第6話 かしましい
リュシエンヌが先ほどのことを話し終わった後アレクシアを見ると少し変な顔をして目の前の紅茶のカップを見つめていた。ついでに言うとベレニスとアレクシアは高級紅茶とケーキでリュシエンヌは水と角砂糖一個である。
「リュファス団長がねぇ。まあ、リュシエンヌだものね…でもイメージがねぇ」
ぶつぶつと独り言を言うアレクシア。
リュシエンヌはリュファスとの出来事を思い出しているのだろうか、遠い目になっている。そこまで昔のことでもないのだが。
「いい人だと思います。私の頭痛を治してくれましたし…すごい力ですね」
リュシエンヌが興奮しながらそう言うとアレクシアは厳しい表情で言った。
「訂正しておくわね。光の剣を持ったからって、治癒の力が使えるようになるわけではないわ。そこまで万能じゃないの」
「えっじゃあもともとの」
「私は、リュファス団長がそんな力を持っているなんて聞いたことはないわ。そういうことは安易に考えてはいけないわよ、危険だから」
そう言ってカップをテーブルに置く。リュシエンヌは訳が分からないという顔をしている。
「どういうことでしょう?私よく頭痛を起こすんですけど、ブランヴィル様に触れられたら一瞬で治ってしまったんですよ。すごくないですか?」
リュシエンヌの砕けた言い方に、ベレニスがリュシエンヌのわき腹を小突き無言の抗議をする。それには気にせずアレクシアは困った顔をして首を振る。
「それは、ねぇ…」
「あっでも、ブランヴィル様を見ると頭痛を引き起こすから、ブランヴィル様に原因はあるようなないような」
ぼそりと言うリュシエンヌにベレニスは鋭い眼差しを向ける。
「ちょっとリュファス様に責任転嫁するんじゃないの」
アレクシアが身を乗り出す。
「リュファス団長を見ると頭痛?」
興奮した様子を見せるアレクシアにベレニスが答える。
「ええ、そうみたいですわ。だから、リュシエンヌはリュファス様をずっと避けてましたの。この前までは」
「そうだったの」
アレクシアが顎に手を添え考え込むような動作をする。
「思い出すことを拒否しているのかしら…でもまさか…ああ、彼のこともあるし…うん…」
アレクシアは独りで考え納得している様子だが、他の二人には何のことだかわからない。ただ首をかしげるのみである。
「アレクシア様?」
アレクシアはリュシエンヌを見る。どことなくアレクシアの秀麗な眉が下がっているような気がした。いつも強気なアレクシアの意外な姿を見れたと、リュシエンヌは少し得した気持ちになる。
「リュシエンヌ、あなたの頭痛は病気ではないのよ…」
突如発せられた言葉にリュシエンヌだけでなくベレニスも首をひねった。
「え?じゃあ何なんでしょう。記憶喪失の後遺症とか?」
「アレクシア様、私にはよくわかりません。この子は頻繁に頭痛に悩まされていますが、それが病気ではないのなら何というのでしょうか?」
空気に沈黙が走った。
「記憶喪失の後遺症…それに近いかもしれないわね。リュファス団長だけが鎮めることができることは言っておくけど、それ以外は何も言えないわ」
そして真剣な顔でリュシエンヌを見る。
「リュシエンヌ、聞いて。あなたの立場は自分で思っているよりもずっと複雑なのよ。国の中でも、世界でも。とても不安定ですぐに崩れてしまいそうな…そんな」
リュシエンヌは怪訝そうな顔をしてアレクシアを見る。
「私には何を言ってるのか、さっぱりわかりません」
「今は分からなくてもいいの。きっとこれから嫌というほど身に降りかかってくるかもしれないのだから」
ただ、と呟いてアレクシアはリュシエンヌを見た。
「リュファス団長は、リュシエンヌのことをとても大切に思っているということは覚えておいて」
アレクシアは何か知っているみたいです。まあ、一国の王女なので何かしらの情報は入ってくるでしょう。自身でも調べていそうな気がしますが。