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編纂者と行くダンジョン巡り  作者: 鳥バード鶏チキン
新しい仲間 その1
12/42

12 ウルフィン

 縦縞営業所の地下。元々監禁、拷問を行うための部屋らしく薄暗くジメジメとした雰囲気がなんとも居心地悪い。


 ギルドメンバーに連れられた独房には一人の青年が座っていた。黒髪に青いメッシュが入っているのが印象的な人物だ。座っていて分かりづらいが身長は170くらいか。肩を落としているためどこか気弱な印象を受ける。


「今日客人が来るとは聞いていましたがあなた方ですか。僕に何のようですか?」


 ウルフィンは沈んだ目でこちらを見据えている。


「……あなたを引き取りに来たのよ」


「同行させるのか?」


 思わず口を挟む。顔と様子を見るだけだったはずだ。話が飛躍し過ぎているのではないか?


「そうよ。この子から感じる魔力は魔人のそれに近いわね。だいたい7割かしら。魔力の絶対量も一般人のそれを軽く凌駕しているわね」


 人間の魔力の他に外付けの魔人の魔力があるということか。


「それじゃその魔人の魔力をゼロにしたらすべて解決なのか?」


「難しいわね。魔人の魔力が定着している、実験の成功例というのはそういうことでしょうね。魔力をゼロにしても魔人の魔力も回復するわ。こんな街中で暴走したら危険だしハインリヒの腕を斬り飛ばすほどの腕を持つのであれば、私の手の届く範囲で管理するべきでしょうね」


 理屈は納得できる。セレスタはウルフィンに牢の外に出るように促すが彼は素直に首を縦には振らなかった。


「あなた方は暴走する僕に対処できるんですか?」


「私は1級よ。そんじょそこらの奴とは格が違うわ。ハインリヒを殺せすらできないやつにやられるほどの腕ではないわよ」


 鼻で笑うセレスタ。階級を切り出されてもウルフィンは納得できていないようで、条件を切り出した。


「あなたが強いのは分かりました。それでは暴走した僕をそこの人が止められたらついていきます」


 そう言ってウルフィンが指さしたのは俺だった。


「僕はもう誰も傷つけたくないので、それだけの力を見せてください」


「いいわ、オスカーは5級だけど腕がいいのは私が保証する」


 どうもやるしかないようだ。


 ウルフィンが牢を出ただけでギルドは軽い騒ぎになったのだが、俺たちは気にすることなく外に向かう。街中で暴れるわけにも行かず、適した場所を考えたとき第一に出たのがダンジョンだった。


「少し離れた山にダンジョン『湿った横穴』があります。小さなダンジョンですが僕らが普段手合せで使っている場所です」


 ダンジョンの名前を聞いてセレスタの目の色が変わったのが分かる。が、今回の目的は探索ではないので頬を叩いて我に返っていた。それを見たウルフィンが目を丸くする。


 そんな彼に俺は疑問をぶつけた。


「……しかし、自分の意志で暴走できるものなのか?」


「はい、マスターと力を制御できるように段階的に実験していました。完璧にできていないですけど、ある程度理解はできています」


「どんな状況で暴走するんだ、明確な条件はあるのか?」


「僕は魔法を扱う際には人と魔人の両方の魔力を消費しているのですが、回復魔法を扱う時は人の魔力だけを消費するようで、それを繰り返すことで魔人の魔力の比率が偏りすぎると我を忘れてしまいます。魔力のうち9割が魔人のものになると耐えられないですね」


「回復魔法が人間の魔力しか使わない?」


「そうよ、魔人は回復魔法を使わない、連中が使うのは再生。生物としての再生速度が異常だから回復なんて概念がないのよ。それでも個体によって差はあるし、致命傷は治しきれないようだけど、そういう時は回復魔法も使うんじゃない?」


「ウルフィンはポーションは使わないのか?」


「魔人の血が流れているのか体質的にどうも合わなくて。暴走したときには傷は勝手に治っているらしいですけど」


 暴走から元に戻すには魔人の魔力だけを消費させてバランスを元に戻せばいいらしい。しかし再生は魔法ではないため、いくらダメージを与えたところで関係ないようだ。


「それじゃ、これまでの暴走はどうやって治したんだ?」


「魔人の魔力だけを使う魔法はあります。僕が使えるのはこれですね」


 ウルフィンが両手を叩いて、しばらく合わせたあとゆっくりと離す。先程まで何もなかった彼の掌に突然透明な空き瓶が現れた。


「創造魔法、と呼んでいます。組成が単純なものであれば魔人の魔力だけを消費して生み出す事ができます。火薬やポーションのような複雑なものや、銃器のような複数のパーツからなる構造をしているものは作れません」


 俺とセレスタは目を丸くして目の前の事態を受け入れていた。何もない所から魔力の消費だけで物を生み出した。俺たちがダンジョン内で遭遇しているあの現象と全く同じだったのだ。


「師匠、ダンジョンっていうのは全てが魔人の作ったものなのか?」


「ある地域や建物がダンジョンとなるのは自然に魔力が集まってできるもので、カルスト平原やヴァルク遺跡は魔人がその理屈を理解して生み出しているわ。あなた、その魔法の原理は理解できてる?」


「いえ、イメージしたら出来ました。詳細は理解せずになんとなくで使っています。すみません」


 魔人の魔力だけを使っているため感覚でしかこの魔法を扱えないらしい。魔力から有形のものを作り出す魔法。体系化、一般化できたら人類の文化は数段進歩するといってもいいだろう。


「話の通りだと金や銀を作り出すことができるそうなんだけど?」


「師匠、何考えてるんだ?」


「いやぁね、錬金術をする時に貴重な素材の入手が楽になるなら……ね?」


「あぁ、そういうのを作るのはクエスター協会や商会に禁止されているんですよ。貴重な金属の価値を下げることになりますから。紙幣や硬貨を作ることもです、そもそも模様まで再現できませんけど」


 ハハハと笑いながら弁明するウルフィン。彼らなりに魔人の魔力とは向き合っていたらしい。それから数時間歩き、目的地である湿った横穴の入口にたどり着いた。


 

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