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編纂者と行くダンジョン巡り  作者: 鳥バード鶏チキン
新しい仲間 その2
22/42

22 刻術魔法

「なんだこれ? 空じゃないか」


 俺とウルフィンはトランクバッグの中身を覗き込む。黒い布地の内側がはっきりと見える内部、隅に何かあるのかと探したが何もない。


「これ自体にも刻術魔法をかけていてな。まぁ見てろよ」


 自身げに語るライラットはバッグの上で右手をかざすと白い魔法陣が現れた。その魔法陣に手を突っ込んだ彼女は1丁の拳銃を引き摺り出した。俺と手合わせした際に用いていた銃だ。


「オスカーには見せた物だが、これには反動軽減の魔法を刻んでいてな。発砲する際の反動を85%軽減し、速射性を向上させている割とカジュアルな魔法だな。女子供でも扱いやすい物だが……まぁ弾丸一発に魔力の消費を嫌う人には受け入れられてないものでもあるな」


 確かに片手で容易に扱っていたな。あれもスーツの性能かと思っていたが武器の方にも細工があったのか。


 次に1張のクロスボウを取り出すライラット。


「これは、矢強化の魔法をかけている。貫通力は私の持つ武器でも随一だ。機会があれば見せてやりたいな」


 三度自身の武器を取り出そうとするライラットに静止の言葉をかけたのはセレスタだった。


「なんだ? 気に入らなかったか?」


「いえ、そうじゃなくて。あなたこのカバンにも魔法を刻んでいると言っていたのだけど……()()()()()()じゃないの? この刻術魔法はあなたが施したの?」


「そうだが、それがどうした」


「……あなた収納ストレージ魔法が扱えるの?」


 神妙な面持ちで尋ねるセレスタ。


「素手でやるには扱う魔力の種類を増やすのもそれぞれの量の調整も時間がかかる、そういう意味では使いこなせている訳ではないな」


「市販品の腕輪は使わないの? そっちの方が荷物にならないと思うのだけれど」


「将来の拡張性を踏まえた時に自分で魔法を組んだ方が安上がりだし調整も効くしな、それに私に教えた奴にその方がいいと叩き込まれたんだ」


「それって、レーヴェン・ヴァンシュタインって名前かしら?」


「おぉ! あんたレヴェおじの知り合いか? やっぱり1級って顔広いんだな!」


 驚きの声をあげるライラット。その表情を見てセレスタは絶句したのか口の端を震えさせて何も言わなかった。


 いや彼女だけではない。俺もウルフィンも鈍感なライラットに何の声をかけたらいいのか分からなかった。


「……知り合いも何も、レーヴェンも1級クエスターだから。あいつ私の知らぬ間に弟子を取って魔法を教えていたのね。それで、どうしてあなたはあいつの元から離れてここにいるのかしら。あいつの性格上、完璧に魔法を扱えない限り独り立ちを認めるとは思わないのだけれど」


 そう尋ねられたライラットは気まずい顔になる。


「いやぁな? 私の性格上、机に向かって事を考えるのは向いてなくてな。レヴェおじに独り立ちを認めてくれるように直談判したんだ」


「あいつは認めなかったでしょ」


 ライラットは頷き、不意にトランクバッグを閉じ両手で抱えた。


「そうだ、それで喧嘩になってな。これで殴ってレヴェおじのところから逃げ出したんだ」


 1級に喧嘩別れするという大胆な行動に顔を引き攣る俺たち2人と、笑みを浮かべるセレスタ。


「いいわ、気に入った。ついてきていいわよ……刻術魔法がそれなりの練度で扱える人物がいたら助かるしね。しかしベールさん、あなたは止めないんですか? 刻術魔法はともかく、収納魔法を習得して、尚且つ刻術できる人材なんて今後見つかりませんけど」


 ライラットほどの替えの効かない人材は工場としても手放したくないのではないか、というのは当然の疑問だ。しかし、ベールは特に悩むこともなく応える。


「問題ありません。私たちは収納魔法が刻まれた製品の製造は許可を届けていませんから。そもそも彼女は人に収納魔法なんてものを教えるほど頭が良くないですし、許可が降りて彼女1人でやらせるにしても市場を動かすほど生産できません……工場の備品さえ置いていけば私としては文句はありませんよ」


「そういえば特許取られてたわね、あの魔法」


「言葉が余計なんだよ婆さん。言われなくてもクロンスタット社の銃火器もAMF(アークマキナフレーム)の試作品も置いていくさ。街の中での運用を想定された装備は強力だが資材が限られる旅では整備に難があるからな」


「あなたの分の採寸も行いましょう。……彼女は5級ですが、能力自体は階級以上の者たちと比べて見劣りはしません。1級のあなたの期待にも応えられるでしょう」


「私としてもこれほどの人材を譲っていただけるとは思っていませんでした。まだ若いようですし私の仲間兼弟子として育てます」


 セレスタが言葉と共に金の入った包みを机上に置く、紹介料という奴だろう。中身を見たベールはその額とセレスタの顔を交互に見て応える。


「これは……彼女1人の額ではないですね。あなた昔は帽子を被っていたのが印象的ですが? あれはどうしたんですか?」


「魔人との戦闘で燃えちゃったわ。それなりに気に入っていたんだけれど」


「では近しいものも作りましょう。今のうちに採寸しますので来てもらっていいですか?」


 2人が部屋を後にする。それを見ていたライラットは俺達に小声で尋ねてきた。


「私のこと若いって、あの人と私は見た目変わらないだろ。何歳だよ」


「329」


「まじ? 仙人じゃん」


「まじ……あぁ、揶揄って実年齢以上に接すると分かりやすく機嫌悪くなるから気をつけろよ」


「えぇ、そんなの気にするレベルじゃないだろ」


「お師匠様、僕らが思っている以上に子供っぽいですからね」


 部屋を出るセレスタ本人から視線を感じたが……気のせいだろう。そういうことにしておこう。

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