厄日 前編
ということで週が明けて月曜日である。桜さんとはあの後も連絡を取り、事務所に所属することは親からの了解ももらって確定したのだが、リスナーやファンにはまだ秘密にしている。一応、なにか大きい変化が近いうちあるということは伝えてあるので期待して待っていてくれると嬉しいと思っている。
些細な問題として、昨日の配信中にやっていたゲームが面白すぎて配信をやめられず、今ものすごく眠いことが挙げられるが、まあ多分大丈夫だろう。アンダーテールやめられないんだけど!!
ちなみに俺は電車で高校まで通学している。今の時間の電車は通勤通学中の社会人や学生で溢れかえっているので気をつけなければならない。万が一痴漢とかに間違われようものなら…。
ってあれ…痴漢じゃね?
見ると、長い銀髪をストレートに下ろした明らかにハーフですと言ったような風貌の美少女が、妙に中年のサラリーマンと不自然に密着しながら立っていた。
サラリーマンの手は女性の下半身に伸びていて、一度認識してしまうと痴漢にしか見えない。混雑のためか周りの人は俺以外気づいていないようだ。…見て見ぬふりしているだけかもしれないが。
…しゃーない、助けるか。カバンを頭の上に抱えて、するすると人の間を抜けていく。痴漢をちゃんとスマホで撮影してから、おっさんの手を掴んで睨みつける。
おっさんは、気づかれたことが分かったのか、すぐにどこかへ逃げていってしまった。
「ぁ、ありがと、ぅ、ございます」
可哀想に。きっと不慣れな日本で満員電車に乗ったらいきなり痴漢に会ってどうすればいいかわからなくなってパニックになっていたんだろう(勝手な想像)。
「いえいえ。じゃ、私はこれで」
事態が収束した以上はこの人と話す必要もない。学校の最寄り駅に着いてしまったので、早々に会話を切り上げてドアから急いで出る。
ふぅ。また面倒ごとに巻き込まれてしまった。近づいてみると同年代っぽかったが、ウチの学校の制服を着てたわけでもないのでもう関わることもないだろう。
電車でおきた出来事の反動からか、いつのまにか寝てしまっていた。目を覚ますと、どうやら周りは朝学活をしているようで、先生が話している。いかんいかん。俺としたことが、陰キャに先生が話している最中に寝るなんて許されないのに。
「1つだけ空いている席があったので、皆さん不思議に思っていたと思いますが、そこが今日から皆さんのクラスの新しい一員となるバーベリさんの席です」
ちなみに、一つだけ空いている席というのは俺の右隣の席、黒板を前とすると最後列にして最高列、窓際から2番目の席である。そして俺は窓際の最後列の席に座っている。そしてなぜか、その空いている席の俺じゃない方の隣は存在せず、この2席だけ頭抜けていたのである。
…よく考えると、転校生のなんとかさんは列に自分以外に俺しか存在しないなかで生活するのか。可哀想に。こんな陰キャの隣で、しかも他に隣がいない2人きりなんて。
ドアが開き、そのなんとかが入ってきた瞬間。時間が止まった。クラスメイトのほぼ全員がその美しさに呑まれた。銀髪をストレートに下ろし、制服ではなくなぜか私服で、そしてどこか儚げな美少女。…今朝助けた女の顔があった。
教室に入った彼女と目が合い、彼女が俺のことを見て目を丸くした気がした瞬間。俺は速攻で顔を伏せた。
今日は厄日だと、そう思った。