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「後輩くん、遅〜い!」
翌日。
登校した僕を校門で待ち受けていたのは、ホワイトヘアの美少女──猫目先輩だった。
「いや、いつも通りの時間ですけど……」
「わたし、三十分も待った!」
「すみません……」
三年生の先輩に怒られて反射的に謝ってしまったが、そもそも約束していないんだから、僕に非はないはずだ。
しかし、そんな生意気な反論を、一年生の僕が言えるはずもない。
「というか、どうして僕を待ってたんですか? なにか用事ですか?」
「…………昨日の話」
ずっと明るく高いトーンで声を発していた猫目先輩が、急に小声で囁いた。
僕はハッとする。
──昨日の話。
昨日の夜、猫目先輩が電車に飛び込み自殺しようとしているところを助けた。その後、すぐに先輩は次の電車に乗って帰ってしまったのだ。
自殺未遂したなんて、誰が聞いても耳障りのいいエピソードじゃない。
しかも、学校中に顔と名前が知れ渡っている猫目先輩だ。一人に知られるようなことがあれば、あっという間に噂になり、学校に来るのが気まずくなるかもしれない。
──なるほど、その口止めをするために、わざわざ僕を待っていたんだな。
合点がいった僕は頷いて、小声を返す。
「もちろん、先輩が電車に飛び込もうとしたことは誰にも言いませんよ。すみません、察しが悪くて……」
「え? なにそれ? そっちじゃないよ?」
「はい?」
そっちじゃない?
こんな重大事項以外に、なにかあったか?
なんのことかさっぱりわからない僕。猫目先輩はニンマリと笑って顔を寄せた。
その整った顔立ちと、リップで保湿された唇に心臓が跳ねる。
「わたしのご主人様になってくれるんでしょ?」
僕は目を見開いた。
確かに、そんなことも言った気がする。
でも、それは猫目先輩が『ペットの猫ちゃんになりたい』という願望を口にしただけで、『明日からハワイに行きたい』と同じ意味ではなかったのか?
つまり、今すぐ実現は不可能だけど、希望を言ってみた、と。
いわゆる、冗談。
僕はそう捉えたつもりだったが、どうも、目の前で笑う、ツリ目の美少女は本気らしい。
本気で、叶えようとしている。
夢を言葉にすれば叶うのは、少年漫画の主人公だけじゃないのか?
「……具体的に、ご主人様って、なにをするんでしょう……?」
了承してしまった以上、僕は彼女の願望を叶える義務があるし、何より三年生に逆らえるわけもない。
……まぁ、僕なんかが、学校一の美少女と、お近づきになれて嬉しい気持ちがないわけでもない。
ご主人様、という呼ばれ方、立場から連想するに、猫目先輩が僕に仕えるのが妥当だと想像するが──猫目先輩の指すご主人様はそういう意味じゃない。
猫目先輩は、メイドではなく、『ペットの猫ちゃん』なのだ。
「えへへ〜。あのね〜……」
僕は猫目先輩の次の言葉を待つ。
照れ臭そうに伏し目がちになる猫目先輩。
美少女って、まつ毛が長いんだなぁ……。
「カバンが重たいんだよね」
と、猫目先輩は言った。
彼女の右肩にかかっているスクールバッグは、ぱっと見だけでも重たそうなのがわかる。
上目遣いで、寄越される、無言の圧・
──僕に、その荷物を持て、と。
「……わかりました」
こういうことか、『ペットの猫ちゃん』って。
「やった〜! ありがとう、後輩くん!」
ニコニコしている先輩の顔を見ると、なんでも許してしまえそうな気さえする。
可愛いとは、偉大なり。
バッグが彼女の手から離れた瞬間、ずん、と腕が重力に吸い込まれそうになった。
「……重っ!?」
「そりゃあ、受験生だからね。なんの勉強したい気分になるかわからないから、常に全教科入れてるんだ〜」
三年生は大体そうだよ、と猫目先輩はスカートを翻して、ようやく校舎へ進み出す。
ただでさえ、自分の荷物も重いというのに。
猫目先輩の後ろ姿と、渡された彼女のスクールバッグを交互に見て、ため息をついた。
──『ご主人様』というより、ただの『下僕』じゃないか。
学校一美少女の登場によって、僕の教室はざわついた。
「猫目先輩だ……」
「すげ〜、想像以上に可愛い……」
「でも、なんでうちのクラスに……?」
クラスメイトたちが思い思いに、ヒソヒソ話をそこかしこで繰り広げる。
猫目先輩を三年生の教室まで送り届けるのかと思いきや、彼女は僕のクラスまでついてきたのだ。
「後輩くんの席どこ〜?」
「あ、あそこです……」
僕は教室の一番右後ろの席を指した。
「なるほど♪」
僕の席に向かう猫目先輩。
僕はようやく、彼女のスクールバッグと自分のスクールバッグを、机の上に置き、一息つくことができた。
猫目先輩はニコニコして隣に立っていた。
「猫目先輩、教室戻らないんですか……?」
「まだ朝のホームルームまで時間あるよ?」
「はぁ……」
僕はスクールバッグから今日使う教科書やノートや筆記用具を取り出して、机の中にしまう。カバンを机の横に設置されているフックに引っ掛けたら、もうやることはない。
「猫目先輩、僕、荷物持ちますから、クラスまで送りますよ」
そういうことだろ。
しかし、僕の予想は外れた。猫目先輩は首を左右に振る。
「ううん、そこに座って」
「……? はい」
僕は促されるがまま、着席した。
その膝の上に、猫目先輩が座ってくる。
机に向かって真っ直ぐ座る僕に対して、猫目先輩はその横から、彼女の足が僕の足と十字になるように重ねてきたのだ。
「なっ……!?」
柔らかな太ももの感触に鼓動が速くなる。
猫目先輩は、あまりの驚きで動けない僕の首の後ろに右手を回して、
「うんうん、ちょっと硬いかな〜。まぁ、勘弁してあげよう」
人の上に勝手に座っておいて、あんまりな感想を言っていた。
クラスは一層ざわついた。男女問わず視線が突き刺さる──特に男子からは、嫉妬と羨望の眼差しが痛かった。
「なにしてるんですか、猫目先輩!?」
思わず声を荒げてしまうが、猫目先輩はそのキョトンとした瞳で僕を映していた。
「なにって……、わたしは『ペットの猫ちゃん』だよ? 『ペットの猫ちゃん』がご主人様の膝の上に乗っても、なにもおかしいことはないよね?」
猫目先輩の台詞に、クラス中が呆気にとられた。
もちろん、僕を含めて、だ。
「ペット……?」
「ご主人様……?」
「あいつが、猫目先輩のご主人様なのか……?」
主に男子からのあらぬ誤解を受けているのが、ヒシヒシと感じる。
この関係は君達の思っているような、羨ましい関係ではないのだと一人ひとりに言って聞かせてやりたいくらいだ。
ご主人様じゃなくて、下僕なんだ、と。
「だからって……!」
「ご主人様は、ちゃんとペットのお世話しなきゃね?」
反論しようとする僕の声に被せて、猫目先輩が首を傾げた。
「お世話って……」
「なんだか喉が渇いたな〜」
「……はい」
僕は机脇のフックに引っ掛けていたスクールバッグから水筒を取り出して、猫目先輩に渡すが──猫目先輩は受け取らない。
「……猫目先輩?」
「これ、蓋ついてるよ?」
「……失礼しました」
水筒の蓋を回して開けて、ようやく猫目先輩は受け取ってくれた。ごくごくと勢いよく冷たいお茶を飲んでいく。
……これで僕が次に水筒を飲んだら、間接キスだっていうのに。
まったく気にしない先輩の素振りに、ドキドキしている自分が馬鹿みたいに思えてきた。
「ぷはーっ! どうして、よその家の麦茶って、味が違うんだろうね?」
「なぜでしょう……」
僕にとっては、この状況のほうが、よっぽど『なぜでしょう』だ。
誰か、この恥ずかしさから僕を助けてくれ、と願ってはみるものの、この状況に割って入れる猛者など──
「あれ、猫目さんだ」
いた。
教室に入ってきた秋本が、猫目先輩と目を合わせて、声を上げた。
「おはようございまーす! ってか、どういう状況?」
秋本は、僕の膝の上に座る猫目先輩を不可思議に思いつつも、笑って流して、軽く挨拶を交わした。どうやら彼は、たった今、登校してきたようだ。
「あ、秋本くん」
猫目先輩は、慌てたように、僕の膝の上から退いた。
柔らかい温もりがいなくなるのは寂しかったが、そうも言っていられない。
時計を見れば、遅刻ギリギリ。
「ほ、ほら、猫目先輩! そろそろ教室戻りましょう!」
「えぇ〜? しょうがないな〜」
秋本のおかげで、なんとか窮地を脱出できた。
教室の出入り口まで、スクールバッグを肩にかけた猫目先輩の背中を押す。
「じゃあ、また来るね。ご主人様?」
ウインク一つ。
彼女は嵐のようにやって来て、僕のクラスに大きな爪痕を残し、可愛らしく去って行ったのだった。
休み時間は、クラスメイトからの質問攻めだったが、それらを僕が適当に流していると、真面目に答える気はないと伝わったのか、すぐに興味を失われた。
昼休みになり、いつも通りの男子グループで集まり、各々が弁当やら惣菜パンやらを開封していると──
「ご主人様はペットを放っておくにゃん?」
ニョキッと。
いつの間に……!?
椅子に腰掛けている僕の背後から、猫目先輩の可愛らしい顔が現れた。
『また来るね』の宣言通り、彼女は昼休みになるや否や、ここまでやってきたようだ。
「昼休みになったばっかりですよ……!? 昼ご飯はどうしたんですか……!」
「まだ食べてなーい」
平然と首を横に振る猫目先輩。
「いつも購買に行って、ご飯買ってるんだよね」
そんなことを言われても、僕にだって付き合いというものがある。
猫目先輩はじっと僕を見つめた。キラキラとした大きな瞳が、困惑している僕を映す。
助けを求めるために、一緒に弁当を広げていたクラスメイト達に視線を向けるが、
「……行ってやれよ」
「先輩、待ってるぞ」
誰一人として、僕の存在を必要としている男はいなかった。
「それだけでいいんですか?」
「うん。あんまり、食に興味がなくて」
購買でパンを買うと言った猫目先輩が手に取ったのは、チョココロネ一つだった。
栄養もなければ、量もない。
小柄で痩せ気味の女子といえど、限度があるんじゃないか?
「……僕の弁当、少し食べますか?」
「え〜? いいの〜?」
あんまり嬉しくなさそうだった。
食に興味がない、と言っているのに食事を勧めるのは、筋違いかもしれない。本当にただ食欲がないのだとしたら、ありがた迷惑もいいところだ。
「……すみません」
「え? なにが?」
僕の謝罪に猫目先輩はキョトンとする。
チョココロネを持った猫目先輩と僕はラウンジの一席を陣取った。
購買の横はラウンジになっている、というより、ラウンジの端に購買が設置されている、といったほうが正しい。
購買も大層なものではなく、駅のホームによくあるキオスクと大差ない。昼休みになれば、弁当を持たない生徒が大挙して押し寄せるので、午前授業間の休み時間に買っておかなければ、大した食べ物が手に入らない。
我が校に食堂というものはない。長机と椅子がたくさん並べられた、ラウンジと呼ばれる広い自由なスペースがあるだけだ。ラウンジの用途は特に決められておらず、ご飯を食べる者、勉強をする者、時間を潰す者と、さまざまな過ごし方をする生徒がいる。
「いただきま〜す!」
「……いただきます」
猫目先輩が小さな口を開けて、チョココロネを頬張る。それを見ながら、僕は弁当に詰め込まれている、解凍された冷凍食品を口に含んだ。
チョココロネのお尻からかぶりついた猫目先輩は、「ん〜」と美味しそうに、頬を手で押さえる。
「チョココロネはいつ食べても美味しいよね〜。わたし、今川焼きもたい焼きも、中身はチョコ派〜」
「チョコ、美味しいですもんね」
チョコレートとは程遠い味のする野菜炒めを食べながら、僕は話を合わせた。
……猫目先輩は、チョコが好きなんだ。
彼女の好みが知れたことを、こっそり嬉しく感じてしまう。
「おい、猫目」
男の声が、馴れ馴れしく、猫目先輩を呼んだ。
僕らは声の主へと、顔を向ける。
僕と猫目先輩のランチタイムに割って入ってきたのは、知らない男子生徒だった。
太眉の坊主頭。程よく筋肉のついた肉体。身長はそこまで高くない、平均くらい、なのに、威圧感がある。
野球部だろうか?
「なに?」
猫目先輩を名字で呼び捨てし、それに対して猫目先輩もタメ語で返す──猫目先輩の知り合いの三年生のようだ。
「そいつ、誰だよ」
その三年生は、くい、と顎で僕を示した。両手はポケットに突っ込んだままだ。
柄が悪い、と思った。口をききたくない、とも。
猫目先輩はなんと答えるのだろうか……?
「わたしのご主人様にゃん〜」
ご丁寧にも、グーにした両手を頭に当てて、猫耳を表現しながら言った。
「なっ……!?」
案の定、柄の悪い三年生は顔を歪めた。僕を睨みつける。
「なんでこんなナヨナヨしたやつと! どういう関係だよ、ご主人様って! 俺のほうがお前にふさわしいだろ!」
癪に触ったのか、少しだけ大きな声を出した坊主頭の三年生に、ラウンジにいた生徒達の視線が集中する。
「なんでお前みてぇなやつが、猫目と一緒にいんだよ!」
「うわっ」
野球部であろう三年生は、僕の胸ぐらをつかみ上げた。椅子に座っていた僕は呆気なく持ち上げられてしまう。
彼と視線が混ざる。
太眉を中央に寄せ、血走った両目は、どこか泣き出しそうだった。
力強そうな拳が振り上げられる。
──殴られる……!
「しーっ……」
猫目先輩が、人差し指を自身の唇に当てていた。
わずかに伏せられ、長いまつ毛がかぶさった瞳は、瞳孔が閉じていて──まるで、猫のようだった。
彼女から発せられるオーラに、僕を殴ろうとした三年生の手から、力が抜けていく。
猫目先輩は立ち上がって、三年生に近づく。背伸びをして、鼻と鼻がくっつきそうなくらいの距離で、囁く。
「わたし、言ったよね? あなたのものには、なれないって」
「…………」
「しつこい人は、嫌いなの」
背伸びをしていた彼女は、踵を床につけた。
そして、にこりと笑う。
その笑顔は、可憐で、儚くて。
──天使かと思った。
「消えて」
美しい雰囲気とは、真反対の、死刑宣告。
体格のいい三年生男子は、しばらくポカンとしていた。
しかし、彼女に言われた意味がわかると、
「……っくそ!」
と、盛大に舌打ちをしてどこかへ去って行った。
「ごめんね、後輩くん。怖かったよね」
「いえ……」
去りゆく三年生の後ろ姿を見てから、僕に振り向いた猫目先輩は、僕の知っている猫目先輩だった。
「あの人ね、一ヶ月前くらいに告白されたんだけど、断ったの。でもまだ諦めてないみたいで……。巻き込んじゃってごめんね」
「そ、そうなんですね……」
氷山の一角だろう。
他にもいるんじゃないだろうか、あの人のように、猫目先輩に想いを寄せて破れたものの──諦めがつかない男子生徒は。
そんな中、ぽっと出の僕がご主人様と呼ばれ、彼女に付き纏われているんだから。
僕をよく思わない男子は掃いて捨てるほど、存在してそうだ。
ぶるり、と寒気がする──悪寒が走る。
学校中の男子からボコボコにされても、おかしくはない。
「ぼ、僕、ちょっと、トイレに行ってきますね」
「わかった〜」
猫目先輩に断りを入れて、僕は男子トイレに向かった。
──向かったのだが。
「どこまでついてくる気ですか、猫目先輩!」
「え?」
男子トイレのドアを開ける直前まで、猫目先輩はついてきた。
僕が止めなければ、中まで入ってきそうな勢いだ。
「男子トイレにまでついてこないでください!」
「ダメなの〜?」
「ダメです! せめてここで待っててください!」
猫目先輩が入り込めないように、僕は素早くトイレに入ってドアをバタンと閉めた。
ようやく一人になれた僕は、ベルトを緩めて小便用の便器の前に立つ。
──誰にも愛されないんだもん……。
夜の駅のホームで自殺しようとした猫目先輩は、誰にも愛されないと泣いていた。
あの暴力的な三年生の愛は、彼女にとって、愛とは呼べないらしい。
そんな先輩が、僕を『ご主人様』とよんで、僕の『ペットの猫ちゃん』になっている──僕だけを頼っている。
正直、悪い気はしなかった。
学校中の、特に男子からの、視線が痛いけれど。それ以上に猫目先輩からの特別扱いは、たとえ『ご主人様』という名の『下僕』だとしても、自然に頬が綻んでしまう。
他人から期待されるのは、久しぶりだ。
中学受験に失敗し、高校受験も補欠合格だった僕に、なにかを期待をする親など、どこにもいないのだから。
用を足した僕は手を洗って、トイレから出た。
「お待たせしまし……」
トイレのドア横で律儀に僕を待っているはずの女子生徒は、二人に増えていた。
猫目先輩のお友達──ロングヘアでタレ目の優しそうな、綺麗系の美少女だ。
「猫目〜。この一年生を待ってたの〜? どういう関係〜?」
お友達が、僕と猫目先輩を交互に見やる。
「わたしのご主人様になってもらったの! ね!」
猫目先輩は笑顔で僕に同意を求めた。
……これ、同意していいものだろうか。
「猫目のご主人様なら私がなったのに〜。ちゃんとお世話するよ〜?」
と、綺麗系のお友達は猫目先輩に抱きついた。
「あはは、春川は親友じゃん!」
「え〜? 私はあのときから、親友以上の仲だと思ってるのにな〜」
おでこをコツンと合わせて、笑い合う二人。
女の子同士の距離の近さに、無関係である僕がドキマギしてしまう。
「私も興味あるな〜、一年生くん?」
お友達が、猫目先輩から離れて、僕に向き直った。
そして、右手を差し出される。
「私は春川。今度、私とお昼休みにご飯しようよ」
「あ、はい……」
先輩を蔑ろにするわけにもいかず、僕はその右手を握った。ただの握手だというのに、その小さくて柔らかい手の感触に、僕の心臓が少しだけ速まった。
「え〜! わたしのご主人様取らないでよ〜!」
「いいじゃ〜ん、少しだけ〜」
猫目先輩が僕の左腕を取り、春川先輩が右腕を取る。
二人の美少女から左右に引っ張られる状況が、現実にあるだろうか?
「明日も、わたしとご飯食べるんだからね、後輩くん!」
と、猫目先輩。
「じゃあ、明後日は私とご飯しよっか、一年生くん?」
と、春川先輩。
「だめ! 明日も明後日も、後輩くんはわたしと昼休み過ごすの!」
猫目先輩がいっそう強く、僕の左腕を抱きしめた。
ささやかな胸の膨らみが、二の腕に当たる。
──ニヤけちゃ、だめだ……!
周りの生徒達から羨望の眼差しを受けつつ、僕は必死で頬を引き締めた。