15 相性
それから縦縞営業所の演習地である広場を借りてウルフィンの力試しが始まった。俺がやったようにセレスタとの模擬戦だ。
どうせセレスタの圧勝だろうと思っていた。事実予想通り、ものの1分程度でセレスタの勝利で終わったのだが少し疑問に思った。
「ウルフィン。お前、攻撃魔法は使わないのか?」
戦闘の間、ウルフィンは防御魔法や強化魔法を使ってはいたが魔力を火や水に変換して攻撃する魔法は使わなかった、豊富な魔力を持ちながら大規模な攻撃を行わないのは宝の持ち腐れと言わざるを得ない。
強化魔法だけで戦うのは、質のいい工房や製作所の武器を持っているからだ。彼が魔法で武器を生み出せるとは言えどもそれらは単純な鉄の塊で質は良いとは言えない。
「そういうのはマスターから教わってないですし、習得するのを禁止されていたんですよ」
「……ハインリヒも臆病になったわね。被害を抑えるには妥当な判断なんでしょうけど」
ウルフィンが暴走した際に攻撃魔法を出さないようにするためらしい。暴走していても魔法の知識や技能はウルフィンのものに依存するため選択肢が少ない方がいいようだ。
「あなたねぇ、それで満足しているの?」
呆れたように呟くセレスタ。みんなを守るためならと答えるウルフィン。
「正直、他の人が自由に扱っているのを見て憧れはありました」
「ならいいわ、興味が湧いたらすぐ動くのが魔法を習得するコツよ。オスカーにも教えなきゃいけないことはあるし1人増える程度、なんてことないわよ」
「しかし、暴走した時はどうするんですか?」
「オスカーと差し違える程度の奴に心配されるつもりはないわ。あなたの魔力を空にする魔法もあるし、気にしなくていいわよ。それにせっかく手にしている魔人の魔力、制御できるように協力するわ」
セレスタの言葉に笑顔を浮かべながら礼を述べるウルフィン。魔力量が多いぶん多様な魔法を扱えるのだろう。俺も置いていかれないように頑張らなければ。
数時間、オスカーの修行が始まった。ウルフィンの適性は水らしい。霧、水、浄化、氷などの物質や概念を司る属性だ。ものの数分で基本的な魔法を習得していた。
「ほらほら、頑張りなさい」
その後合同での修行が始まった。セレスタの作ったロックゴレムを討伐することだ。体高5メートル程度の岩の怪物、その肩に乗ったセレスタが激励の声をかける。
正直それに耳を傾ける余裕はない。ゴーレムの繰り出す巨大な拳を紙一重で躱す。まともに食らったらグチャグチャになるだろう。
基本的に土の魔力の魔物であるこのゴーレムは木の魔力が有力だ。その魔力は回復魔法でも要素として扱うため俺もウルフィンも扱うことが可能だ。
ただ、魔力が扱えるのと魔法が扱えるのは別の話、文字が扱えるだけでは、文章が書けないのと同じような感じだ。
それにこのセレスタカスタムのゴーレム。野生で出会う個体とは異なり、金の魔力も込められている。土に強い木、その木に強い金の魔力を混ぜることで一筋縄ではいかない個体になっている。
「ミスト・ハイド」
ウルフィンが口から多量の霧を吐いて撹乱する。魔力を帯びた霧は単純な目眩しと共に、敵の居場所を感知できる。充分な距離をとって作戦を立てる。
「オスカーさん。木属性の魔法って使えますか?」
「金魔法ほどではないがそれなりに。お前のやりたいことは分かっている。やるだけやってみよう」
相生魔法
複数の魔法の重ね合わせてより強力な魔法にすることだ。木が水を吸って成長するように、それぞれの属性には助け合う関係性となる属性が存在する。
1人でもできるらしいが、高い技量を要求される。複数人であれば魔力量を合わせなければならないが別々の魔法を1人で扱うよりはハードルが下がる。
「魔力の多い僕がオスカーさんに合わせます」
「分かった。しっかりと着いてこいよ」
俺は刀を鉄の杖に変化させて構える。
「この剣の材料であるアルケミウム、錬金術師の鉱石と呼ばれるこれは魔力伝達が優れている素材だ。相生魔法の媒体にする」
「分かりました。ロックゴレムの居場所は2時の方向、30メートル先です」
俺達は標的の方角へ走り始めた。
足音が立たないように走る俺達、深い霧の中で巨大な影が見えた辺りで、カバンから取り出した石を数個投げる。
ロックゴレムは頭上を通り過ぎて落ちた石を俺たちの足音だと誤認し、巨大な背中が露になる。直後、セレスタと目が合った。
ーーバレてたか! 今更止まれない!
壁のような体に杖を突き立てて、俺は叫ぶ。
「ーーエルムクラッシュ!」
「ーー天涙!」
背後でウルフィンが魔法を発動したのが聞こえた。直後巨大な木の手が杖の先から伸びて、頑強なゴーレムを握り潰す。
1人では出せないサイズの巨木だ。ゴーレムはなす術なくバラバラに破壊された。相生魔法は久しぶりにやったがぶっつけ本番でここまでできるとは。
「……へぇ、意外と相性いいのねあなた達。2人とも腕はいいと見込んでいたけれどこれならすぐに4級の試験に送り込んでもいいのかもしれないわね」
濃霧が晴れてセレスタが姿を現す。攻撃に巻き込まれたかと危惧したが杞憂だったか。
「気持ち悪い言い方しやがって、これで今日の修行は終わりだろ? ルブライトでやることはあるのか?」
「キャラバン設立に伴って倉庫と銀行のアカウントを作ったのよ。今回作ったものにはダンジョンで入手したものや依頼で受け取ったものを入れていくことになるわ、容量の大きい倉庫を契約したから共有倉庫としても解放しておくわね。これから数日間滞在してそこらへんの整理をしていくわ」




