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編纂者と行くダンジョン巡り  作者: 鳥バード鶏チキン
魔人
10/41

10 遺跡最深部


 探索を続けたところ一回り大きな扉が見えた。あそこがこの遺跡の最深部だろう、俺とセレスタの年齢は10歳頃だろうか。レベル1ダンジョンとしては規模が小さかったようだ。


 部屋に入ったところで俺たちの身体が元に戻る。踏破した証明だ。祭壇があるものの奥の壁が崩されており、まだ下層につながる階段がある。付近に人影はない、クエスターを殺した奴は先に進んだのか、剣を持ち替えて先に進む。


 セレスタは付近を見回して目を細めた。


「この魔力の感じからして弱い個体だけど、この先に魔人がいるわね」


 感知魔法が苦手な俺もこの先に誰かがいるのは分かるが、個人の特定は難しい。魔人だと分かったのならば話は早い。


 階段を下ったところ再び祭壇のようなものがある場所にでた。ここだけは掘りぬいて作られているのかぼんやりと明るい。石造りの棺があり、その奥の壁には魔法の術式が刻まれた壁画が描かれている。文字が光る壁画の前で、それを注視し時折ゴソゴソと動く人物がいた。陰からその様子を見ていたが、ストレスが溜まっているのか柱や棺を殴りつけていた。


 その姿は獰猛な犬を直立二足歩行させたような姿で身長は俺よりも頭の一つ小さい、魔人だ。深い体毛に覆われた身体をしており、衣服は身に着けていない。貴族と呼ばれる魔人は高い知性を持っており魔道具を兼ねた衣服を身につけている。目の前の魔人はこちらで様子を伺っていた俺たちに気が付いたのか、振り返り遠吠えのような声をあげた。


「鼻がいいみたいね。素直に行きましょうか」


 セレスタに促されるままに姿を現す。魔人こちらを見据えて唸り声をあげた後、その鋭い爪をむき出しにして襲い掛かってきた。俺は身体強化の魔法をかけて向かい撃つ。


 腕の爪を搔い潜り、胴体を横一線に振り払う。数メートル先に飛ばされた魔人だが難なく立ち上がる。体毛と強靭な皮膚に阻まれて有効打になっていないらしい。薄気味悪い顔でこちらを見てくる。


 飽きもせず攻撃を仕掛けてくる魔人、同様に剣を振ったところ。両腕で刃を掴まれてしまった。このまま腕を切り落としてしまおうと力を入れようとしたところ足元の陰に魔力が集まっているのに気が付いた。


 手を剣から離して後ろに飛び退く。直後魔人の影が針のように突き上げて来るのが見えた。これがこいつの魔法か、判断が遅れていたら串刺しになっていただろう。


 俺から取った剣を両手で構えて歩み寄ってくる魔人。俺はその剣に掌を向けて魔法を発動する。


「操銀」


 俺は魔人の手にしていた剣を変形させて手錠にし、魔人の両腕の自由を封じる。突然の事態にうろたえる魔人に俺は近づき、ダンジョン内部で拾った鉄のトゲを胸に突き刺した。


 斬撃の効果は薄くとも刺突にはそうでもないらしく、深々と突き刺さり咆哮のような声を上げる魔人。


「操銀、荊棘(けいきょく)


 俺は鉄のトゲを細かく枝分かれするように伸ばして魔人の身体を内側からボロボロにする。短い悲鳴を残して魔人はその場に倒れ付した。手錠にしていた剣を手元に戻してセレスタに討伐の報告をしようとしたところ背後から声が聞こえる。


「……ッ!」


 不意打ちで拳を突き出す魔人、特に力は残っていなかったものの突然の出来事に対応できず距離を開けさせられた。


「クソッ! あれで殺せてないのか!」


 ふらつく視界に耐えて立上り悪態をつく、それを見て笑みを浮かべた魔人はストレージ魔法を使用して瓶を数本取り出した。使用頻度の高いアイテム、ポーションだ。身体に残る鉄の枝を力任せに引きずり出した魔人はその傷を無理やり癒すためにポーションを口に注ぎ込む。


 こいつ、多くのクエスターを襲撃してそのアイテムを奪っていたのか。それだけではなくその使い方も見て学んでいたらしい。


 ポーションの効果は凄まじく俺が与えた致命傷も数秒でふさがってしまった。第二ラウンドだと言わんばかりに雄叫びを上げる魔人だが様子がおかしい。頭を抱えて悶え始めたかと思うと、突進し、石の壁に頭を強打した。


 吐血し、筋肉や骨が膨張して皮を突き破る、それをポーションの異常な再生速度で皮が再生して無理やり治し、もはや原型がなくなってしまった。


「使い方は分かっても、使いすぎがよくないのは知らなかったようね」


 俺の隣を通り過ぎて暴れる魔人の前に立つセレスタ。思わず静止を呼びかけようとしたが喉元で止まる。襲い掛かろうと歪な形に変形した腕を振りかざす魔人に杖の先を向けたセレスタは短く魔法を唱える。


「アグニフレア」


 突如、身体が火に包まれて呻き声を上げる魔人。ポーションの効果で焼けた皮膚が次々と再生するもそれは燃え盛る火の新たな燃料となるのと同義であり、ポーションの効果が消えるまでの数分間獣の絶叫が鳴りやむことはなかった。


「ポーションを使いすぎるなとは言っていたが、こうなるのか? 趣味が悪いな」


 魔人の燃えた跡が黒く残る石床を眺めてセレスタに問いかける。彼女はそんなことには興味がないと言わんばかりに術式の書かれた石碑を見ていた。


「魔人が使っていたのは市販品よりも強力なものね、個人の錬成で作られたものでしょう。ポーションなんて人用に作られたものだから、身体の構造が違う魔人が使ったら何が起こるか分からないわ。人もポーションを使いすぎたらあそこまではならないけれど、普通には戻れなくなるわよ」


「未開の地でも禁止するのか?」


「いいえ、今は使用を禁止しているけれどあなたに実力が備わってきたら……そうね、3級になれたら解禁するわよ? 便利なものには違いないし」


 ある程度、壁画の理解が進んだのか手をかざすセレスタ。そして魔力を込めると光っていた魔法の術式が消えて、ただの石の壁に戻ったのだった。


「分かったのか?」


「大体はね。ある程度予測はしていたけど、これは大昔に作られた結界の術式ね、弄ろうとした時にここら一帯がダンジョンになるように細工して、起動させた人をカルスト平原にワープさせるトラップよ。結界の魔力はダンジョンを維持するために使われていて、カルスト平原とヴァルク遺跡の二つのダンジョンは結界の改ざんを防ぐための障壁ってわけ」


「お前は触っても大丈夫なのか?」


「結界を改ざんしようとした時に作動するわけだから。この細工をオフにしたらダンジョンは消えて結界は元に戻るわ。さっきの魔人は縄張りを持たない個体で、ここら一帯を縄張りにしようとしたんでしょうね」


「その術式って昔の魔人が作ったものなのか?」


「ダンジョンを生成する魔法なんて魔人のーーそれも高貴な個体にしか無理ね。既に死亡して残された結界を人類が使っているってところかしら」


「魔人が作った結界なのだから、同じ魔人を受け入れるのはなんとなく分かったが、それならばなぜ人間は弾かれない」


「それは……多分魔人の歴史と文化の話になるのだけど。生憎その分野は畑違いなのよね、貴族の中には知っている個体もいるから旅を続ければそのあたりも分かるんじゃない?」


 知らないことは知らないと答える性分のようで白旗を簡単に上げるセレスタ。既にやることは終わったのか背伸びをしてリラックスして「帰るわよ」と遺跡出口に向かって歩を進める。遺跡もカルスト平原もダンジョンではなくなっており、俺たちは4時間かけてきた道を30分でオグリファンドの街に帰還したのだった。











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