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闇に惑う  作者: 湯川翔子
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第8話 恐ろしい提案

 


 「リュシエンヌ、どうした」

 かけられた声にはっとなり、リュシエンヌは目の前のリュファスを見た。

 どうやら、リュファスとアベルのやり取りを見ながらぼーっとしてしまったらしい。

 リュシエンヌは慌てて首を振る。

 「いえ、何でも」

 「そうか」


 あ、戻っちゃった。


 リュファスの表情はアベルと話す時の柔らかい表情ではなく、いつものようむっつりとした表情に戻ってしまっていた。

 リュシエンヌはそれがひどく残念に思った。


 あれ?何で残念だって思ったんだろ。


 自分の思考にうーむと首を傾げる。そんなリュシエンヌにリュファスは奇異なものを見るかのような眼差しを向ける。

 「本当にどうした」

 くねくねと首を左右に捻っていたリュシエンヌは、その声に反応しリュファスを見上げる。

 リュシエンヌのまっすぐな視線にたじろいだリュファスだったが、ふっと眼を細める。そして、紺色の髪に優しい動作で触れる。

 リュシエンヌはじっとリュファスを見つめる。一見すると無表情に見えなくないリュシエンヌだが、心の方は荒れ狂っていた。


 手手手!何やっちゃってるんですか?!しかも、動作が自然すぎるぞぉ!!ブランヴィル様!


 しかし、心の中では好きなことを言えても実際は口には出来ず、リュシエンヌはリュファスの好きにさせていた。

 傍から見ると二人の世界を作っているようにも見える。例え本人たちがそうでなかろうと。

 

 突如咳ばらいの音が響いた。二人の意識はそちらに向く。

 見るとわざとらしく口に手を当てているアベルがいた。リュシエンヌは完全に忘れていたがアベルもそこにいたのだ。

 「どうした」

 リュファスが尋ねる。

 「どうしたって…ねぇ」

 引きつった顔をしながらアベルは二人を見つめる。


 「疎外感を覚えるんだよ」

 訳が分からないという風な顔をした二人にアベルはやってられないな、と言いため息を吐き、そして、呆れ笑った。

 


 しばらく面白そうな視線をリュシエンヌとリュファスに向けていたアベルは何かを思いついたように手をたたき、そして二人に意味深な顔を向ける。

 「いいこと思いついた。ふたり、今日は出かけてきたらどうだい?」

 唐突なアベルの提案に二人は、訳も分からず目の前の男を見つめる。

 「どういうことだ」

 「リュシエンヌちゃんはさ、城に来てから一回も外出していないだろうし、たまには外出したいだろう。リュファス、お前はいつも仕事しかしてないんだから息抜きは必要だと思うよ」

 アベルは言葉を続ける。

 「それに二人とも、一度はしっかり会話した方がいいと思うよ。リュシエンヌちゃんも安定してきたことだし」

 アベルの言葉の意味を分からず、リュシエンヌはえ、と声を出す。リュファスはアベルを睨み付ける。

 「アベル」

 「悪い」

 明らかに上辺だけの謝罪にリュファスは今日何度目かのため息をついた。


 「でも、本当に息抜きは必要なんだよ。お前も…リュシエンヌちゃんも。少ししか時間はないけれど、その時間は必要だと思う」

 アベルのその言葉に短く唸ったリュファスが納得しかけているのを横にいるリュシエンヌは気づいた。

 「だが、俺がいなければ」

 リュファスが眉を寄せて言おうとした言葉をアベルは遮る。

 「少しくらい大丈夫だろう。あいつらは緊急の事態に対応できないほど柔じゃないし、それに何のために俺がいるのさ、ね?」

 「……………そうか」

 たっぷりと時間をおいた後リュファスは短く返事をした。

 戸惑いながらも納得したようにリュファスが返事をしたとき、アベルが口の端を上げたのをリュシエンヌは見てしまった。 

 リュファスも納得し、決まってしまいそうな雰囲気にリュシエンヌは慌てて口を挟む。

 「すみません、私も仕事はあるんですけど」

 アベルは何てこともないような顔をして言う。

 「アレクシア様には俺から言っておくよ」


 ちょっとー!アベル様、何血迷ったことを言っちゃってるんですか!


 リュシエンヌの心の悲痛な叫び声はアベルに聞こえはしない。

 「だが、お前何を考えている」

 リュファスが鋭い眼差しをアベルに向けた。それを平然と受け止めアベルは笑みを浮かべる。

 「お前の幸せについてだよ。リュファス」

 尚も不審げな顔をするリュファスに爽やかな笑みを返した。それを見てリュファスはため息をついた。

 「違うだろう、アベル。お前はそういうことを思いはしない」

 リュファスが言い返すとアベルは一瞬驚いた顔をし、次にやれやれといった風に肩をすくめた。そして、薄笑いを浮かべる。

リュシエンヌには得体の知れないその表情がとても不気味に思えた。と同時にアベルに対して一抹の不安を覚えた。

 アベルは二人に背を向けた。ひらひらと手を振りながら小さな声で言った。



 「俺は常に国のことを考えて行動している」



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