験、人類の限界と言われる3級より一つ上の階級で、セレスタが属する一級の一つ下の階級でもある。


 4年に1回開かれる試験ではあるものの一回あたりの受験者の平均人数は10人に満たない程度のため階級の割に大々的に行われるものではないようだ。


 ただ参加者の質は良いようで、毎回の試験で0~2人の合格者がでるらしい。試験内容としては足切りを兼ねた第一試験、本格的に試験者をふるいにかける第二試験。この2つは毎回内容が変わらない。


 第一試験、ジェニオ・マーデンと1対1の戦闘を行い勝利すること。


 第二試験、第一試験に合格した受験者全員と事前に公表された1級クエスターによる戦闘試験


 基本的にこの二つだが試験内容が周知されていてもなお合格率が低いのは二つの試験が単純な実力が要求されるからだ。第二試験はともかく足切りの第一試験の突破率は30~50%、至る所でまったく同じ顔で店を開いているクエスターだがセレスタが『本気』にならないと勝てないほどの相手だ。


「手強いと言っても、それはジェニオが分身・増殖の魔法を使っている時の話。あいつ1人だったら余裕をもって勝てるわ、2級を目指すのであれば乗り越えて欲しい相手ね」


「しかし、お師匠様は大丈夫なんですか? 3級の上澄みである数人の受験生と同時に戦闘するなんて」


「先生が負けたら試験にならないんじゃないのか?」


 心配するウルフィンと揶揄うライラット。ライラットは自身の背丈の半分ほどもある煙管で煙を吸いながら歩を進めていた。


「私も真剣にやるわよ。貴族との戦闘を想定してやるものなんだし、実力が不足している奴に2級の称号をつけるわけにはいかないしね。それにしてもあなた、いいもの持っているわね?」


「まぁな、先生がほしいと言ってもやらねぇからな」


 長い煙管は流雲庵りゅううんあんと言う工房の製品だ。煙を体内に入れて娯楽はもちろん身体強化の効能も得られる上、その長さ、頑強さ、先端に返しの付いた形状から得物としても一定の評価があるらしい。雲流庵のテスター集団は流雲組とも言われており実力の高い組織のようだ。


「確か流雲組のリーダーが受験者として記されていたわね。他にも名の通ったギルドの代表や企業の職員が数人、楽しい昇格試験になりそうね」


「仕事を引き受ける上での階級なんて3級もあれば十分だと思うんだが、それでも2級を目指す人はいるんだな」


「確かに、1級出ないと受けられない依頼はあるけれど、2級じゃないと受けられないものはほとんどないわ。ただ上がると得られる恩恵は大きいのよ、1級と2級よりも、2級と3級の方がクエスターとして得られるものの差は大きいの」


 クエスターとして活動する上でさまざまな保険が得られるのだと言うセレスタ。ライラットがその例を尋ねるといくつかの単語を上げるセレスタ。


「記憶記録、肉体記録、鼓動返こどうがえし。目立つのはこの辺りかしら、どれも本来はものすごくお金がかかるものだけど2級になるとその技術、知識の希少性からタダで受けられるわ」


 記憶記録、肉体記録はその名前の通りで現時点での肉体、記憶を記録する。死んだ時にその情報から心身ともに再生することができるらしい。


 鼓動返、身体を若返らせた上で不老にする技術だ。不死になるわけではないので事故や外傷などで死亡することはあるが、それは前述の2つの技術で補うのだと言う。


 だからこそセレスタは300を超える年齢でなお若々しい見た目をしており、20代の俺達と身体能力で渡り合えてるのだ。


「それって2級昇格の特典だったんだな。先生が金払ってるもんだと」


 正直俺もそう思っていた。ウルフィンもライラットも仲間に引き入れる際に相当な金を残していたようだし、その3種類の技術を受ける金も難なく支払えるもんだと。


「あなた達が私の懐事情をどう思っているかは知らないけれど、3種の技術を受けるとなれば余裕で足りないわよ。それだけ高いのよ、この身体」


 満足げに両手を大きく広げて見せびらかすセレスタ。


「……お師匠様は何歳の時に2級になったんですか?」


「私の時はクエスターの階級制度なんてなかったから、たしか鼓動返を受けたのは52……いや62の時ね。あの時代は制度がめちゃくちゃだから、現代の2級の相当の実力のなかった私でも恩恵に預かれたのよ」


「それで、先生は2つの記録技術の恩恵を受けたことはあるのか?」


 遠回しに死んだことはあるのかと尋ねるライラット。彼女は一言「1回だけあるらしいわ」と呟いた。らしい、というのはなんとも曖昧な話だ。


「いやね、死んだ時に記録を元に再生されるのだけれど……その再生は特定の場所でしかできないから、死んで記録を元にして再生したという事実は分かってもその死因を覚えているわけではないのよね。私は140歳の時に記録をして170歳の時に死んだらしいわ、だからその30年間の記憶は一切ないのよ」

 

 記録してから死亡するまでの期間の話は人伝にしか知りようがない。生きる時代もタイムスリップしたようなもので気持ちは良くないらしい。


 仮に俺達4人がある強敵に遭遇し、セレスタが最初に死亡したとする。そして再生したセレスタは記録した数十年前の記憶を復元する、そのためその強敵の存在を知らず残った俺達3人の全滅は必至だという。


 今死亡したら俺達3人の存在は忘れるらしい。記録と再生というのも便利な技術なのだろうがなんとも寂しい話だ。


「まぁ、その時はその時よ」





「オスカー。あなた、この山攻略したことある?」


 ルナテクス紡績工場を出て数日、セレスタによる特訓や魔法の技術向上を行いながらエルミナスに向かっていた俺達だったが、日が南中した頃、ついに登山口に行き当たった。


 ローテルホルン


 名前の通りに赤褐色の岩肌が特徴的な山で、夕日に照らされると鮮やかな赤色に染まるという名所の一つだ。この山を越えれば目的地であるエルミナスにも行き着くだろう。



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