2 1級の力
村から離れてない広い空き地。15メートルほど距離を開けてセレスタと相対する。
「ルールはなんかあるんですか?」
基本的に1つ上なら相性やコンディション次第、2つ上の等級にはどうあがいても勝てないというのがクエスターの通説だ。5級の俺が1級の相手など天地がひっくり返っても勝てない。
俺が死なないように立ち回るようにしかない。
「私は単純な防御魔法と攻撃魔法は1つしか使わないわ。どちらかが一撃入れたらそれで終わり。どう? 殺す気で来なさい」
これ以上できないほど譲歩されてるな。それでも勝てる気はしないが、俺の実力を見せるべきなのは事実だろう。
「いいですよ」
俺は収納腕輪を手首に嵌めて魔法を使い、普段使用している剣を引っ張り出す。
ストレージリングは本来高級魔法である収納魔法を広く一般的にするために開発されたものだ。傷薬然り、装備が充実することでクエスターの生存率を上昇させている。
「その剣、神代工房の物ね。値は張るけど硬くて軽くて、錆知らず手入れ要らず。こんな片田舎にそんなものがあるなんて、あなた実家が太かったりする?」
一目見て分かるのか。審美眼も持ち合わせているらしい。
「俺は捨て子だと言っているだろ。マスターが言うには俺を拾った時に側に置いてあったんだと。欲しがってもやらねぇぞ」
「いらないわよ。この杖もそれよりいいものだし。前話もこれくらいにして始めましょうか」
魔法使いのローブに、黒いマントを羽織り杖を持つ右手だけを出して挑発するセレスタ。地面から数センチ浮遊し機動性を確保している。
幽霊みたいな風貌だが、まず警戒するべきは隠れている左手か。
身体強化の魔法をかけて、一歩跳躍する。人並外れた脚力で間合いを一気に詰める。
彼女の右から大きく袈裟斬りする。難なく杖で対処されてしまった。
「いい強化ね。独学?」
軽口を叩くセレスタ。彼女の杖が淡い光を放つのが見えた。
「フォトンレーザー」
彼女が呟くと左側面に魔法陣が展開される。俺は足元に防御シールドを出し、それを足場にして跳躍する。直後足元を太い光の柱が横切る。火と陽の合成か。高難度のものを簡単にやるのか。
「部分強化・腕」
全身の強化を解き、直後に腕のみに重点を置いた強化をかけて剣を振り下ろす。
右手の杖で容易く塞がれてしまう。こいつバフの練度も俺の比じゃない。得意な点でも及ばないのはくるものがあるが、想定していた。
「操銀」
刀の形状を草刈り鎌に変化させて力の限り引く。卑怯かと思われても構わない。後頭部から刺し貫こうと画策する。強化魔法に加えて俺の得意魔法だ。
「……ッ!!」
思わず声が漏れる。レンガに引っかかったように俺の腕が止まる。理由は簡単に分かった。集中シールドだ。こいつ後頭部、それもピンポイントで分厚い防御壁を作って刃を止めている。
杖と集中シールドで空中に浮遊している俺の首を左手で掴んだセレスタ。
「5級でも4級に近いわね。次の昇級試験いけるわよ」
直後、フォトンレーザーの詠唱の声と、眼前に広がる魔法陣が俺が見た最後の光景だった。