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第16話 怯えるシンシャ

 〝ファントムメア〟では、いつも魔物が縄張り争いを繰り広げている。先日、ガガノアというドワーフ族と奇妙な出会いを果たし、彼が住んでいた比較的安全な洞窟で新生活を始める事となった。


 ギルバートは襲ってくる魔物を退治し、生きる為に魔物の肉を食らい、順番に見張りを立てて眠るというサイクルを繰り返し、日々を過ごしていた――。


「フッフッフッ、大量に仕留めたわ! さぁ、ご覧なさい! 今日も私が一番魔物を倒してるわ!」


 ドヤ顔をしたシンシャの背後には黒焦げになった鳥系の魔物達の死体が山積みになっていた。その光景に自称龍騎士であるガガノアが拍手をしながら感嘆の溜息を漏らす。


「ほう、我よりも魔物を倒すとは。なかなかやるではないか」

「当然よ! シンシャちゃんはやればできる子なの! それにしても、今日の髪型は特にイケてるわね! まるで作曲家のバッハみたいだわ!」


 シンシャがウィンクしながら褒めると、ガガノアは機嫌良く笑い始めた。


「そうだろう、そうだろう! バッハというのが何なのか我には分からんが、ようやく我のセンスに気付く者が現れるとはな! よし、特別に我が作ったこの(かつら)をプレゼントして――」

「要らない。蒸れて汗臭いだろうし、私はまだガガノアとは違って自分の髪があるから」

 

 シンシャが速攻で断りを入れると、ガガノアは落ち込んだように膝を抱えて小さくなっていた。


 側にいたワームテールは慰めるようにガガノアに寄り添っている。今ではこの光景が当たり前の日常になっていた。


(やれやれ。一時はどうなる事かと思ったが、酸の雨を凌げる洞窟内で暮らせるようになったのは大きいぞ。シンシャとガガノアが和解(?)してくれて本当に良かった)


 ギルバートはガガノアが作ってくれた牛刀を手に、魔物の肉を手際良く捌いていく。元々、血を見るのは苦手ではあったが、全ての生き物に感謝をして命を頂く重さを実感できる良い経験となっていた。


「ふぅ……ようやく切り分けたぞ。おーい、二人共。洞窟へ戻るぞ。運ぶの手伝ってくれー」


 ギルバートが二人に声をかけると、シンシャが「キャーー、先生!!」と悲鳴に似た声をあげながら走ってきた。


「また出たわ!」

「何が出たんだ?」

「森の奥で黒い塊が動いてる生き物よ! 目がやけに赤くて不気味だったし! まるで、もののけ姫に出てくる祟り神みたいだったわーー!」


 聞き慣れない言葉にギルバートは怪訝な表情になった。シンシャは本当に見たんだ! と騒ぎ続けている。


「例えるなら、全身を黒いワームテールで覆われたような見た目の生き物よ! でも、中身は生き物じゃなくて、もう死んでるんだけどね! とにかく、すっごく気持ち悪い見た目なの!」


 シンシャの必死の訴えを聞いたギルバートは森の奥を見つめるが、何も気配を感じなかった。側にいたガガノアにも目配せをして確認してもらうが、ガガノア自身も何も同様に首を左右に振る。


「シンシャよ、我々には見えていないようだぞ? もしかしたら、無闇に魔物を殺し続けてるから、お前にしか見えない怨霊として現れ続けてるんじゃないか?」

「えっ!? そんなこと言わないでよ! 怖くて一人でトイレに行けなくなっちゃうじゃない!」


 シンシャは青褪めた顔で訴え続けているが、ギルバートはなんとなくそんな気がしてならなかった。


 ギルバートは教会で僧侶として長年活躍してきた。

教会では呪具の解除や怨念を祓う事を主に担当してきたが、シンシャの場合、無差別に魔物を狩ってしまった結果、今回のような事態になってしまっているような気がしてならなかったのだ。


(魔物とはいえど生き物だ。少し凶暴な巨大な家畜と説明すれば、シンシャも命を大切に扱ってくれるようになるだろうか?)


 何年もシンシャと暮らしてきて感じていた事だが、彼女は魔物退治を楽しんでいるような様子が伺えた。


 しかし、この〝ファントムメア〟で生きていく為には魔物を倒すばかりでなく、程よい距離感で自分達が生きていけるだけの命を頂戴できたら良いのではないかとギルバートは考えていた。


「ハァァ……誰か魔物を手懐けてくれる者がいればなぁ……」

『それでは、新たに異世界から召喚する事をオススメします』


 ギルバートの独り言に反応したのは魔導書だった。パラパラとページが捲れ、シンシャを召喚した時とは違う魔法陣が描かれていたのだった。

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