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厄日 後編

「これからもこの3人で一緒に食べようよ」

 この愛莉の一言によって、これからも愛莉、ミラナ、俺の3人で昼食をとることが決定した。当然のごとく俺に拒否権はなく、もはや俺の陰キャ花道は外道から公道へと合流しかけている。

 しかしである。今のところはギリギリまだ陰キャぼっちからぼっちが取れてただの陰キャになっただけ。目立っているのも俺ではなく、彼女たち2人なのであるからして、つまり俺は現在進行形で陰キャなのである。

 例えクラスの美少女2人に絡まれていようが絶対的に俺は陰キャ。それは確定的に明らかな事実として存在している。

 

 よし、それはそれとしてなんとかして彼女たち2人から距離を置きたいな。結局陰キャの俺にとって目立つ彼女たちと共にいることは百害あって一利なしなのだ。

 ミラナ嬢に関しては放置でいいんだ。彼女は頼れる人もいないだろうし助ける義務がある。知り合いが増えてきた時点でフェードアウトすれば陰キャの俺のことなんてすぐに忘れるだろう。

 問題は七海愛莉である。愛莉が何を目的に俺に話しかけているのか。そこに尽きる。合理的に考えると彼女が俺なんかに興味を持つ可能性は0なので、ミラナに近づくために彼女を助けた俺を道具として用いている可能性が高い。

 そう考えると待っていれば自然消滅的に彼女たちと話していた事実も風化して消えるだろう。


 そして俺の陰キャ道も安泰。素晴らしい計画だ。



 帰りのホームルーム後先生に

「間宮くん、ちょっと国語科教員室までこの教材持っていってくれない?」と頼まれごとをして、人気のない旧校舎までやってきた。

 俺レベルの陰キャになると扱いやすい生徒として先生から頼まれごともしちゃうんだなあこれが。

 ウチの学校は部室棟、新校舎、旧校舎の3棟構成で、ほとんどの人は新校舎と部室棟以外に用事がなく、旧校舎に来る人はとても少ない。

 今日も例外ではなく、学校が終わったばかりの放課後なのに人の気配がしない。

 まあそれはそれでいっかと先生からもらった鍵で国語科教員室に入って荷物を置いてさっさと出る。

 家帰って配信やろうかなあと思っていると…げ、告白かよ。告白現場に遭遇してしまったらしい。そういえば旧校舎は人気がないから告白にぴったりだとかなんとか。

 どうやら告白しているのはチャラそうな先輩の男子で、告白されているのは…七海愛莉。彼女、本当にモテるんだなあ。

 先輩が手を広げて何事か訴えてる。

 あ、フラれた。

 フラれた先輩が、何事か言いながら愛莉に近づいていく。

 ってあれ不味くね。相変わらず近くに人の気配はなく、俺以外の誰かが止めてくれそうな気配はない。

 そのことに思い当たった時点で、俺は既に走り出していた。

 先輩の手首を掴んで、静止させようとする。が、先輩は血走った目で、俺を振り払おうとしながらなおも愛莉に近づこうとしている。

 その時点で、ああもうコイツダメなんだな、と理解した。交渉の余地はないのだろうと。うわ言のように愛莉の名前を呟きながら今度は俺に向かって殴りかかってきた先輩のブレザーの襟を右手で掴み、そのまま一本背負いで投げ飛ばす。


 授業でやるおかげか、受け身は取れているようなので、まあ、大丈夫だろう。


 そんなことよりも、気になるのは愛莉だ。床にストンと座り込み、恐怖からか震えている。

 大丈夫か?と声をかけて近づくと、


「いや!近づかないで!」


 oh.さすがの俺でも堪えるぜベイベー。

 とはいえ、じゃ、これで!と言って立ち去るわけにもいかない。

 投げ飛ばされてもなお何事かをぶつぶつと呟き続けているチャラ男先輩を放置して、愛莉を連れてその場を離れる。

 彼女が、家まで送って欲しい、と言うので彼女の横を着いて歩く。家しらねー。

 とはいえ、なぜか成り行きで繋いでしまっている手から伝わる震えが、俺に拒否することを許してくれないので、大人しく着いていく他ない。

 幸いにも駅と反対方向とかではなかったので、ギリギリ帰れそうでよかった。なんてことを考えて左手から伝わってくる感触から目を逸らしつつ、お互いに無言のまま10分ほど歩く。どうやら着いたらしい。

 大きめの一軒家で、愛莉に先導されて中に入る。親御さんは居ないらしく、そこはギリギリよかった。いや、むしろ不味くないか?そんなことを考えて気分を紛らわしていると、案内された先は、明らかに彼女の部屋だった。ものは多いが決して乱雑ではない整頓された場所。好きに座ってと言われても、座る場所がベッドか、勉強用の椅子の2択である。

 というか、彼女が椅子に腰掛けた時点で1択なのではと思いつつベッドになるべくちょこんと腰掛ける。

 座るなり、

「紅茶とコーヒー、どっちがいい?」

 と聞かれた。断れる雰囲気でもなかったので大人しく紅茶を頼む。

 彼女が部屋から退出すると、ようやく、落ち着くことができた。まあここが彼女の部屋であることを思うとそれだけで居心地悪くなるんだけども。

 置かれたぬいぐるみやカレンダー、教科書なんかの一つ一つが彼女の生活感を強調していて、あー考えてると頭おかしくなりそう。

 なんて頭の中で思っていると、彼女が戻ってきてしまった。

 勉強机とは違う小さめの机の上に湯気を放っている紅茶とコーヒーを置いて。そのままイスに腰掛けるのかと思いきや、なぜか俺の横のベッドに座ってきた。ナンデナンデショウカ。

 肩と肩が触れ合うような距離で、沈黙が続く。

 早くなにか話してくれという俺の思いも虚しく、沈黙のままに、時計の針は進む。

 気まずい時間に沈黙する他ない俺。ふと、彼女が俺の肩に、頭を預けてきた。

 その暴挙に俺が目を丸くしている間に、彼女が、ぽつりぽつりと、話し始める。


「ありがとね、たすけてくれて。あの男の人はね、中学から知ってる人なの。わたし、中学の時はバスケ部で、あの人もバスケ部で、先輩だった。あの人は、一個上の先輩で、わたしなんかより全然上手くて、部活の中でもトップクラスに上手くて、かっこよくて、みんなが憧れてた。わたしも含めて。そんな人から、中1の春休みに、告白されたの。わたしもそのときはうれしくて、すぐにオーケーした。あの人からくるLINEに一喜一憂して、あの人が世界で一番かっこいいんだって信じてた」


「でも、違った。付き合い始めて、1ヶ月くらいたった日にね、いきなり、襲われたの。わたしの胸をまさぐって、服を剥ごうとして。なんとかして逃げたけど、それからわたしはバスケ部を辞めて、あの人と関わることも徹底的に避けた」


「最初は男の子と話すだけであの人を思い出して、でも、なんとか話せるようになって。高校に入って、髪を染めて、見た目を変えて、ここからやり直すんだーって。そしたら、あの人がいた。最悪だったけど、あの人はわたしに気づかなかった。わたしはもう弱いわたしじゃないんだって思った。変われたんだって」


「そしたら、なんでかわからないけど、あの人がわたしに気づいた。あの人に呼び出されて、怖かったけど、それでも。強くなったわたしならあの人にも負けないって。わたしは強くなったんだ、自分の力で勝てるんだって示したかった。でも、わたしは弱いままだった。」


「だから、蒼に助けてもらえたとき安心して、ほんとに感謝してる。それなのに、わたしは…蒼が怖くなった。安心して、ありがとうって言いたかったのに、思ってるのと全然違う言葉が出て、体が勝手に距離を取ろうとした。蒼が、あの人に見えた。ごめんなさい、蒼は、なんども、わたしをたすけてくれたのに、、」


 そう言うなり、彼女は顔を下向けて、殊更俺に体重を預けて泣き出してしまった。

 その間俺は、何も言えずに、ただただ動かないことしかできなかった。

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