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闇に惑う  作者: 湯川翔子
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第16話 衝撃的な光景

 


 ある日リュシエンヌは回廊で、主人であるアレクシアを部屋の外で見かけた。

 アレクシアは、勝気な性格に似合わず身体が弱いので滅多に部屋の外にでないのでかなり珍しいことであった。

 視線をそらしたリュシエンヌは、そのアレクシアと一緒にいる人物にたまげた。

 「え」

 そして、無意識に声が零れおちた。

 

 遠目からでも目立つ深紅の髪に目が奪われる。


 話をしているのか、二人の距離は近い。その光景にリュシエンヌの心臓が大きく脈打った。



 「リュファス様じゃない」

 リュシエンヌが呆然としていると、近くにはうっとりとリュファスの名前を呟くメイドがいた。その瞳からは彼女がリュファスを慕っているのが見て取れた。

 「近くで見るとなお素敵だわ。お近づきになりたいわあ」

 「やめときなさいって、あんただとあの眼光にさらされて終わりだから」

 一緒にいたメイドに冷静に諭され彼女はため息をついた。

 「そうよねえ、あらっアレクシア様もいらっしゃるわ」

 メイドはアレクシアに気付いたようで目をしばたたかせた。

 「王族であるアレクシア様ならリュファス様とお似合いよね。だって聖騎士様だもの。私たちメイドのことなんて気にも留めないわよ」

 「そうよねえ」

 メイドはまた、ため息をついた。


 そこからどうやって部屋に戻って来たかわからない。



 しばらく部屋に籠っていると部屋のドアを叩く音が聞こえた。ドアを開けるとベレニスがいた。その顔を少し、怒っているようでもある。

 「あなた、何しているのよ。仕事もしないで」

 かなりの御立腹である。

 「ごめんなさい」

 リュシエンヌはうなだれながらも謝った。

 いつもは言い訳ばかり言うリュシエンヌが素直に謝ったので逆にベレニスの方が戸惑いの表情を見せた。

 「あなた、本当にどうしたのよ」

 「ううん、何でもない」


 リュシエンヌはベレニスを部屋に促し、椅子をすすめた。というかベレニスが部屋の前から動こうとしなかったので、仕方なく部屋に入れたのだが。


 「そう言えば今日珍しく部屋の外でアレクシア様を見たよ」

 沈黙が続きなんとか会話を絞り出したリュシエンヌだが、一番触れたくない話題を口を滑らせ、自分から振ってしまい、顔を引きつらせた。それだけ気になっていたということである。

 内心汗を流したリュシエンヌに気付きもせず、ベレニスは何ということもない風に言う。

 「ああ、アレクシア様がウラジミール様にお会いしたいと言われたからお連れしたのよ」

 ウラジミールはアレクシアの異母兄にあたり、皇太子である。母親は違うが兄弟の仲は良好で、よく互いの部屋を行き来している。アレクシアから他の兄弟の部屋に行くのは稀であるのだが。

 ベレニスの言い方にリュシエンヌは引っ掛かった。

 「あれ、あの時ベレニスもいたの?」

 そう尋ねると呆れたような目を返された。

 「それは私たちは、アレクシア様付きのメイドなんだから主人の傍に控えているのは、当たり前じゃない、むしろその場にいなかったあなたがおかしいわよ」

 ずいっと恐ろしい顔でベレニスにすごまれ、リュシエンヌはのけぞり椅子から落ちそうになった。

 「何していたの?」

 顔から冷や汗を大量にかき、目線をそらす。

 「リュシエンヌ」

 「いやね、あのね、今日もドジして、メイド長にお昼抜かれてね。あのっお茶の時間まで待ち切れなかったから…」

 「料理長におこぼれをもらっていたわけね」

 しどろもどろに言うリュシエンヌの理由を言い当て、ベレニスはため息をついた。

 「あの人も、リュシエンヌには甘いんだから」


 

 「私が見たときはアレクシア様、リュファス様とお話してた。でも、ベレニスは近くにいなかったよね」

 近くにいたらリュシエンヌは多分気付いていたはずである。

 「ああ、リュファス様と鉢合わせたときね。そのとき私は少し離れて控えていたの」

 そう言うとベレニスは、その美しい顔を歪めた。

 「どうしたの?」

 「いえね、少し思いだしてしまって…」


 しばらく黙っていたベレニスは、唐突に言った。

 「あなたに聞かせるのを躊躇わせるような会話の内容だったわ」

 その言葉にリュシエンヌは苦しそうに眉を歪めた。自分には聞かせられないということは、かなり親密な話をしていたということだろうか。

 「楽しそうにお話してたもんね…」

 ついポロリと言葉をこぼしてしまった。しかし、何故二人が親密になるとリュシエンヌが苦しくなるのかリュシエンヌ自身分からなかった。

 「楽しそう?」

 ベレニスはリュシエンヌを、信じられないどこに目をつけてんだという顔で見た。しかし、少し考え、自分の言葉を否定するように首を振る。

 「ああ、でもアレクシア様は楽しかったかも知れないわね。あのリュファス様に対して言いたい放題なさっていたのだから」


 「どういうこと?」

 リュシエンヌが尋ねてもベレニスはため息をついて、首を横に振るだけだった。そのときのことはあまり思いだしたくないようだった。

 「リュファス様もよくアレクシア様の毒にたえていらっしゃって…思わず涙ぐんでしまったわよ」

 その言葉に、リュシエンヌは自分が少し思い違いをしていたことに気付いた。あのとき確かにアレクシアは楽しそうに話をしていたが、リュファスの方は少し顔を引きつらせていたのを思い出した。

 内容は分からないが、あのときのリュファスはアレクシアの可憐な唇から吐き出される毒をずっと聞いていたのだろうか。

 リュシエンヌはアレクシアの毒の餌食になったリュファスを気の毒に思う。


 しかし、自分が思い違いをしたと知ってもこの胸のもやもやが晴れることはなかった。




 アレクシアの夕飯の準備をしようと厨房へ向かっていた。今日はリュシエンヌが食事を運ぶ係でベレニスは部屋での準備を担当している。

 自分の気持ちが分からず、しょげながら歩いていたせいか、何もない所で滑って転んだ。リュシエンヌがなんとなく起き上がれないでいると、

 「あれ、リュシエンヌじゃないか。大丈夫かい?」


 そこには、前回出会ったときと同じ笑顔を浮かべたマテューが立っていた。

 馬鹿にしているのではない、わかっている。

 でも、


 笑ってないで手を差し伸べてほしい。

 

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