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編纂者と行くダンジョン巡り  作者: 鳥バード鶏チキン
新しい仲間 その2
21/41

21 依頼完了

「ミラザール・アトリエ。クエスターの衣服を取り扱う同業他社ね」


「なんにせよ、俺たちが引き受けた依頼はこれで終わりだ。それ以上足を踏み入れるべきじゃない。この男の発言の真偽を疑い始めたらキリがないが、話ぶりからして嘘は言っていない様子だったな」


 爪紅を率いている者が、一人一人に異なる依頼主を伝えている可能性もあるがそれはギルドの信頼が落ちるため滅多にやらないだろう。


「それじゃ、お前たちとはこれで別れることになるな」


「テスターさんはまだやることがあるんですか?」


「まぁな、私が指示されていたのは侵入者の排除だ。まだ残党の存在が予想される以上、まだ戻れない」


 それはそうか。依頼主が分かったからと言って現在の問題が解決したわけじゃない。


「これも何かの縁ね。私がやるわ。あなたがしらみ潰しにやるよりも向こうも潔く諦めるでしょう」


「待てよ、あんたにそこまでしてもらう義理はない」


 余計なことはしないでほしいと釘を刺すテスター。セレスタはため息一つついた。


「向こうが諦めるにもそれなりの理由が必要なのよ。それも依頼主に言い訳として十分なものが。そのためにはあなたがやるよりも私がやったほうが早いわ」


 そこまで説明されてテスターも言葉が詰まったようだ。それを了承の印と受け取ったセレスタは2本の杖を携えて宙に浮かぶ。それを俺が呼び止めた。


「おい師匠。よそのクエスターが死ぬのは良しとしないんじゃなかったのか?」


「そうよ。だから私はそれなりに加減して()()するつもりだけど、それで生き残ったらそれでよし。ヘマして死んだら……所詮はその程度の実力でこの地に踏み入れたということでしょう」


 恐ろしいほどの殺気、背筋が凍る思いがした。久しぶりにコイツが1級たるその片鱗を垣間見た気がする。冷徹ではないが……残酷な人間だ。


 地上から50メートルはあるだろうか。セレスタは右手の杖を頭上に掲げて空に向けて巨大な光球を打ち出した。


 光がゆっくりと高く昇り続けるかと思われた時、10数個の小さな光の玉に分離し、それぞれが筋となって散っていく。


 それと同時に左手の杖は足元に向けて、魔法陣が展開したかと思うと光線のような魔法をいくつか打ち出した。最初の光球とは対照的に高速で飛んでいくそれは一直線に向かう。


 そこまでして俺はセレスタのやっていることが分かった。最初の一手目は追尾爆撃で、わざと空高く打ち上げ意識が向かっている間に二手目の速度重視の光線で貫く動きだ。


 陽動に気を取られて光線で急所を撃ち抜かれたら終わり、致命傷を避けたとしても傷ついた体で今度は威力の高い爆撃に対処しなければならない。


 十数秒後、耳をつんざくような爆発音が数回響く。衝撃波が数回感じられた。


「終わりね、帰るわよ」


 その後一帯に人がいないことを確認したセレスタがゆっくりと降りてくる。一級がルナテクスについていることを知った爪紅の構成員は撤退したようだ。





「……ミラザールですか。ありがとうございます」


 黒樹の森の最深部を後にして、工場の方向に歩いていたところテスター長であるベールが現れた。彼女に事の些細を伝える。


「お互い工場長を交えて話し合いをする必要がありそうですね。この度は依頼の解決ありがとうございます。ライラット……ウチの優秀な彼女も無事だったようで何よりです」


 彼女?


 俺とウルフィンは思わずテスターを見る。俺たちがなぜ疑問を抱いているのか分からないテスターは顔を覆っているマスクを取り外した。


「……そういえば言ってなかったな、私はライラット・クラウネス。5級のクエスターだ」


 漆のように黒いボブヘアを後ろでまとめた少女。手合わせした時、スーツに身を包んでいる割には膂力がイマイチだと思っていたが本当に女だったとは思わなかった。


 スーツが体の線を隠すようなものだったし、声も篭っていたため確証は得られなかったし指摘するのも失礼だと思ったため口にはしなかった。


 いや、まぁ負けたんだが。コイツにやられた足がまだ痛む。


「ライラット、1級に助けてもらってどうでしたか?」


「どうもこうも、魔法の種類から魔力の量まで桁が違うな。テスター長が1級を敵として見たらすぐに逃げるか降伏しろと言っていたのがようやく理解できた。……そもそも1級を雇うような余裕がウチにあったんだな」


「成り行きですよ、運が良かっただけです」


「そうですよ。私達も制服を仕立ててもらうために引き受けただけですから」


「それだけで1級の手を借りれたのかよ……下手したらミラザールの依頼請負として敵対していた可能性もあるじゃないか」


「その時はその時です。死なない程度に痛めつけるだけです。武器抜き、スーツだけでもオスカーを下す実力がありそうですし一筋縄ではいかなそうですけれど」


「洒落にならねぇ」


 ライラットがげんなりとした声で呟く。


「立ち話もなんですし、ルナテクス紡績工場まで案内しましょう。あなた方の採寸も行う必要がありますから」


 工場まで見せてくれるらしい。俺たちも信頼されたらしい。



 ルナテクス紡績工場、その一室。俺たちが採寸の準備のための休憩室として案内された部屋は机と椅子のみの簡素な部屋だった。流石に工場の中心まで見せてくれるわけではないようだ。


「しかし、クラウネスですか。どこかで聞いた名ですね」


「この子の実家……もといクラウネス工房はかつては2級以上のクエスターのオーダーメイド装備を手掛けるほどの技量を持っていました。この子はその一人娘です」


 名目上、監視役として付いてきているベールとライラットを含めた5人で机を囲む。


「……あぁ確か昔、友人がクラウネス工房の武器を愛刀として使っていたわね」


「工房といっても、親父は死んでるし技術を継いでいる人間は1人もいないから廃業してる。言っておくが私に親父と同様の装備の製作を期待しても無駄だからな」


「それは残念ですね。腕の立つ職人ならスカウトしようと思っていたんですが……」


「またヘッドハンティングかよ。フリーのクエスターなんてそこら辺にいるだろ」


 似たようなやり取りにデジャヴを感じてつい口が出る。


「バカねぇ。ここ数日、大きな工場や名のあるギルドが潰れた話は聞かないわ。そんな時に溢れている人材に技術なんて期待できない。仮にいたとしても何かしら問題があるから嫌よ」


「探せばいるかもしれないだろ? ……そもそも師匠の名前を出せば実力のある人なんていくらでも集まりそうなんだが」


 この依頼だって、セレスタ1級クエスターの名前に惹かれて依頼されたものだ。1級の看板はとてつもなく大きいことには違いない。


「私達はクエスターだけど、そもそもの目的が未開の地に行くわけだから危険性も高いのよ。規模も小さいし拠点も持ってないから、働く環境としてはクソなのよ。企業や名のあるギルドに身を寄せて安心したい優秀な人からしたら選択肢としては入らないわ」


 代表のお前が言うのか。


「ところで、なんで優秀な職人が欲しいんですか? 僕らはダンジョン探索が主でしょうし、人類の生活圏で活動する工場との関係性は低そうですけど」


 気まずくなったのウルフィンが話題を変えた。


「早い話が、外でも私の道具の調整ができる人材が欲しいのよね。私その手のスキルは全くなくてね。それに昔、外に置いてきた武器の件も任せたいのよ」


 武器、その昔未開の地に遠征に行った時に見つけたもので古代の魔人の遺物だそうだが破損していたそうでその道を知る人物に見て欲しいのだと言う。


 話を聞いたライラットの顔が突然セレスタに向く。


「私は親父と同じ技量はないが、装備の調整はそれなりに得意だぜ? 私を連れて行ってくれよ」


 食い気味に名乗りを上げるライラット。何か彼女をそう駆り立てるのか。


「それにあんたの言ってる外に置いてきた武器って『バロンスナッチャー』だろ?」


「……確かそんな感じの名前だったかしら。あるダンジョン最深部で見つけた遺物よ。見てくれは杖なんだけどどうも勝手がよくなくてね。蓄えられていた魔力量だけは膨大だったから私の領土の防壁のために置いてきたのよ」


 どうもその杖を一目見たいと叫ぶライラット。仲間に入れるように頼み込む彼女を制したのはベールだった。


「ライラット、あなた何を言っているのか分かっているのですか? 5級とは言えど優秀な人材が流出するのは私達としても困るのですが、それにセレスタ1級も困っているでしょう」


「私としては彼女の技量が分かれば十分なのですが」


「だってよ、テスター長。ちょっと私が作ったの取ってくるから!」


 そう言い残すとライラットはその場から走り去ってしまった。あいつはテスターじゃなかったのか?


「ライラットは製品の開発にも携わっているんですか?」


「あの子はここや他の工場から依頼された製品のテストが主な業務です。そのため何かしらを作製する際には関与しません。ただ彼女の趣味として武器に魔法を刻んでいるだけです」


 刻術魔法こくじゅつまほう


 武器や衣類に魔法を刻むことで特定の魔法を素早く放つことを目的とする魔法だ。現在では広く普及している魔法だがルーツはダンジョン内に落ちている魔水晶や、不思議な枝だったか。


 水晶を破壊したり枝を折ることで特定の魔法が発動することから日常的な道具に魔法そのものを付与できるのではないかという考えだ。


 収納腕輪や転移腕輪もただの腕輪に魔法が刻まれているものだ。習得難易度の高い魔法も必要な魔力さえ支払えば扱えるようになる。


 ただ、その消費魔力は刻術魔法による道具と魔水晶などの拾得物における大きな相違点だ。


 刻術魔法は魔力を入力として与えて素早く魔法が出力される仲介をやっているだけだ。強力な攻撃魔法にはそれ相応の魔力が必要だし、絶対量の少ない人が簡単に扱えるものではない。


 一方で魔水晶や不思議な枝はそれそのものに魔力が込められており、効果を発動する際にその魔力が使用され利用者が支払う対価は存在しない。


 早い話が人類は自身の休息で生み出した魔力を外部に蓄える方法を確立していない。それゆえ同じ道具でも得られる恩恵には個人差が大きい。


 数分話していたところ、ライラットがボロボロのトランクバッグを手にして戻ってきた。大きな音を立てて机の上に置き勢いよく広げのだった。


 


 


 


 




 

 







  


 

 

 

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