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闇に惑う  作者: 湯川翔子
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第4話 わからない

 

 何でこんなことになっているんだろう?

 

 王宮の一角、木々が背高く伸び、草が青々と茂る庭にリュシエンヌはいた。

 汗をだらだらと流しながらリュシエンヌは対峙している男を見る。ほんとはあまり見たくはないのだが、下を向いているのも失礼だろう。

 リュファスはリュシエンヌの手を取り、その手の平を凝視している。


 こ、怖い。


 リュファスはじっとリュシエンヌの手を見ており、リュシエンヌの方には気がいっていないようだった。だからわからないだろう。リュシエンヌがこの世の終わりのような絶望的な顔をしていることなど。

 手を取られたせいで、リュシエンヌは逃げることもかなわない。

 ここはあまり人の訪れない庭だが、もしも他のメイドに見つかったら血祭りにされてしまうだろう。それほどリュファスは人気なのである。

 それに、アレクシアから仕事も任されており、本当は一刻も早く、この場から去ってしまいたかった。それ以上にリュシエンヌ個人的にリュファスの傍から離れたかった。



 実は、リュシエンヌは、リュファスのことがとても苦手だった。性格が苦手なわけではない。一介のメイドであるリュシエンヌが性格を苦手と思うほど、騎士団長であるリュファスと話す機会などそうそうないものだ。

 ただ、リュファスの存在自体がリュシエンヌに違和感を持たせる。

 リュファスを見ると頭が痛くなったり、息苦しくなったりする。そんな理由でリュシエンヌはリュファスを初めて見たときからずっと避けていた。

 


 そのリュファスが今リュシエンヌの目の前で、リュシエンヌの怪我の具合を見ている。

 リュシエンヌにしては訳の分からない展開である。

 「だいぶ傷は塞がったな。まだ痛いか?」

 「いいいいえ、だだだ大丈夫ですから」

 

 どどどどうか、その手を離してください。


 そんなリュシエンヌの悲痛な心の叫びも届かず、傷の具合を見聞した後もリュファスはリュシエンヌの手を離さなかった。

 何故にこんなに近いのか。

 そうしている間にも先ほどから断続的に続いている頭痛はリュシエンヌを苦しめる。

 その頭痛がだんだんと酷くなってきており、リュシエンヌは顔をしかめる。

 「リュシエンヌ」

 何故リュファスがリュシエンヌの名を呼ぶのか、それを考える余裕が今のリュシエンヌにはなかった。どんどん頭痛がひどくなり頭が割れそうである。


 助けて、兄さま、聖騎士様!!


 リュシエンヌはわけのわからない感覚に捕らわれた。兄さま?リュシエンヌには誰のことを言っているのかわからなかった。聖騎士様?目の前にリュファスがいるからだろうか。

 オージュ王国の国宝『光の剣』に選ばれた者は『聖騎士』『聖なる騎士』などと呼ばれ国民からあがめられる。


 『聖なる騎士』は闇を払い、魔族を滅すし、世界を光に包み込む。

 『光の剣』は大国オージュのみに伝わる伝説の剣。それは自らの所有者を選び、力を与える。


 その生きる伝説と呼ばれる男が今目の前にいる、500年ぶりに選ばれた闇を払う聖なる者。騎士団長という肩書を兼任し、『光の剣』を扱う『聖なる騎士』という肩書から時には国王よりも権力を持つと云われる男、リュファス。

 頭が痛い。

 リュファスが嫌いなわけではない。ただリュシエンヌは『聖なる騎士』という言葉に激しい拒否反応を起こしていた。


 違うの、あんなこと言ってても信じてたの。兄さまが…


 兄さまが何?兄さまって誰?痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。

 リュシエンヌは頭を抱える。通常とは比べられないほどの強い痛みにリュシエンヌは意識を手放しそうになった。

 「リュシエンヌ!」

 しかし、凛とした声によって意識は引き戻される。目を開けたそのすぐ近くには整った顔。サラサラとした深紅の髪が頬にあたり少しこそばゆい。

 「ぶ…ブランヴィル様」

 そこで初めて抱きしめられているような格好ということに気付いた。リュシエンヌは痛みに気を取られながらもその体勢に慌てる。

 リュファスはそんなリュシエンヌの様子も気にせず、額に手を添える。

 「あっあの」

 「静かに。頭が痛いのだろう?待っていろ」

 混乱するリュシエンヌを黙らせ、リュファスは目を閉じる。

 氷の瞳が隠れ、それと同時にリュシエンヌの中に何かが流れ来るような感覚。

 とても温かかった。


 リュファスが手を離すと、リュシエンヌを先ほどから悩ませていた頭痛は綺麗さっぱり消え去ってしまった。

 「えっ…」

 「治っただろう」

 驚くリュシエンヌに落ち着いた声でリュファスは言う。

 そういえばベレニスから聞いたことがあった。『聖なる騎士』は身体からほとばしる光で生物を癒す力を持つということを。嘘か本当かはわからないが。

 「本当…です。ありがとうごさいます。ご迷惑をおかけしました」

 未だに信じられないが、リュシエンヌはリュファスに頭を下げる。

 「…仕方ないことだからな。また痛くなったら俺の所に来ればいい。大抵訓練場にいる」

 リュシエンヌがその言葉に反応し、頭を上げると、リュファスはすでにリュシエンヌに背を向けていた。

 「ありがとうございます!」

 リュシエンヌは改めて礼を言った。聞こえているはずだがリュファスは振り返らなかった。


 そのリュファスの背中を見てリュシエンヌは思った。


 不思議な人……でも、いい人なんだろうな。


 今まで『聖なる騎士』や頭痛といった理由で避けていた人だったが、今日のことで少し親しみが湧いた。

 何故リュファスはリュシエンヌの頭痛のことを知っていたのか、ここまでしてくれるのか。そして、痛みに悶えていたときに浮かんだ『兄さま』の存在、自分には兄がいるのだろうか。多くの疑問も浮かんできた。

何か展開が急すぎるような気もしますが…まあまあ。自分でもリュファスという男の性格がよく掴めませんね。うーん、小説って難しい…

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