第7話 副団長現る
「私と、ブランヴィル様は知り合いだったのですか」
リュシエンヌは表情を驚愕に染めアレクシアに問うた。アレクシアは答えずにっこりと笑って紅茶をすする。
「それは、リュファス団長本人に聞いた方がいいのじゃなくて?」
リュシエンヌは眉を寄せ考え込む。
あの人と私が?どこに接点があるんだろう?
そんなリュシエンヌをアレクシアは楽しそうに見つめる。そんなアレクシアをベレニスは不安そうに見つめた。
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「何故ここにいる?」
「私のことはお気になさらず」
リュシエンヌが首を横に振りながら言う。そんなリュシエンヌをリュファスは微妙な顔をして見た。
今リュシエンヌがいるのは騎士たちの訓練場で、周りにはリュファスの部下が大勢いる。むさ苦しい男たちの中でただ一人女性であるリュシエンヌが混じっているのは傍から見ればとても奇異な光景に映るだろう。
現に周りの多くの騎士たちは稽古よりもリュシエンヌを見る方に集中している。
リュシエンヌはアレクシアが言っていたことが気になりここに来た。
アレクシアの話しぶりをみるとリュファスはリュシエンヌについて何かを知っている。とても重要なことを。そして、何故かアレクシアも知っている。しかし、アレクシアは絶対にリュシエンヌに話はしないだろう。きっと聞いたとして笑顔ではぐらかすのだろう。
だから、リュファスに聞くことにしたのだ。
リュファスに近づくと頭痛が起こる隔間が途端に短くなる。これは記憶を思い出そうとしているせいなのだろうか。
現に今も前頭部がうずくリュシエンヌであるが、そこは気力である。
記憶を取り戻したい。彼と親しくなれば記憶の手がかりになるかもしれない。
そしてリュシエンヌは、リュファスが苦手という気持ちも克服したいと思ったのだ。
必死な表情で見つめてくるリュシエンヌにリュファスはため息をつく。
「とりあえず、来い。ここは目立つ」
引っ張ってこられた先は訓練場から少し離れた部屋の片隅である。
「…どうした。また頭痛か?」
「いいえ、ブランヴィル様。今日はブランヴィル様の観察です」
言わないつもりだったがリュシエンヌの口は馬鹿正直に目的を話してしまった。少し焦りながらリュファスを見ると、彼は目を見開いてリュシエンヌを見つめていた。
「それは何故」
「いえ、ブランヴィル様と私って知り合いだったのかなと思って。よければお聞かせ願いたいなぁ、あはははは…」
変に誤魔化してもリュファスは騙されないだろうと思いリュシエンヌは本当のことを話した。そして理由を聞けばリュファスも協力してくれるかもしれないと期待したからだ。
しかし、リュファスは複雑そうな顔をしてリュシエンヌを見るだけである。気まずい沈黙が流れる。
リュファスが沈黙を破り口を開こうとしたとき、爽やかな声が二人の間に割り込んできた。
「あれ?君は…」
リュシエンヌが声のした方を見ると見るからに人の良さそうな好青年がいた。リュシエンヌにはその青年に見覚えがあった。
「あなたは…」
青年はリュシエンヌの方を見てにっこりと笑った。むさ苦しい訓練場に似合わない爽やかな青年である。
その青年にリュファスは無愛想に問いかける。
「どうしてお前がここに来るんだ。あいつらの指導をしていたんじゃないのか?」
「いやね、君がいたいけな少女を部屋に連れ込んだって聞いたから驚いてね……まさか彼女だったとは、想像もつかなかった」
わざとらしく言う青年にリュファスは眉間にしわを寄せる。
リュシエンヌにはその青年に見覚えがあった。
うっすらと笑みを浮かべ、底の知れない空気を発しているその青年は身よりのないリュシエンヌをこの城に連れてきた副団長その人だった。
「こんにちは、リュシエンヌちゃん」
「リュシエンヌ…ちゃん」
「あの時はちゃんと挨拶できなかったからね」
青年はリュシエンヌの方を向き恭しく礼をした。
「私は王宮騎士団副隊長を務めるアベル・シンクレアと申します。改めてよろしくお願いします」
「シンクレア…様」
「そんなに畏まらなくていいよ。アベルと呼んで」
アベルの砕けた言い方にリュシエンヌはなんとなく調子が狂う。
「あっ…はい、アベル様」
その言葉にリュファスがピクリと反応したのをリュシエンヌは気が付かなかった。しかし、それに気付いたアベルは楽しそうに笑う。
「どうしたんですか?」
その様子を見てリュシエンヌが不思議そうに首を傾げる。
「何でもないよ。ね、リュファス」
リュファスはアベルの言葉に答えずため息をついた。
「いやぁ、お堅い団長様に女の子が訪ねて来たって、皆浮足立っちゃって訓練にならないから解散させちゃったよ」
リュファスは深くため息をつく。
「アベル…お前は勝手に」
リュファスの様子を気にせずアベルは笑う。
「まあ、いいじゃないか。いつも誰かさんに拷問のような訓練を受けているんだから、たまには早く帰らせてあげても、ね?」
「まったく」
あっけらかんと言うアベルにリュファスは怒る気配もなく、仕方なさそうに苦笑する。
あっ笑った。
苦笑とは言えど初めて見るリュファスの笑みにリュシエンヌはくぎ付けになった。出会って少しの時間しかたっていないが、リュシエンヌはリュファスが眉間にしわを寄せ、ため息をついている姿しか見たことがなかったからだ。
ところが、今見ているリュファスの笑みはとても温かかった。人を許し、包み込むような優しい表情。
リュシエンヌはアベルと親しそうに話すその姿に寂しさを覚え、同時に懐かしい気持ちにもなった。
もう全然進まないし、リュファスも何を考えているやら…
この話の進まなさにいらいらしますね。
というかちゃんと書け私。