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第4話 エンチャントアビリティ

 ギフト、神の祝福、聖なる力――。


 地域によって呼ばれ方はちがうが、聖なる祈りによって付与される特殊能力をエンチャントアビリティという。人間がエンチャントアビリティを得るには、願う強さで内容と質が変わるのが特徴だ。


 よくある例として、旅立つ前に冒険者達が旅の無事を祈る為、神に祈りを捧げにやってくる事が多いのだが、冒険者達が授かるエンチャントアビリティは【幸運】や【体力増強】くらいしか見た事がなかった。


 だからこそ自身に付与された【因果応報】と【不死身】は、見た事がないエンチャントアビリティだった為、ギルバートは驚きを隠せなかったのだ。


「大司教・アルバートからギルバート・ヴァニタスへ【不死身】を与えます……だと!? どういう事だ、早く説明しろ!!」


 混乱したギルバートが怒鳴りつけると、魔導書のページが勝手に捲れていった。魔導書が自分の問いかけに反応した事も驚いたが、開かれたページに載っていた文字を見て、ギルバートは更に驚く事となる。


『大司教・アルバートの後継として、真っ先に候補に上がっていたのがギルバート・ヴァニタスだったからです』と書かれていたのだ。


「大司教・アルバートの後継? 確かにそんな話があがっていたのは知っていたが、それがどうして【不死身】のエンチャントアビリティを付与される事に繋がる?」


 急かすギルバートの問いに応えるように、次の行に文字が浮き上がる。


『大司教・アルバートが後に起こる派閥争いを憂い、ギルバートが殺されそうになっても死ないようにと強く願ったようです』


 ギルバートは「あぁ、そういう事か……」と肩を落とし、小さく溜息を吐いた。


 大司教・アルバートはギルバートよりも遥かに多くの魔力量を有していた。恐らく、ギルバートに【不死身】を授ける為、神に自身の膨大な魔力を捧げたのだろう。もしかしたら、大司教が急死した事も何か関係があるのかもしれない。


 ギルバートは自分の頭を掻きながら、小さく溜息を吐いた。


「今、大司教様の死を考えても仕方ないか。じゃあ、月の女神・セレーネからの贈られた【因果応報】っていうのは?」

『ベラ・ハーキマーが月の女神・セレーネに祈った事により、付与されたエンチャントアビリティです』

「ベラが? それにしては禍々しいような気がするが……」


 あの優しくて真面目なベラにそんな一面があるとは思えなかった。すると、魔導書はギルバートの疑問に応えるように文字を浮き上がらせていく。


『彼女は貴方の無事を毎日祈っていたようです。その度にウィリアム・ブラックに邪魔をされていたようで、純粋な祈りに雑念が混じってしまったと思われます』

「ウィリアムがベラの邪魔を? どうして?」


 ギルバートが聞くと魔導書は応えるのを渋ったのか、『ウィリアムはベラの事が好きだったようです』と少し時間をおいてから文字が浮き上がった。


「ウィリアムがベラを……」


 ギルバートは少しだけ胸がチクンと痛むのを感じた。

邪魔者が消えたウィリアムはベラに近付くチャンスが増える。しかもタイミングが悪い事にギルバートはベラの記憶を消してしまった。もしかしたら、二人が結婚してしまう未来もあり得るのかもしれない。


「本当に……浅はかだな、私は……」


 ギルバートの心の内では嫉妬の炎が燃え始めてた。彼女の事を思って自身に関する記憶を消したが、こうして後から後悔するんだったら、彼女の言った通りに教会から連れ出すべきだったのかもしれない。


「……いや、違うな。今の私は人間の姿じゃないんだ。私の判断は間違ってない。彼女の幸せを願うなら、これが最善だ」


 ギルバートは両手で自身の頬を思いっ切り叩く。過去には戻れない。死ねない身体だと判明した今、この暗黒雲が広がるこの世界でしか生きる道は残されていないのだ。


「それにしても、私はどこに飛ばされたんだ? 周りには森が広がっているだけのようだが……」


 蜘蛛の死骸を踏み付けながら辺りを見渡す。今いる場所は小高い丘になっているようで、辺りを見渡しやすかった。


 足元には大量の蜘蛛の死骸と銀色の芝生が覆い茂る丘。この丘を降りれば、黒い葉が生えた木々が広がっており、少し遠くで獣の鳴き声が聞こえてくる。その奥の方には火柱が上がり、ドラゴンと思しき生き物が激しい空中戦を繰り広げていた。


「…………ドラゴン、だと?」


 ギルバートの手に付いている肉球から、ブワッと汗が噴き出してきた。


 黒紫色の暗黒雲に黒い葉が生えた木。ドラゴンが住み着いて縄張り争いをしているエリアはギルバートの思い付く限り、たった一つしかなかったからだ。


「……魔導書よ。つかぬ事を聞くが、ここは〝ファントムメア〟と呼ばれる魔王領の一つではないか?」


 ギルバートの問いに魔導書はページがパラパラと捲れる。開かれたページには地図が書かれており、余白の部分に〝魔王領〟という文字が浮かび上がった。


『はい、そうです。ここは魔王領が一つ、〝ファントムメア〟になります』


 魔導書に〝魔王領〟という文字が見えた瞬間、ギルバートは理性を忘れて天に向かって叫んでいた。


「ぬあぁぁぁぁっ、神よっ!! どうして貴方は私にばかり苦難をお与えになるのですか!?」

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