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闇に惑う  作者: 湯川翔子
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第13話 優雅に寛ぐ

 


 リュシエンヌは朝起きていつものように支度をした。昨日のことがまるで夢の中の出来事のように思えた。

 あの後リュシエンヌは眠ってしまったようで気付いたらリュファスの姿はなくなっていた。

 

 今日もしリュファスと出会っても、普通の態度で接することが出来ないかもしれない。というか、リュシエンヌは、普段リュファスにどんな態度で接していたのかさえ分からなくなっていた。

 


 しかし、自分の気持ちの変化に困惑しつつも、今日もいつも通りリュシエンヌは自分の真価を発揮していた。

 皿をブーメランの如く飛ばし、かろうじて避けたものの皿の上に盛り付けてあったゾーブ牛のステーキが頬に直撃した女官長に、烈火の如く怒られた。



 罰として昼飯を抜かれたリュシエンヌは、絶えず襲いくる空腹に耐えながら、アレクシアとの茶会を首を長くして待っていた。


 ベレニスに呼ばれた時は、すぐさま準備をして転ばずにアレクシアの部屋に駆けて行ったリュシエンヌである。



 ベレニスが優雅な動作でお茶を入れる。

 その間、リュシエンヌはよだれを垂らしながら目の前のケーキを凝視している。

 アレクシアはリュシエンヌが買ってきた土産の熊の置物を見て固まっていた。


 紅茶をテーブルの上に置き、自分も椅子に座ったベレニスは眉をひそめてリュシエンヌを見る。

 「あんたねえ、これを買う時アレクシア様に失礼だと思わなかったの?」

 「何が?」

 ベレニスが言葉に微かな怒りを乗せて言うが、それを気にした様子もなく、クリームがたっぷり乗ったケーキを頬張りながらリュシエンヌは聞く。

「熊…木彫りはないわよねえ。ぬいぐるみだったら可愛かったのに…なんだか妙にいかめしいわ」

 アレクシアの手の中の置物を見てため息をつく。ベレニスの土産については何も触れないのでどうやら特に文句がないようである。

 「あら?じゃあベレニスがもらったストールと交換してくれないかしら?とても可愛らしいわ」

 「いえ、こんな安物のストールなんてアレクシア様には似合いませんわ。私が責任もって着用させていただきます」

 王女であるアレクシアに対して笑顔で断るその姿も、ベレニスらしいとリュシエンヌは思った。

 アレクシアはベレニスの答えを分かっていたかのようで、落胆した様子も見せず、頷いた。

 「まあ、この熊の置物もストレス発散にちょうどいいから、ありがたくいただくわ」

 言いながら熊の置物を手の中で弄ぶアレクシアに、二人は何も追求することが出来なかった。




 「そういえば、最近、近隣諸国では魔物が頻繁に出没するらしいわ」

 リュシエンヌのお茶をすする手が止まった。構わずアレクシアは続ける。

 「どうしたのかしら…リュファス団長の力でこの国には近づけないはずなのに」

 「どういうことなんでしょうね」

 


 「西の森にも出現したらしいわね」


 リュシエンヌの身体が硬直する。それを静かな瞳で見据えながらアレクシアは言葉を続ける。 

 「一介の魔物ではこの国周辺には近づくことが出来ず、近づいたとしても結界に阻まれて消滅するはずなのにね」

 アレクシアはがちゃんと音を立ててカップを置いた。

 「西の森は確かにリュファス団長の力の届きにくくて、城からもっとも遠い所にあるけれども…でも」

 最後の方はアレクシアの独白のような形になっていった。

 「もしかして」

 「アレクシア様?」

 心配そうにベレニスが話しかける。

 「いえ、そんなはずはないわ」

 首をふり、自分に言い聞かせるようにアレクシアは言う。

 「まあ、心配にするにこしたことはないわ。ベレニス、リュシエンヌ、ひとりではあまり城下に出ないようにね」

 あまりにもアレクシアが真剣に言うので、リュシエンヌもベレニスも二つ返事で了承した。



 話している中でベレニスがふと思い出したかのようにリュシエンヌに言った。

 「そう言えばリュシエンヌ、体調は大丈夫なの?昨日はずっと休みを取っていたようだけれど。ドアをノックしても返事がなかったから酷いのかと」

 リュシエンヌの顔があからさまに歪む。

 ベレニスの微かに心配したような声にリュシエンヌが答えられないでいると、アレクシアがコロコロと笑う。

 「返事できるはずがないわよね。昨日はずっと城下にいたんですもの、リュファス団長と」

 リュシエンヌはお茶を噴き出した。

 「しかも帰りなんて寝ているリュシエンヌをリュファス団長が抱えて帰って来たのよ、とても大事そうに……その後長時間部屋で何してたことやら」


 「え」


 リュシエンヌとベレニスの声が重なる。しかし、その驚きは大きく違う。

 ベレニスは、自身の知らないところでリュファスとリュシエンヌの仲が大きく進展していたことに驚き、リュシエンヌは何故アレクシアがそんな細かい所まで把握していることに驚いたのだ。

 

 「信じられない…私の知らないところで」

 呆然と呟くベレニスにアレクシアは微笑む。

 「ベレニスもまだまだね。リュファス団長も見つからないように帰って来たつもりなんでしょうけども、この城の中で、人の目から逃れることは不可能よ」

 不敵に笑みを浮かべるアレクシアにリュシエンヌ、ベレニスまでもが青くなる。

 「大丈夫よ、昨日のことを知っている人間はごく一部だから。それに、このことが城内に知れ渡れば、あなた暗殺されるわよ」

 さらりと恐ろしいことを言ってのけるアレクシアにリュシエンヌはさらに顔を青くする。

 いくらリュシエンヌが能天気であろうとリュファスを慕う女性が多くいるのを知っている。その熱狂的ぶりを見ていると暗殺もあながち嘘ではないと思うリュシエンヌだった。




 その後、ベレニスとアレクシアに昨日の出来事を根掘り葉掘り聞かれた。

 リュシエンヌはしどろもどろになりながらも、大抵のことを話したが、昨日部屋で起こったことはさすがに言うことはなかった。



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